天皇陛下の退位をめぐり政府が設けた有識者会議が、論点と考え方を整理して公表した。

 事実上、退位を認める前提に立ち、「将来の天皇も対象とする法制度とするか、今の陛下に限るか」について、それぞれの積極論と課題を並べている。

 実際は、将来の天皇も対象とする場合の課題をことさら多く挙げる一方、「一代限り」の利点を詳述しており、後者を推しているのは明らかだ。

 朝日新聞の社説は、この会議の姿勢に疑義を唱えてきた。

 一代限りとは、次代に通じる退位の要件や基準を示さず、対応をその時どきの状況にゆだねることを意味する。すると、どんな事態が起きるか。

 容易に考えつくのは、政権や国会の多数を占める与党の意向で、天皇の地位が左右される恐れが高まることだ。決まりがないまま、退位の前例だけが存在する状況は好ましくない。

 ところが論点整理では、逆に「一般的な要件を定めると、時の政権の恣意(しい)的な判断が、その要件に基づくものであると正当化する根拠に使われる」との見解が示されている。

 ルールがあると権力の勝手を許すという主張で、理解に苦しむ。この論法に従えば、世の中に法律や規則はないほうがいいという話にもなりかねない。

 衆参両院の正副議長、首相、最高裁長官らで構成される皇室会議の位置づけも不明だ。

 周囲の強制や天皇の自由意思で退位が行われるのを防ぐ策として、多くの専門家が皇室会議の議決を要件のひとつとする案を示している。これについて論点整理は「三権分立の原則にかんがみ不適当」との意見を対置し、消極姿勢をにじませた。

 皇室会議は皇位継承順位や皇族の結婚、身分の離脱、摂政の設置などを審議する機関だ。

 退位に関する手続きにかかわることが、なぜ三権分立を侵すのか。皇室会議の議によって決める事項と天皇の退位とは、本質において、どこが、どう違うのか、詳しい説明はない。

 このように論点整理には、理屈や常識、これまでの歩みに照らして首をひねる記述が散見される。「一代限り」で事態を収束させたい政権の意向を尊重するあまりの結果ではないか。

 いま提起されているのは、象徴天皇の役割とは何か、その地位を高齢社会の下で安定的に引き継いでいくにはどうしたらいいか、という重い問題だ。

 論点整理がもつ欠陥や思惑を見抜き、多くの国民が納得できる結論に向けて議論を深めることが、国会には求められる。