2017年1月25日05時00分
国際会議での採択から6年、発効から2年が過ぎてやっと、日本が合意作りに貢献した取り決めへの参加が見えてきた。
名古屋議定書の話である。
薬の開発など、遺伝資源(有用な遺伝子を持つ動植物や微生物)から生まれた利益について、途上国など遺伝資源の提供側と先進国を中心とする利用側で公正に分け合い、保護と活用を両立させる。そう目標を掲げる生物多様性条約に基づき、適正な利益配分への国内手続きなどを定めたのが議定書だ。
2010年秋に名古屋で開かれた会議で議長国として採択にこぎつけ、「名古屋」の名がついた。温暖化対策の京都議定書とともに、日本が誇る成果だ。
しかし、その後はたなざらしの状態が続いていた。締結国が順調に増え、14年秋に議定書が発効した後も、関係省庁や産業界、学術関係者の意見がまとまらず、国内でのルール作りが進まなかったからだ。
政府はこのほど国内措置に関する指針案を決め、パブリックコメントを受け付け始めた。今後の手続きが順調に進めば、この国会での議定書の承認を経て、締結国となる。
日本の企業や大学が海外の遺伝資源を使う場合、提供国の同意を事前に取り付け、利益の配分条件を決めておく。それに基づいて分け合うのが基本的な手順だ。指針案には、環境省が企業などから報告を受けたり、他の締結国から法令違反の申し立てがあれば情報提供を求めたりすることが盛り込まれた。
提供側と利用側の共存共栄をめざす議定書の趣旨に照らし、指針案に課題がないか。政府は寄せられた意見に耳を傾け、改善に努めてほしい。
それにしても、なぜここまで対応が遅れたのか。
議定書の内容にあいまいな部分があり、産業界などから慎重論が出たのが主な理由だ。懸念には理解できる点もあるが、既に議定書の締結国・地域が90を超え、欧州連合(EU)や英独仏など先進国も多く締結済みである現状を踏まえ、この6年の過程を検証する必要がある。
日本は昨年末、地球温暖化に関するパリ協定の国会承認が遅れ、発効に間に合わなかった。温暖化対策も生物多様性の問題と同様に、かつては日本が議論を引っ張っていた。現状は残念でならない。
国連では、この両分野を含めて「持続可能な開発目標(SDGs)」が定められ、ますます関心が強まっている。官民ともに国際潮流への神経をとぎすまし、意識を高めてほしい。
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