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【首都圏】

戦争の悲惨さを刻んだ証言録 高知新聞、戦後70年企画を1冊に

書籍「秋のしずく」と巻頭にある高知大空襲後を撮ったパノラマ写真の一部分

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 高知県民の戦争体験などを記録した書籍「秋(とき)のしずく 敗戦70年といま」(高知新聞社)が好評だ。満州(中国東北部)移民や細菌戦部隊「七三一」、高知大空襲など多岐にわたるテーマで戦争の悲惨さと平和の大切さを訴えている。

 焼き尽くされて廃虚と化した高知市街地−。巻頭に大空襲後のパノラマ写真が収録されている。敗戦間近い一九四五年七月四日未明、米爆撃機B29は十八万発の焼夷(しょうい)弾を投下し、四百人以上が犠牲となった。説明文で「満州事変から始まった『15年戦争』の、無残な終末である」と書く。

 本書は、同紙が連載した戦後七十年企画をまとめた貴重な証言録だ。先の大戦を「危急存亡の秋」として生き抜いた庶民の目を通して振り返るとともに、アジア・太平洋戦争という視点で日本の侵略と加害の責任にも真摯(しんし)に向き合う。

 戦争体験者が「語る。戦争の時代」では、沿岸の守備隊員だった男性(88)が中国帰りの上等兵から聞いた「捕虜は縛って銃剣で突き殺す」などを回想して漏らす。「自分も中国戦線に行っていたら、虫けらのように人を殺したでしょう」

 だが男性は九一年、高知市の平和資料館「草の家」が募った中国平和の旅に参加した。訪問した馬山は日本軍が侵攻した村で、頬を撃たれて生き残った当時五歳の項さんのあだ名が“半人間”と知る。「村の人たちが恨みを忘れないために。半分は殺されたからです」(項さん)という。

 男性は「真実を知らすことは、国の未来を明るくしていくことなのに…隠すことが国益だと」と憂える。

 後半では「銃後」という名の地域社会も戦争に熱狂したことを検証する。その中で映画監督の伊丹万作が戦後発表した「戦争責任者の問題」を紹介。「『だまされていた』といつて平気でいられる国民なら、おそらく今後も何度でもだまされるだろう」−。憲法九条の誓いが危うい今こそ一読したい問い掛けがある。

 A5判四百ページ。税別千三百五十円。問い合わせは高知新聞総合印刷=電088(856)6573=へ。 (野呂法夫)

 

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