星空文庫
よるのないくに2 ~新月の花嫁~【Chapter 1】
コーエーテクモゲームス・ガスト 製 作
Knight Azuluna the Abysswalker 編
よるのないくに
―そう。
それはこの世界を象徴する、最たる一つの"言葉"。
かつてあった妖魔と聖女との『聖戦』。
人に仇なす妖魔たちの忌まわしき蒼の力は、聖戦地となったこの世にも、大きな傷痕を残していった。
光差す昼は人が生き、そして、夜の闇中には、人ならざる魔物、『邪妖』たちが跋扈する、
"よるのないくに"。
永年にわたって続く、暗闇の時代を生きる人々は、かつての『聖戦』を指揮した教皇のもとに結束した。
いつか、元の世界が、元の生命が、ふたたび息を吹き返すことを信じて。
それと同じくして、人々たちの間では、一つのまことしやかな噂が囁かれはじめていた。
月の女王なる、時を司る者がいるという。その者が欲す花嫁を手向ければ、今は歪んだ時と自然を、いつかあった暁の時代にまで、必ずや復刻させるだろう、と。
これは、とある闇夜の夢見のまぼろし。
少女たちのもうひとつの物語。
Chapter 1: 紅の乙女、運命の白百合、激昂の黒狼
「はあっ!」
正面から勢いよく飛び掛かってくる一匹に、脳天から刃を叩きつける。
それにいとまをつけぬまま、視界の右端に入ったもう一匹に、大振りの横薙ぎを繰り出した。
煌びやかな玉石のごとき曲剣が描く、月光の輝きを映しとった青光りする円弧は、薄闇色の黒獣たちを無慈悲に切り裂いて、瞬く間に不気味な蒼へとその色を変えた。
「なんだろう。やけに…数が多い」
闇より無尽にほとばしる蒼の中心に立つは、麗しき紅の乙女。
暗夜の中で静かに映える、真紅の長髪を束ねおろした彼女は、湧き続ける黒影に剣を振るい続けながらそうひとりごちた。
いつにも増して邪妖の数が多い。今日という今日の日なのに、まったく都合が悪かった。
なぜなら、今回のこの任務は、私一人だけのものではないから。
「頑張って…アルーシェ!わたしが援護する!」
「ありがとう、リリア!助かるよ!」
目前の邪妖たちに肉薄しつつ、私は横目で、後方からの声の主を確認する。
白い髪、それと同じ純白の戦装束を着た華奢な少女が、小さく何かを口ずさんでいる。
それが唱え終えられた、と思った。
その刹那。
周囲の空間が『崩れ』、そして『歪んだ』。
すると目の前の邪妖たちは、敵前にもかかわらず、不思議な本のからくり人形のような、とりとめのない無防備な体勢を晒し出す。
「今だ、一緒に行こう!」
「ええ!」
私たちは掛け声をつけて、共に邪妖の群れを突っ切った。
「はぁぁあああ!!」
流れるような動作で懐中へと入りこみ、剣を縦横に振るう。
一撃、二撃、三撃四撃。
『動きの鈍った』化け物たちの急所を狙うことなど、いともたやすいことだった。確実に、かつ少ない手数で、夜影が意思を持って動き出したかのような異形の獣たちを、少女たちはひとつ、ふたつと斬り伏せていく。
そして残るは巨大な邪妖、その一匹のみ。
「これで、終わらせるっ!」
紅き閃光は、地を駆け、空を舞い、邪妖のこうべをひと息に貫く。
妖艶な群青色の薔薇が、空一面に咲き誇った。
「…片付いた、か」
「お疲れ様。ケガ、してない?」
ふっと息をつき、血を払った曲剣を静かに背中へと収めると、先刻の"時繰り"の少女―私の親友であり幼馴染でもある『彼女』―リリアーナが、私のすぐそばまで駆け寄ってきた。
「ああ、私は大丈夫。リリアーナは?」
「うん…わたしも平気」
リリアーナはそう言って小さく微笑む。少したれ目な彼女の無邪気な笑顔を見ていると、自然と私も顔がほころんできた。
「ゴロゴロ…ニャ、ニャ」
ふと足元から、けだるそうな低い鳴き声が聞こえてきて、私たちは下を見おろした。
リリアと私の白い脚の間を、首元に赤いスカーフをたなびかせた目つきの鋭い黒猫が、何か言いたげにうろちょろしている。
彼―私の従魔でもある黒猫のネーロは、にゃーにゃーと鳴きながらしきりにこちらの顔を見てくるけれど、もちろん私は猫の言葉なんて知るはずもなく。でもなんとなく、その重苦しい動きからして、彼は疲れているようにも見えた。
「どうした、ネーロ。疲れたか?もう少しだから頑張ってよ」
そう声を掛けながら首根っこを軽く揉んでみる私を傍目に、今度はお構いなしと言った様子で、ネーロは気ままに爪とぎをし始めた。…猫って生き物は、実に何を考えているのかが分からない。結局、お前は私に何を伝えたいんだ?いっそ会話でもできたらいいのに…。
「ヤーヤー!ノータ、シゥド!?」
次は少し上のほうから、幼い女子供のような、そんな黄色い声が響いてくる。
見上げると、そこには宙に浮かんだ緑の妖精が、なにやら激しい感情を体現するかのように、嵐のような勢いであたりを飛びまわっていた。
「レバン、ガルテシン、エゥオ!」
常にだるそうな黒猫とは対照的に、妖精はヤル気の塊とも言えそうなくらい活力的で、見ているだけでも励まされそうだ。少しだけ気疲れしそうなのはご愛嬌。
「今日も元気いっぱいね、フィーユ。頼りにしてるよ」
リリアーナがその妖精ににっこりと微笑みかけると、フィーユはちょっとだけ顔を赤くさせて、ごまかすように彼女のまわりをぐるぐると旋回しはじめた。
そしてひとしきり回転すると、お次は盛大なあくびをかます。
「イム…ネイサナ、ミスャオ…」
そして、リリアーナの肩にぴたっと留まって動かなくなったと思うと、彼女はそのまま眠りについてしまった。言葉の真意は分からずじまいだが、どうやらとっても眠たかったようだ。
のんびり者のフューユがこうして眠りこけてしまうことはよくあることだったが、その無邪気な寝顔を見ていると、どうにも無理に起こすのをいつもためらわれ…。
今回も例によって、そっと寝かせておいた。着く頃には彼女も自然と目覚めているだろう。
「ニャ…ニャ」
珍しく、ネーロも今日は集中できていないようだった。今の状況下では、確かに分からぬ話ではない。
三日続けての旅路を、邪妖を蹴散らしながら歩いてきた。普段そのような機会は多くやってこないし、旅慣れていなくてもなんら不思議ではない。今回の任務は、リリアーナを連れていくということも含めて、久々の長旅の任務なのだ。
「さてと。それじゃ…行こうか。リリアーナ」
「ええ。いきましょう、アルーシェ」
私たち二人は、二匹を連れ立って、ゆっくりとだが確実に、その歩みを進めていく。
目的の地は、教皇庁―そこへと至るまで、もうさほど距離はないはずだった。
3日前。
教皇庁の騎士である私は、とある辺境の地で、幼馴染のリリアーナとともに邪妖討伐の任をこなす日々を送っていた。
邪妖討伐、と言っても、尋常の人間に相手できるのはせいぜい小型から中型妖魔くらいであり、私はそういった細々とした依頼を受け、いたって平凡な生活を続けていた。
そんな中、教皇庁から掛かってきた、一通の電話。
ただその一つの音信が、私たち二人の運命を、大きく揺るがすことになろうとは―
『巫女リリアーナを連れて、出来うる限り早急に、教皇都へ赴くように、と』
その知らせは、地方局長より騎士長室にまで呼び出され、聞かされることとなった。
『…彼女を連れていく?何か大きな戦いでもあるんですか?』
しかし私の直属の上官に当たる彼女は、それに対して大きく首を横に振った。
基本的に、騎士の治癒士である巫女や司祭は、安全な拠点などから動いたりはしない。
ただし、例外的に、強大な邪妖との長期的な、あるいは不浄な蒼血に触れる機会が多くなる戦いにおいては、その支援のために戦の場に駆り出されることがある。
教皇庁より選任された彼女たちは、何かしらの才能があり、なおかつ蒼き血に拮抗しうる、不思議な力を兼ね備えている。だからこそ、支援のための人員としては大変重宝される存在なのだ。
しかし今回の要請は、それらのどれのためでもないという。
『とにかく、すぐに本人を連れてこいとの教皇庁からの命令だ。一刻も早く、巫女を連れてそちらへ向かえ、アルーシェ。私も後から都へ向かう』
彼女の言葉には、どこか物々しい雰囲気が宿っていた。
なにやらとてつもないことへと首を突っ込むことになりそうだと、私は直感で感じとったが、教皇庁からの命令であればこちらに拒否権などあるはずもなく。
名指しされたリリアーナとともに、その日の夜から、私たちは教皇庁へ向かうことになった。
そしてしばらくの道程を歩み。
教皇庁がある都への入口に、私たちはたどり着いた。
内庭へと続く巨大な正門の側には、若葉色の軽鎧を着込み鉄の斧槍をついた女性衛士が二人、警護の番をしていて、私たちのほうをちらちらと伺っている。
そのうちの右側の一人へと近づいていき、私は手を挙げて声を掛けた。
「教皇庁からの要請でやってきた者だ。騎士のアルーシェ・アナトリアと、巫女のリリアーナ・セルフィンという。通してもらえるか?」
改めて、間近でこちらに目を通した彼女は、私たち二人を来訪予定の人物だと判断してくれたようだった。
「…貴女様方は。アナトリア卿と、セルフィン様ですね?遠方はるばるのご足労、お疲れ様でした。お話は伺っています、どうぞこちらに」
彼女は正門のすぐ側に設けられた、衛士たちが使用する小さな出入り扉を通してくれる。
「ありがとう。このところ邪妖が多いみたいだ。立ちっぱは大変だろうけど見張りを怠るなよ」
「ニャ~」
「マサシィエ、レーバンガ!」
「はい。ありがとうございます」衛士の通用行を通った私たちはそのまま、任務の協力者がいるという指定された場所へと向かう。
「確か…合流地点は、ホテル、だったよね?」
隣を歩くリリアーナが尋ねてくる。
「ああ。あまり行ったことはないとこだけど、場所は覚えてる」
騎士長からことづけられたその場所は、都の一角の隅にある、とある小さな宿泊ホテルのことだった。聞いた話によれば、裏の方には騎士や司祭用の寝室もあるようで、武具の保管や道具の補給なども容易に行えるのだという。
ホテルとはまるで建前のような、特殊な構造ではあるが、深い理由はない。ただ教皇庁に反旗を翻す他勢力―この辺りで言えば、主に『ルルドの騎士』と呼ばれる者たち―からの偽装の意味合いがあって、こういった家屋などが指定地にされることは珍しいことでもなかった。ちなみに、一般客も予約をすれば泊まれることには泊まれるが、場所や内装の関係でそれほど人気はないようだ…。
そして同時に、それは今回のこの任務が、秘密裏で行われていることに他ならないことも意味していた。
(やはり、何かが…?)
ほどなくして、その酒場のもとへとたどり着いた私たちは、丁寧に手入れされた焦げ茶色の木製扉を押し開けた。
はじめ真っ先に目に入ってきたのは、小洒落たカウンターテーブルだった。
背色はシックなワインレッドと、暗めのターコイズブルーを基調とさせ、金色の合金を細部に施し、絶妙な意匠が図られたそれは、見つめているだけでも薄くほろ酔いに浸れそうな、独特の魅力を宿していた。
そしてカウンターの奥には、真っ黒の燕尾服をすらりと着こなし、眼鏡をかけた茶髪の女性が、静かに立ち佇んでいる。彼女が今回の協力者なのだろうか?
「お待ちしておりましたよ、お二人とも」
彼女は仰々しく深いお辞儀をして、私たちを出迎えてくれる。
「…例の要請でやってきた。あなたが教皇庁からの協力者か?」
「ええ、初めまして。私は、教皇庁配下の一介の研究者であり、このホテルのオーナーを務めさせていただいている者です」
「研究者?」
自信あり気に自己紹介をする女性に、リリアーナが首をかしげる。
聞くと、彼女は騎士所属の人間ではないらしい。自分は肉体よりも頭脳派だと、ずいぶんと大仰な身振り手振りを交え、特に強調して言っていた。
「そうか。もう知っているとは思うが、私はアルーシェ・アナトリア。こちらはリリアーナ・セルフィンだ。それで、私たちはこれから何をすればいい?できることがあるのなら教えてくれ」
緊急的な要請に応じて来たはいいものの、その事前情報は僅かなものだった。すぐさまリリアーナと教皇庁へ。合流地点はこのホテル。従魔は必要不可欠、ロジエクロックを忘れるな。…これくらいか。
「そうですね…。ひとまず、長旅の疲れもおありでしょうから、個室のほうにてお休みになってください。教皇庁の計らいで、今はスイートもどこも貸切の状態ですよ」
「なんだって?急いでるんじゃなかったのか?」
急いで来い、と言った矢先に、貸切までして、今日は休めとは…?オーナーの、教皇庁の言っている意味がわからなかった。
「…詳しくお話しはできませんが、今はゆっくりと、横になられてください。教皇庁の騎士や巫女と言えども、無理をすると体に毒ですよ」
「…どうしても、わたしたちには教えられないことなんですか?そのことは…」
どこか怪しげな女に対して、リリアーナが思いきったように声を放つ。
「ええ、申し訳ありませんが、その通りでございます。わたくしは貴女様方のご来訪を報告するために、一度教皇庁へ向かいます。…それでは、お二人は、どうぞごゆっくり。大浴場があるのでそちらもお勧めしますよ」
なにやら強引に言いくるめられたような気がしたが、言い返す間もなく、彼女はすぐさまホテルを後にしてしまった。
「なっ、ちょっと待て!」
やがて残るは、少女と、夜と、従魔と。
二人と二匹は、協力者のいなくなった静寂の中に、見事に置いてけぼりにされてしまった。
「はぁ…」
毎度のことだが、教皇庁というものは、何を考えているのかよくわからない。表向きは対邪妖の唯一組織ではあるが、裏方の事情を、ほとんどの人間は誰も知らない。騎士の私でさえそうだった。
「ニーノ…イイモテレ、クテェシオ」
置いてけぼりにされた妖精のフィーユが、不安そうな表情を見せる。
「ニャ?」
黒猫ネーロはどこ吹く風。見ればもう毛づくろいを始めていて、何の気にも留めていない様子だ。こういう時には、マイペースすぎる猫のお前が少し羨ましくなるよ。
「ひとまず休むしかない…か」
協力者も、まともな情報支援もない今の状況では、そうするのが最良だと思われ。
「とりあえず…おふろ、入らない?さっきの人も、お勧めって言ってたし」
「そうだね。髪も肌もべたべたで、もううんざりだよ…」
私たちは併設されているという、浴場へと続いているらしき扉へと向かった。
浴室への扉を開けると、ほんのりと暖かい熱気が素肌の上を流れていった。
白い湯気のたちこもった石造りの広間には、数十人は入れそうな大浴場が広がっている。
「うわぁ~…おっきなおふろだな」
私はその大きな湯船の近くにまで歩いていき、足をそっと浴槽に入れて、そのままゆっくりと身体を浸からせた。
「ふぅ、気持ちいいなー…」
久しぶりのおふろ。あんまり気持ちがいいので、思わず一人で、とある歌を口ずさんでいた。
…ai predge ku'el wais nil feel ruen vail gnow lee-ya…
教皇庁の騎士になったばかりのころに命を救われた、紅装の騎士と、亜麻髪の司祭。彼女たちから教えられた、不思議な歌。歌曲の名前は約束、みたいな意味らしい。
なんて言ってるかはわからないけど、一つ一つがとっても美しい語感に感じられて、以来忘れられない素敵な歌詞の一つとなったのを覚えている。
「ふんふんふん…」
パシャパシャ―
「…え、えっと。久しぶり…だね、一緒に入るの。なんだかちょっぴり…はずかしいな…」
ふと隣から聞こえてきた、よく通る澄んだ静かな響きに、耳がぴくりと反応した。
「あっ…リリアーナ」
恥ずかしそうに苦笑しながら、両手で胸元を隠したリリアーナが座っていた。
「私は気にしてないから、大丈夫だよ。というか今さらじゃん。私たち何年やってきたと思ってるんだよ、も~」
「ご、ごめんなさい…でも、やっぱりこんな格好じゃ…」
少しだけ頬を赤らめた『彼女』は、私の左側に浸かる。
「まだ何か着てるだけマシでしょ?私は別にリリアが裸でも気にはならないけど。何なら全部脱いでもいいよ?」
笑いながらそう言ってやると、案の定、『彼女』は顔を真っ赤にして瞳をつぶる。
「あはは、冗談冗談。この水着を着るのにも意味があるからね」
浴槽に浸かっている私たちはそれぞれ水着を着ているのだが、これはただの水着ではなく、戦闘用の調整が図られた特殊な、いわば防具に近い性質を持っている。
つまり浴水中でもいざとなればこの格好で戦えるようにしているらしいが、そんな機会は今までで一度もないのが実のところだった。というか、もしそんな機会があったとしても、すぐにいつもの戦装束に着替えるだろうし…。いくら外が無人とはいえ、水着一枚で戦うなど、痴女っぷりにもほどがある。
「本当は何も着ないで入りたいんだけどなあ~」
教皇庁の騎士や司祭は、任務中や夜の間に衣服を脱いだりする場合、この戦用水着を着用することが半ば義務づけられている。つまるところ、おふろに入る時もそうなのだが、水着のくせに結構ゴワゴワしていて、正直今すぐにでも脱ぎ捨ててしまいたいくらいだ。
「わたしは…このままで、いいかな?」
小さな手のひらでそっとお湯を肩にかけながら、自然と私に微笑みかけてくるリリアーナ。
(…!)
まるでお人形さんのような、そして子供のように幼顔の無垢な表情が、なんだかとっても可愛らしくて…。
じっと『彼女』の瞳を見つめたまま、私はゆっくりと、リリアのもとへに身体を寄り添わせていく。
「…あ、アルーシェ…やだ…ち、ちかいよ…」
「…いいじゃないか。こうして水入らず、ゆっくりと過ごすのも…。もしかしたら、もう一緒にいられなくなる時も来るかもしれないんだよ…?」
上半身を密着させるようにして、『彼女』の首元に、そっと両手を回す。
「そうかもしれないけど…でも!…こ、これは…」
噴火間際の活火山のように頬っぺたを赤く染め上げた『彼女』は、今にも倒れこんでしまいそうだったが…私は止まらなかった。
バシャ―
「アラアラ~!トコイーイデ、リータフ!」
その時、少し手前の湯船から、きゃっきゃっと嬉しそうな、高い声が聞こえてきた。
「ウニャ~…ニャルニャア~」
今度は喉の奥から低く鳴らされる、猫舌を巻くような、そんな鳴き声。
「…ん?」
「…えっ?」
私たち二人は、その声が聞こえたほうへとすぐさま振り向く。
「…なんで、あんたら、おふろの中にいるのよっ」
大浴場のど真ん中のあたりに、黒い子猫と緑の妖精がぷかぷか浮いている。
もちろんそれは…私たちの従魔、フィーユとネーロだった。
柄にもなく、私は焦って妙な声を上げてしまった。
それもそのはず。猫や妖精と一緒におふろに入る趣味なんて、これっぽっちもない!そのうえ、自分の従魔たちとだなんて…。
人と入ってるわけでもない、オスかメスかも分からないのに…。しかし、やはり彼らが、私にとって身近な存在であったからだろう。
おかしな話しだけど、私は変に気恥ずかしくて、ぽっと顔が熱を帯びていくのを感じた。
「あっ…あ、あなたたちも来ていたのね!う~ん、やっぱりいい子いい子!なでなでしてあげますからね~!」
リリアーナが、まるで救われたと言わんばかりに、呆気にとられていた私の腕の中からすっとすり抜けて、二匹のもとへと小走りしていく。
「ニャア~」
「ヤー!イシレゥ!マーサン、ジュシゴ!」
結局、ぽつんと端っこに残されたのは、私一人…だけ。
「せっかくいいとこだったのに…!はやく出てってよ!」
「…はぁ。散々だった」
あらかじめ持ち込んでおいた軽装に着替え、背中に剣を収めると、私は一度、ホテルのロビーへと戻る。
「オーナー、まだ来てないのか」
オーナーの姿はない。報告とやらは終わっていないようだ。
(…しかし、なぜだろうな)
先ほどのやり取りと、オーナーの言葉を思い出す。
やはり、不自然だ。
私たちも作戦執行の当事者の一人であり、正しい道理であれば、彼女のもとに立ち会う必要があるのではないだろうか。急ぎの任務ならなおのことだ。
もういっそ教皇庁に向かってしまおうかとも考えたが、一度屋内を回ってみたところ、このホテルには私たち以外の人間はいないらしく、今ここを空けていくのはまずい。教皇庁の建物であればどこからか不埒者が侵入してこないとも限らない。ホテルの中に残るしかなさそうだった。
「…アルーシェも、心配なの?」
すぐそばから聞こえてきた『彼女』の声。私はそちらを振り向いた。
いつのまにか、リリアーナがすぐ隣にまで来ていた。…さっきのことは、気にしないでくれているようで。私も少しどうかしてたよ…。
「ああ。何か…不自然だと思わないか。今回の任務」
私はちょうど思っていたことを『彼女』に話してみる。
リリアーナも、それなりに経験を積んできた教皇庁付きの巫女の一人だ―私より可愛いからって侮れない。自分なりに、いろいろな視点で物事を考えている。
困った時には、『彼女』の言葉にも耳を傾けることにしていた。
「不自然…確かにそうだね。いつもはすぐに仕事の内容を教えてくれたのに…何か、あるのかな?」
んー…と考え込んでいるが、今回ばかりはリリアーナにも、それ以上は思いつかなかったようだ。
「でも、そういう時もあるんじゃない?私たちが今まで経験していなかっただけで」
リリアーナは小さく笑いながらそう話す。
「そう、なのかな?」
だからとはいえ、今回は不可解なことが多すぎる気がする。
最近になって急速に増えはじめた、邪妖たちの数―
緊急性や秘匿性のある任務とはいえ、その内容の一片の欠片も、教えてくれる人はおらず―
巫女を連れても、大きな邪妖狩りに遠征するわけでもなく―
それでいて―なんだろう、この胸騒ぎは―
「アルーシェ…?」
「…ん?ああ」
「大丈夫?顔色が…良くないよ」
リリアーナが心配そうにこちらを見つめている。
「大丈夫。私は大丈夫だから、安心して」
私はカウンターに並べられた椅子の一つに座り込んだ。その隣に『彼女』も腰掛ける。
(考えても仕方ない。今はオーナーの帰りを待つしかないか)
色とりどりのカクテルグラスをぼんやりと眺めていると、ふと後ろで、扉が開く音がした。
「…あっ!」
リリアーナが思わず声を上げる。
つられて振り返ると、そこに見えたのは、
オーナー、ではなく。
(…誰だ?)
黒い外套を深々と被った人物が、顔を隠すように俯きながら、ゆっくりとこちらに歩いてくる。
丸く柔らかなシルエットからして女性のようだ。そしてまとう雰囲気からして、私と同じくらいの少女だと思える。
腰元には、何やら不思議な形をした双刃が収められていた。騎士の一人なのだろうか。
「…ここか」
そうとだけ呟いて、少女はカウンターのほうへと近づいてくる。
そして椅子に座る私たちの少し手前で立ち止まった。
「そこの二人。ここのオーナーはどこにいるか、知っているか?」
フードの暗がりの中で瞳を隠したまま、彼女は私たちに向かって問いかけてくる。
「オーナーなら今席を外してる。あなたは?ここは今、貸切の状態のはずだけど」
「私はただの一般客だ。お前が気にすることではない」
「…そんな言い方しなくても」
なぜか威圧的な態度の彼女を、私は少し怪訝な表情のまま見上げる。
つんとした雰囲気の彼女の瞳は、腕を組みながら、高圧的な目線で私を見下ろしてきているようだ。
しかしその顔つきには、どうしてか一切の感情というものが、抜けているように思えた。
「オーナーはどこにいる。答えろ」
何が癪に触ったのか、もはや尋問のような言い方に私は少し辟易したが、ここは素直に答えたほうが良さそうだと思い。
「…彼女は教皇庁に向かった。それだけだ、もういいだろ」
「そうか…やはり」
もう何を聞かれても答えないつもりできっぱりとそう言うと、ちょうど彼女も聞きたいことは聞けたのか、その後は何も言わず、そして何の表情も浮かべず、すぐさまホテルを後にしてしまった。
「…なんだったんだろ、あの子」
リリアーナが恐々といった様子で入り口を見ている。
「世の中、いろんな人がいるからね…いちいち気にしてたらきりがないよ」
私は腰に両手を当ててため息をつくしかなかった。
カランカラン―
ちょうどその少女が出ていくのとすれ違いに、ホテルの扉に併設された来客を知らせるベルが鳴り響く。
どうやらオーナーが帰ってきたようだった。
「お待たせいたしました…お嬢様方」
鐘の音と、オーナーの声が聞こえてきた出入口のほうを、私たちはもう一度振り返る。
「突然でございますが、お二人に『教皇様から』、来庁のご命令がくだりました。今すぐ出立の準備をしてください」
オーナーの黒い燕尾服姿を目に収めたかと思うと、彼女はいきなりとんでもないことを抜かした。
「…何言ってんだ。冗談だろ?」
帰ってきて早々、何を言い出すかと思えば…教皇が直々に、私たちへと指令を出しただと?
リリアーナを見ると、『彼女』も拍子抜けしたようにポカンとしているようで。
「冗談ではありません。すぐさま教皇庁へと来るように、とのご命令です」
「ありえるのか…そんなこと」
通常ならば、そこいらの騎士たちが教皇にまみえる機会は、ほとんどない。
ほとんど、というより、生涯で一度あれば幸いなものか。実際私だって数年ほどこの仕事を続けているが、いまだ一度たりとも謁見の機会はなかったし、これからもずっと、ないものだと思っていた。
(やはり…おかしい)
改めて、今回の任務がいかに異常なものであるかを再確認するとともに、教皇から勅命される要務とは一体何なのか、今度はそれが気になってきた。
「ところでさ。オーナーは今回の任務の内容は知っているのか?一体何なんだよ、教皇様にあいまみえるほどの『任務』とは…」
オーナーに問いてみるが、彼女はただ、首を横に振るうばかりだった。
「わたくしも詳しいことは聞かされておりません。ただ貴女様方を、教皇庁へ連れてくるようにと」
「…そうか」
どうにも納得できなかったが、今は行くしかないのだろう。
即座に覚悟を決めて、私はそっと、右手で背中の剣の柄元を確かめた。
「夜は都にも邪妖が出ます。どうかご注意を」
「言われなくても分かってるよ。こちとら騎士だぞ?研究者さん」
ホテルの外に出た私たちは、すぐに教皇が座する教皇庁の本殿へと向かう。
ここまで来る時は運よく一度も邪妖と遭遇することはなかったが、二度とは続かないだろう。十分に警戒する必要があった。
教皇庁の大門が面する中央広場へと向かうため、私たちは家屋の路地裏や様々に区分けされた都の街中を駆け抜けていく。
そして道中には、件の黒い化け物。『邪妖』たちがこちらの命を奪い取ろうと、闇夜の内から勢いよく襲いかかってくる。
しかしその多くは、私たちには取るに足らない雑魚ばかりだった。こんなもの準備運動にもならない。
「一気に行くよ」
二人にそうとだけ言って、頷き返したのを確認すると、私はさらに駆ける速度を上げていった。
そしてしばらくの後。特に何事もなく、私たちは教皇庁の入り口手前へとたどり着く。
「…さすが、歴戦の騎士様。あっという間に着いてしまいましたね」
オーナーが素直に称賛の声をかけてくる。
「どうってことはないよ。むしろこれくらい出来なきゃ、この稼業じゃ生きていけないからね」
冗談抜きにして、本当にそうだと思えた。
これでも今まで戦いの中で、あわや殺されそうになったことは数え切れないほどある。邪妖狩りの騎士は、賞与はそれなりだがとてつもなく危険な仕事だ。もし自分の子供ができたとしても、決して就かせたくはない仕事だろうとは思う。
「とにかく着いたし、中に入ってみるか」
私たちは都に入る時と同じように、門を守る衛士に事情を話すため、ゆっくりと教皇庁の入口へと近づいていった。
三人と二匹は庁内へと入っていく。
入口の大門近くの広間には、護衛の騎士と、いかにも高位の官職らしき上級騎士や司祭の姿がちらほらうかがえたが、それ以外の人影はほとんど見受けられず、深夜の静寂も相まって、辺り一面はしんと静まりかえっていた。
「このまま、真っ直ぐお進みください。奥に見える大扉が、謁見の間への入り口でございます」
内装もさながら宮殿といった出で立ちのこの場所には何度か訪れたことはあったが、謁見の間もおそらく中央にあるのだろう。オーナーの案内から判断しても間違ってはいないようだ。
指示にしたがって、私たちは目前に見える白い開き扉へと足を進ませる。
「なんだか…緊張するな」
少し肩をこわばらせたリリアーナが、教皇が鎮座しているという謁見室へと続くらしき扉を見つめている。
「大丈夫、私がついてる。何が教皇だよ、適当にひざまづいて相槌打ってりゃいいんだ。…たぶん」
オーナーに気づかれないように、『彼女』の耳元で小声のままそう言うが、実を言えば私もなかなか緊張していた。
分かってる、これがただの強がりだということは…。でも言うだけ言ってみることで、硬い雰囲気がほぐれることもあった。
「あはは…アルってば、本当に無鉄砲なんだから」
まだちょっとだけひきつっていたけれど、リリアーナは笑っていた。
「…そう。それでいいんだ。いつも君が笑っていれば、私はそれでいい」
「…?どうしたの急に?」
「ああ、いや…なんでもないよ、疲れてるのかもね」
「来たか、アルーシェ。待っていたよ」
なぜだか変に感傷的になってしまった気分を改め、前に向き直ってオーナーの後ろに連いていると。
突然、視界の外の何者かから声を掛けられ、私はそちらを振り返った。
「…騎士長?」
謁見の間への扉の側に立つ、一人の女性。私を呼び掛けたのは、どうやら彼女のようだった。
儀礼用の青い鎧を着こなした女騎士―私の上官である騎士長は、小さく右手を上げた。
「もう来ていたんですね。…どういうことなんですか、これは」
ろくな挨拶もなしに、ぱっと反射的に、私の口からはそうとだけ言葉が飛び出してきた。それもそのはず…当然だろう。
急ぎの任務と聞いていざ来てみれば、ただの一騎士が、教皇から直々に本庁へと呼び出される始末。むしろこの状況下で、これが意味するところを聞きたくならないほうがおかしいと思う。
「…すまない、アルーシェ。何もかも知らせずに現地へと送り込んでしまって。しかしな、実のところこの私でさえ…ろくな情報を聞かされていなかったんだ。今回のこの任務は、何かよほどのものがあるぞ」
彼女は言いながら頭を抱える。いつも頼りになる騎士長がここまでして深く悩み込むのも珍しい。
これまでの流れからして、教皇が緊急的に私たちを召集した任務であることは理解した。だけれど肝心のその内容を、教皇は他の関係者の誰一人にも伝えてはいなかったらしい。一体どういうことなんだ?
…分かることと言えば、確かに彼女が言うように、これから『よほどのもの』が待ち受けているだろうことは、私にも容易に想像できた。
おそらく易々と公にはできない後ろめたい事情があるからこそなのだろう。だから信頼できる者達を教皇庁へと集わせた。
そして今まさに、その全員が集い、本殿への扉を開かんとしている。
「いいか…謁見で何を言われても、お前は黙って従わなければならない。…それが、どんなに苦しかろうと、困難であろうと、一切関係ない。それが『主従』のあるべき姿だからだ」
何かを悟ったかのように、騎士長は、最後の教えを説くような口調で、私たちに続けた。
「天高く煌めく明星は常に我らを照らしている。暁の騎士たちよ、真なる夜明けはきっと近いだろう。教皇陛下に栄光あれ」
「…よろしいでしょうか。それでは中に入りましょう。くれぐれも無礼のないように」
大扉に手を掛けて待っていたらしいオーナーが、後ろにいた私たちに振りかえり、改めて用意が整ったかを確認するように一同の顔を見回す。
少女たちは無言で頷いた。
一拍置いてオーナーも頷くと、彼女は扉に向き直り、両手でそれを押し開けていく。
石と石が擦れる低く重い音とともに、少しずつ開かれていく、真白い輝石の扉。
そして、長い長い数刻を経たのち…ついに、その全てが開かれた。
「ここが…」
そこは、思っていたよりも広がりのある空間だった。
扉と同じように、全体は白く光る石材で作られた内壁や石畳で覆われており、ところどころに薄い紅と蒼のカーテンが下げられた採光用の大窓や、神聖な雰囲気のただよう大きな丸いステンドグラス、それに大きな燭台が見られる。
しかし、逆に言えばここにはそれ以外の物が一切なく、綺麗な形に整えられた窓縁や雪のように真白い壁床の意匠からしても、極限にまで無駄をなくし洗練された、ある種の様式美のようなものを、この大広間から私は感じとった。
「きれい…」
隣のリリアーナも思わず見とれているようだ。確かに一面きらきらと光ってはいるけれど、昼間に来れば眩しそうな気もする。教皇はこんなところにずっといて大変じゃないんだろうか。
扉を閉め、先に進むオーナーに続くようにして、床に敷かれた紅いカーペットの上、私たちは歩みを前へと継いでいく。
視線の先には、なにやら大きな三本の白柱が見える。
そしてちょうど真ん中の大柱の上には、ひとつの玉座が伺えた。
不思議な形をしたその巨大な玉座のもとには、教皇と思しき一人の人物が、向かってくる私たちを静かに見守るようにして、優しげな視線を送っていた。
純白の部屋とは対照的な漆黒の装束をまとい、覆いのようなもので目よりほか全てを隠した教皇は、どうやら女性であるようだった。
少し皺の寄った目元しか見えないので詳細な年齢は分からないが、少なくとも私よりは上、それもそれなりの高齢であることは明らかなようだ。
「教皇様。陛下が御所望された騎士と巫女二人をお連れいたしました」
オーナーは視線を下にしたまま、教皇に向かって深々と、貴人さながらの、見たこともやったこともないような一礼をした。
ふと見ると、リリアーナや騎士長までもが同じようにして頭を下げている。何もしていないのは私だけだ。
「…アル!一礼して…。教皇様に目を向けちゃだめよ…」
リリアーナが小声で礼を促してくるのが小さく聞こえてきた。その声音がやけに必死そうだったので、私も慌てて頭を下げて、見よう見まねで一礼する。
(…もしかして、もう恥ずかしいことしちゃったかな…?)
それすらも分かっていない。ただひざまづけばいいものだと思っていた。
まったく…剣を振るうことだけじゃなく、礼儀作法も日頃から学んでおくべきだったが、人生に一度あるかないかの謁見のために儀礼なんて覚える必要もないじゃないか、とも思う。それよりもいかに自らの剣術を磨き上げていくか、戦士にはそちらのほうが実に大切だった。
「…ご苦労様でした。その姿勢のままでは疲れるでしょう。全員、顔を上げて。楽な格好で私を見てください」
ずいぶんと歳不相応な、若々しい女性の声が、白い広間に響き渡る。
まさかそんなことは言われるとは思ってもいなかったので、少しだけどきりとしたが、こういう時は果たしてどうすればいいのだろう。少し迷ったが、リリアーナたちが顔を上げる気配がしたので、私もそのまま頭を上にした。
「はじめまして、騎士さん、司祭さん。まずはじめに、突然の呼び出しをお詫びします。申し訳ありませんでした」
彼女は私たちに向かって瞳を閉じながら、謝罪の言葉を述べた。これにはオーナーや騎士長も驚きを隠せなかったようで、全員が何も言うことができずに、黙りこんでしまった。
まさしく破茶滅茶である。急いで教皇庁へ行けと言われ、向かえば教皇との謁見に呼び出され、そしてその謁見ではいきなり教皇が自分たちに対して謝ってくる…なんてこと、今までもこれからも二度とないだろう。
しばらくしてから、すっと瞳を開いた彼女は、何一つ物音しない深い閑静の中で、ゆっくりと口を開いた。
「…わかりきっていることでしょうが、騎士と巫女である貴女たちを呼び出した理由は、もちろん、ある『邪妖』に関する任務へと就いていただきたいためですが…もう一つ、『とあるお話』を、聞いてもらうため」
『とあるお話』…?
「この任務に関係するお話です。ことの始まりは…単なる都の噂話の類いでした…」
近頃、都ではある『噂話』が広く流布されておりました。
由来も知れぬ、 根も葉もない噂でありましたが、徐々に広まっていくにつれ、日夜多くの人々がそれを口にし、勢いの途絶える一途を知りませんでした。今でこそ、話題の熱は下火になって参りましたが、少し前までは、一歩外に出れば誰彼構わず、この噂を口々に話していました。
…時を司る、『月の女王』がいるという。その女王に『刻の花嫁』を嫁がせると、この世は救われるだろう、と。
まるで、本の世界だけの、幻のようなものでしたが、都では思いもよらぬほどに広がっていったのです。
あまりの人々の噂への心酔ぶりに、ついに教皇庁でも、内密に『月の女王』について調査する捜索騎士部隊が結成されました。
もし本当のことであれば、またとないこの世の復刻の機会…本庁のほうでも出来る限りの力をもって、探索にあたりました。
そして…それはなんと、現実のものとなったのです。
更に教皇庁が調査を進めたところ、この言葉の裏には、もう一つ、異なる意味がありました。『花嫁』とは婉曲的な隠語であり、つまりは『生贄』の類いでした。
…ここまで聞けば、もうお分かりでしょうか。貴女たち二人を、ここへと招いた理由が…。
「……!」
ようやく、今回の任務の全容が伝えられた瞬間だった。
そして、はっと心の中の理性が、打ち砕かれる直前でもあった。
「アルーシェ…」
『彼女』は私の名前を呼んだきり、無言のまま。
「…それは、その『生贄』とは、私たち、どちらの定めなのでしょうか」
真っ白になった頭の中で、なんとか言葉を見つけ出す。それから必死に口を動かした。
教皇は、神妙な面持ちの内に、どこか苦渋な表情も宿したまま、私の声に答える。
「巫女、リリアーナ・セルフィンさん。貴女は他にはない、稀有な『時繰り』の力をお持ちですね。『彼女』は、それを望んでいます」
「そんな…!!」
膝下から、力なく崩れ落ちた。
中腰のまま、うなだれるようにしてへたり込んだ。
身体に全く力が入らない。心折れた者の末路とは、恐らく、このような無様な姿なのだろう。
「…はじめ、私は貴女たちに謝罪を申し上げました。しかし、それだけでは済まされぬほどの艱難を、私は貴女たちに押し付けてしまうことになりました。いくら言い繕っても、誤魔化せるとは思ってはおりません」
教皇は、陰鬱な表情のまま、顔をうつむかせる。
「ですが、これは、この世の全ての人々のためなのです。リリアーナさん。貴女のその尊き生命が、この世界の刻みこまれた蒼き呪いを必ずや払いのけ、全民はきっと救われるのです。…どうか、ご覚悟を、お決めいただけないでしょうか」
「…」
『彼女』は、それを聞いても、何も言わないままだった。
…だったら…私が…!
「…申し訳ありませんが、教皇様。私はこの任務を拒否いたします。『彼女』の命を奪うことなど、私には到底できません」
地に手を突いて、ゆっくりと身体をもたげた私が、『彼女』に変わって返答する。
そのまま即座に踵を返して、リリアーナの右手を掴みとった。
『彼女』は、まだ何も言おうとしない。
「何をふざけたことを…!アルーシェ、自分が今何をしているのか、分かっているのか?!」
騎士長が感情を露わにして、私へと怒鳴り込んでくる。
だけど今の私には、もはや、どうでもいいことだった。
「…だったら…だったら私を、リリアの代わりに今ここで殺してっ…!殺してよ…!さあ早く!」
気持ちの高ぶりを抑えられずに、私は騎士長のもとへと歩みより、その肩元を握りしめる。自分でも不思議なくらい、腕には力が込められていた。
「…アルーシェ…!」
騎士長は、戸惑う顔を隠せていなかった。
「…どうして。どうして…?私の一番大好きな親友を、この手で殺さなきゃならないの…?おかしい…おかしいでしょ…こんなこと…ぜったい…ありえない…」
騎士長の身体にもたれこむようにすると、すうっと身体じゅうの強張りが抜けていった。
そして無意識の内に、目元からは涙が溢れ出してきた。
「…アル…」
やわらかく抱きしめてくれた騎士長の胸元で、こぼれ落ちる雫が、止まることはなかった。
「…ごめんなさい…」
『彼女』を、生贄に捧げる。そんなこと…できるわけ…!
「…教皇様。わたくし、巫女リリアーナ・セルフィンは、このご勅命をお受け賜ります。…陛下のご期待に添えるように、全身全霊を尽くす所存です」
「…リリアーナ!!」
その言葉を聞いて、流れる涙が一瞬にして止まった。
騎士長のそばからすぐに『彼女』のもとへと駆け寄る。
「…いいのよ、アル。貴女が気に病まなくても。わたしように、この不思議な力を持つ者は、きっとはじめからこうなる運命だったんだわ」
リリアーナは、半ば諦めたかのように、小さく微笑みながら、かすれた声で私に話した。
「それに、賭けてみる価値は、十分にある。教皇様がこう仰っているのだから、決して間違いはないはずよ。だからわたしは…いくわ」
「…駄目だ。君が良くても、私が許さない」
私がそう言っても、リリアーナの、断固たる意志が如実に現れた面持ちが変わることは、決してなかった。
「いいえ。私は、いく。たとえ貴女と絶交になっても。これは、この世界を救う唯一の希望なんだわ。意味もない、永久のように続く邪妖殺しは、もう嫌なの…」
「………」
『彼女』はそう言って私を振り切るように、数歩教皇のもとへと足を進め、そして改めて跪いた。
「そう言って頂けて、大変僥倖です。強き絆の騎士と巫女に、太陽あれ」
教皇はそこで初めて、私たちに微笑みを見せた。
「どうして…」
「お疲れ様でした…。お二人は、お休みされることを優先するべきでしょう。お部屋は専用のものをご用意しておりますので、ひとまず、そちらへ」
その後、私たちはもと来た道をそのままさかのぼって、例のホテルへと帰ってきた。
騎士長はこの『護衛任務』に際して他にやるべきことがあると言って別れ、教皇庁に向かった時と同じ、三人と二匹へと戻った一行は、たどり着いたホテルの扉を押し開ける。
入るやいなや、オーナーは急ぐように私たちをホテルの個室へと案内する。
うつむいたまま、顔を上げようともしない『彼女』。
細く、冷たい腕を掴んだまま、しかし私は何も言うことができなかった。
「…アルーシェ。わたしは大丈夫よ。お部屋に、行きましょう」
『彼女』のその手は、小さく震えていた。
「本当に…本当にこれで、良かったのか…?」
彼女は、何も言わない。
ただ黙って、私の瞳を、見つめつづけているだけだった。
ホテルの個室に通された私たち。
休め、と言われても、到底心持ちは休まるはずもないまま、私たちはベッドで横になっていた。
「…リリアーナ。眠れそうか?」
あれから一言も言葉を発しようとしない彼女に、声をかける。
リリアーナは、閉じていた目を静かに開いて、私を見つめた。
「…大丈夫だよ。アルーシェ、…ありがとう」
ほんの少しだけ、微笑んだ彼女。
しかし、その双眸からは。
「……!」
頰を流れる、一筋の雫。
「ねえ…アルーシェ」
天井を見上げた彼女が、淡々とした口調で、話しはじめた。
「最愛の人と、近いうちに別れ離れになる運命なら、あなたは、どうする?」
「…その運命ごと、変えてやるさ。最愛の人と別れ離れになるなんて…誰だって…したくないだろう…」
「そう…すごく、アルーシェらしいね」
彼女の声は、かすれていた。
「…その言葉が聞けて…嬉しい…貴女のような人を好きになれて…良かったわ…」
『彼女』は、そっと私を抱きしめてくる。
そのまま自らを嘆くように、慟哭した。
リリアーナは、その晩、ずっとずっと、声を上げて泣き続けた。
コンコンコン…
日が昇り、空が明け始めてきたころ。
聞こえてきた一つのノックの音で、私は目を覚ました。
「こんな時間に…」
ベッドに横たわらせていた身体を起こす。よく眠ることができなかったせいか、体中が重い。
リリアーナはつい先ほどまで泣いていたらしく、目の下は真っ赤だったが、今は眠っているようだ。
「どうぞ…」
彼女を起こさないように、小さな声で返事を返したが、一向に扉が開く気配はない。
「…?」
一応、木のドアをゆっくりと押し開けてみるものの、そこには何の人影も見えず。
「なんなんだ…まったく」
そう言って、私は扉を通り、部屋の中へと戻ろうとした。
が。
「動くな」
背後から飛んできた、思いもよらぬ冷徹な言葉。
その場は一瞬にして、極寒の凍土のように凍てついた。
「手を上げて部屋の中に入れ」
私は言われた通りに動く。背の一点に感じる冷たい感触は、どうやら鋭い剣先が突きつけられているらしい。
下手をすれば殺されかねない。戦おうにも手持ちの武器がない。やり場のない気持ちがこみ上げてきたが、今は、後ろの闖入者にそのまま追従していくほかなかった。
「…よくこの部屋まで来れたもんだな?ルルドの精鋭か?」
「口を開くな。黙って部屋の隅々を回れ。変な気は起こすなよ」
悪態をつくように軽口を叩くが、相手はいたって平静を保っている。
「……?」
夜明けの薄闇で、静かに響き渡るその声には、どこか、聞き覚えがあった。
(…まさか?…)
後ろの『女』が、個室の扉を閉める。ここはもう密室の状態になってしまった。大きな騒ぎでも起こさない限り、他の部屋の人間には易々とは気づかれないだろう。
「行け」
手と刃先で背中を押され、私は前へと進む。
ゆっくりと部屋の中央まで進んでいくと、窓から差し込む仄かな朝日で、二人の顔が照らし出された。
「…!」
突き立てられた剣先の震えから、明らかな『動揺』を、私は感じとった。
「…アルーシェ?」
後ろの『彼女』から、名前を呼ばれる。
私もそれに呼びかけ返した。
「ルーエン、ハイド、なのか?」
古くからの親友の名を、私は、なんとか吐き出した。
背から離される、鋼剣の切っ先。
それが収められたことを音だけで把握すると、私はすぐさま、距離を取りつつ振り返った。
美しい金色の髪をした、黒装の麗女が立っていた。
「…久しぶり、ルーエ。会えて嬉しいよ。よりにもよって、こんな再会になるとは思わなかったけど」
「…そうだな。私もだよ、アルーシェ」
ルーエンハイドは、彼女の代名詞ともいえる不可思議な長剣―気剣オーズを腰から外し、床に落とす。一度剣を向けたとはいえ、今の彼女には、私とやり合うつもりはないようだった。
「こんなところで何をしてる?…どうして私に刃を向けるんだ?」
彼女、ルーエは、リリアーナと同じ、私にとっての幼馴染の仲だった。やがて、全員が教皇庁の騎士や巫女となり、共に戦った戦友でもあった。
そんな彼女が。どうして私に剣を向けるのか。
深く考えずとも、その理由は、一つしかないように思えた。
「…アルーシェ。お前に伝えなきゃいけないことがある。これは、幼馴染としての、近況報告だ」
彼女の低い声音が耳の奥まで響いてくる。無意識のうちに、心臓の鼓動が早くなった。
「ルルド教団は知っているな?…知らないはずもないな。教団独自の思想を掲げ、教皇庁に対抗する、一組織の名だ」
ここまで言えば、分かるな?ルーエンハイドは、少し戸惑い、躊躇ったが、最後まで続けた。
「私は、ルルドの聖騎士として、邪教撲滅の任を担うことになった。邪教…言いたくはないが、それはお前たち教皇庁のことだ」
そんな。
「どういうことだ、ルーエンハイド」
どうして、あの、彼女が。
「…ルーエ…?ルーエンハイド…なの?」
私たちの声で目を覚ましていたらしいリリアーナが、ベッドから起き上がり、ゆっくりと歩み寄ってくる。
「やはり、リリアもいたか。すまないな、こんな時に」
「ルーエ…!」
ルーエンハイドに近寄ろうとする彼女を、私は全身で遮った。
「…なぜ教皇庁を裏切った?」
「裏切る?…思い込みすぎだ。そんなご大層な理由でもない」
ルーエンハイドは両手を上げて小さく笑う。
「…ただ教皇庁というもののやり方が、気に入らなかっただけだ。表向きではこの夜の世界の成り行きを憂う。あたかも、そこに生きる人々の気持ちを、全て諳んじているかのように。しかしその実、奴らは目的のためならば、ありとあらゆるどんな手段をも、何食わぬ顔で平然とやってのける。たとえそれは、一人の命を奪うことだって…」
ルーエは沈んだ表情を見せた。
「一人の命を、奪う…」
その言葉に反応したのは、リリアーナだった。
彼女は、恐怖とも諦めとも、決意ともとれぬ、複雑な表情を見せる。
それを見たルーエンハイドが、思いつめたような顔で言葉を発した。
「…まさか、リリアを生贄に捧げる気じゃないだろうな」
「……!』
彼女は…私たち教皇庁の全てを、もう知っているのか…?
「…そうね。これは、ルーエにも、話しておかなければならないこと」
うつむいていたリリアーナが、すっと、顔を上げた。
「昨日の教皇庁でのこと、聞いてくれる?…わたしの一人の親友として…ルーエ」
彼女の瞳は、果たして、どこを見ていたのだろうか。
「これを、見てくれる?」
リリアーナは私とルーエンハイドに向けて、自分の左手を差し出す。
彼女の腕には、ぼんやりと薄く輝く、白色の紋章のようなものが見えた。
「これは『刻の花嫁』の印…。わたしが、月の女王への生贄となる証。教皇様に、そう教えてもらったわ」
「…なんだって?」
「『彼女』は、時を戻すことができる。でも、それには相応の代償が必要。だから教皇様は仰っていたわ。あなたの尊く、輝かしい、その花嫁としての生命が、この世の全ての人たちを、きっと救うことになる、って」
「リリアーナは、それにどう答えたんだ」
リリアーナに向けて、ルーエンハイドは重々しく口を開く。
「…わたしは、わたしは。この世界を救いたい。でもそれは、この世界の人たちのためじゃない。教皇庁のためでもない。わたしたちが生きる美しい自然のためでもない」
リリアーナは窓のそばに立ち、明け暮れた空を見上げる。
薄い灰色に染まった天空の中心には、ぼんやりとした太陽の輪郭が、儚げに浮かび上がっていた。
「わたしは、いつか空にあった、暁を取り戻したい。わたしの大好きな、アルーシェと、ルーエンハイド…あなたたちのために」
彼女は、ゆっくりと消えゆくようにも見える、その薄明の白い朧日のもとで、小さく微笑んだ。
「………」
「ルーエ、ごめんね。でも、わたし…決めたの。それで、思ったの。ここで後ろに下がったら、絶対あとで後悔するって」
リリアーナはもう泣かない。その瞳孔の奥に、もはや偽りの感情は、微塵たりとも浮かんではいなかった。
彼女の琥珀の瞳は、闇の雨夜の中でも健気に咲き誇る、高陵の白い百合の花のように、澄みきっていた。
「リリアーナ…」
ゆっくりと差し伸べられた彼女の、花びらのような白い手に、そっと、私の白い手が触れる。
しかし、その上に、もう一つの白い手が重ねられ、私の腕はすっと押し返された。
「…教皇庁は、リリアーナを。彼女を危地に晒す彼の諸悪に、私は気を許すわけにはいかない」
その手の主は、もちろんルーエンハイドだった。
「リリア、本気で自分が生贄になってもいいと思っているのか?正気に戻れっ!!」
ルーエンハイドの叫声が部屋中に響き渡った。
「誰かが犠牲となったところで、この世界が救われることは断じてない!教皇庁は、全て間違っている…。得体の知れぬ化物どもに、人間の命を捧げて世界が元通りになるなんて、それを証明する確証はどこにもないんだ…リリアーナ!」
「でも、これしかないでしょう!!」
「…っ!」
思いもよらぬ反論の叫びを口にしたリリアーナに、ルーエンハイドは驚きの表情と、そして幾分かの狼狽した様相を隠すことができなかった。
彼女は私たち二人の顔をしっかりと見据えた。
「今までわたしたちは、夜を封じるために、いろんなことをしてきた。それは、死と隣り合わせかもしれない、とても危険なことだって。でも、そんなことすらも、全てその場しのぎの事ばかり…何の解決にもなっていないのは、わたしにもわかっていたわ」
彼女は手と手を胸元で絡み合わせる。
「これは、そんな時でも、一縷の希望を見出すことができた、唯一の光。わたしにも、本当にうまくいくかはわからない。でも!」
両手を胸に当て、祈るように彼女は目を閉じた。
「わたしは、その光にかけたい。もう、下がりはしない」
「…嘘だろう…?」
出鼻を挫かれたかのようなルーエンハイドが、見えぬ何かに押されるように、後ろへと引き退っていく。
ルーエンハイドは、床に放られていた彼女の黒い両刃剣を、右手にしっかりと握り締めた。
手にする者の感情を糧にするという、その分厚い気剣は、ほのかに赤く輝いていた。
「…アルーシェ、今は争うようなことはよそう。いずれ、その機会はしかるべき時に、私たちの元へと必ず訪れるだろうがな」
「…何をする気だ、ルーエ」
「何をする、だって?私はルルドの聖騎士として、自らの任務を全うするだけだ。我らがルルド教団とて、教皇庁へと即座に敗戦を喫するほど、やわな連中でもない。教皇庁には、当然の報いを受けてもらうことになるだろう」
少しだけぞっと、戦慄を覚えた。青い瞳の、吹雪のような零度のまなざしは、そのまま彼女の心の内を表していた。
「それと、一つだけ、お前に願いたいことがある」
ルーエンは続けていく。
「おそらく、お前はこれからリリアの護衛を任されるだろう。その時に、私も同行させてはもらえないか?…何、案ずるな。隙を狙って妨害などはしない。今のところは、な」
ルーエンハイドは片方の口角だけを小さく上げて、不敵に笑った。
「それは…」
―コンコンコン。
ふいに扉の向こうから、三度のノックが聞こえてくる。
『…失礼しますが、リリアーナ様、アルーシェお嬢様?…どなたか、いらっしゃるのですか?』
酒場のオーナーの声だ。ルーエンハイドとのやり取りが聞こえてしまっていたのかもしれない。
「それではアルーシェ、よろしく頼んだぞ。お前たちが向かわせられるのは、都の北門のはずだ。そこに着いたのが見えたら、すぐに私も合流する」
気がつくと、黒い外套布を頭から肩まで纏ったルーエンハイドが、開いた部屋の窓際に立っていた。
「おい、ルーエン…!私はまだなにも…」
「くれぐれも、私のことは内密にな。そうすれば、私も約束は守る。たとえ一番離れていても、私たちは、まだ親友だろう?」
そう言って私たちに軽く目配せをすると、彼女はそのまま下へと飛び去って行ってしまった。
『よるのないくに2 ~新月の花嫁~【Chapter 1】』 Knight Azuluna the Abysswalker 編
【最終更新:1/24】【完全版】
更新日 | |
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登録日 | 2017-01-24 |
Derivative work
二次創作物であり、原作に関わる一切の権利は原作権利者が所有します。
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