1980年代から30年以上にわたってソウルで取材を続ける産経新聞ソウル駐在特別記者の黒田勝弘氏が語る。
「今回の釜山の問題は、日本からすると、日韓慰安婦合意に反しており、かつ外国公館周辺への不快行為ということで、国際法にも反しているわけです。
ところが韓国からすれば、一地方の出来事に対して、日本は何を大袈裟に騒いでいるのかと、驚きをもって見ています。
朴槿恵大統領は、自分の任期中に、少女像を撤去しようと努力していました。しかし周知のように現在、職務停止中なので、韓国政府が抑止能力を失っているのです。
さらに、前回の大統領選挙で朴槿恵候補と戦って惜敗した文在寅前代表らが、ここぞとばかりに慰安婦問題合意の見直しを主張し、対日強硬姿勢によって支持率を伸ばそうとしています」
前出の柳氏も続ける。
「いま韓国人は、朴槿恵政権のすべてを否定したいという思いです。慰安婦合意も朴槿恵時代の所産なので、内容を問わず否定したいのです」
だが保守勢力はもちろん、これまで韓国に対して冷静な目を持っていた日本人ですら、今回の釜山での慰安婦像騒動には、「いくらなんでもやりすぎ」との思いを抱かざるをえない。
武藤元大使も、ため息交じりに語る。
「良識ある韓国政府の高官たちは、日韓関係の悪化について、深刻に受け止めています。日韓関係は、東アジアの地政学を眺めながら、理性的に対処していくことが何よりも求められている。韓国に理性的な対応を求めたいと思います」
「週刊現代」2016年1月28日号より