【ロンドン=小滝麻理子】英最高裁は24日、欧州連合(EU)への離脱通知には議会承認が必要との判決を言い渡した。メイ首相は議会での採決を速やかに得る道を探る方針だ。野党には政府が掲げるEU単一市場撤退という「強硬離脱」路線への反発も根強く、円滑に同意を得られるかは不透明さも残る。メイ政権が目指す3月末までの離脱交渉入りに向けて綱渡りの政権運営が続きそうだ。
英最高裁の11人の判事のうち8人が、EUへの離脱通知には議会承認が必要との判断を支持。議会承認が不要な「国王大権」を行使できると主張してきた英政府の見解を退けた。
これを受けて首相官邸報道官は同日、「最高裁の判決を尊重し、速やかに議会での手続きを取る」と発言。その上で「3月末までにEUに離脱を通知する予定に変更はない」と強調した。
今後の焦点は議会での承認手続きだ。英政府は3月末までに離脱を通知し、原則2年間の交渉をへて、2019年春に離脱する絵を描く。この工程表を貫くために、早急に議会での承認を済ませたい考えだ。政府は今回の敗訴を見越して、上下両院での法案も水面下ですでに準備している。
議会内では、EU離脱を決めた昨年6月の国民投票の結果を尊重し、いたずらに離脱通知の採決を妨害すべきではないとの声が多い。英下院は昨年末に、政府が離脱戦略を明らかにすることを条件に3月末までにEUに離脱を通知する方針を支持する動議を賛成多数で可決してもいる。基本的には政府の思惑通り3月末までの離脱通知は可能との見方が大勢だ。
ただ、不透明な部分も残る。メイ氏が率いる与党保守党は下院の単独過半数をわずかに上回るだけで、上院でも過半数には及ばない。その保守党も下院議員は約3分の1が国民投票で残留を支持ともされ、特に前キャメロン政権の中枢メンバーには早期の離脱通知に懐疑的な見方がある。
さらに、メイ首相が17日の演説で、EU単一市場からの完全撤退という強硬路線を明確にしたことで、野党からの反発も強まっている。
最大野党労働党や自由民主党は「経済を弱体化させるような離脱には賛成できない」と単一市場からの離脱に反対。単一市場への残留を強く求める北部スコットランドのスコットランド民族党のスタージョン党首は、英政府が強硬な姿勢を貫くならば、英国からの独立を問う住民投票を再び実施すると話している。
政府はEU離脱の戦略を2月に議会に改めて説明する予定だ。単一市場撤退の基本方針について、政府が野党議員らの反発を抑えられず、議会の多数派工作に失敗すれば、議会承認に黄信号がともる恐れがある。3月末までの離脱通知がずれ込む可能性も生じてくる。
足元では、英国の潜水艦発射型戦略核ミサイル「トライデント」の発射試験が昨年失敗したにもかかわらず、更新計画の下院投票を直後に控え、英政府が事実を隠蔽した疑惑が浮上。メイ氏自身も知っていたのではないかとの疑問が強まり、メイ氏には内政でも野党からの追及が強まっている。仮に無事に3月末までに離脱通知にこぎ着けられたとしても、国内外ともに正念場の政権運営が続くことになる。