(cache) びぶろす-Biblos:75号(平成29年1月)|国立国会図書館―National Diet Library
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びぶろす-Biblos

75号(平成29年1月)

びぶろす

  • 発行:国立国会図書館総務部
    (National Diet Library)
  • ISSN:1344-8412
2. 【特集:レファレンスインタビュー】
レファレンスインタビューの意義と方法

九州大学 附属図書館利用支援課長
大学院統合新領域学府ライブラリーサイエンス専攻准教授 渡邊 由紀子

1.はじめに

本稿では、質問回答サービスを担当する図書館員のレファレンス能力育成の一助となることを目指して、筆者が平成25年度より担当している国立国会図書館の「レファレンス・サービス研修」1の講義録を基に、利用者の要求を的確に把握するためのレファレンスインタビューの意義と方法について解説する。

2.レファレンスサービスの「再定義」と質問回答サービスの位置づけ

図書館のレファレンスサービスを広く捉えると、質問回答サービスや利用案内といった直接的サービスにとどまらず、利用者が効果的かつ容易に情報にアクセスできるようレファレンスコレクションを形成したり、情報環境を整備したりする間接的サービス、さらにはサービスを支える管理・運営業務まで含むものと「再定義」できる。また、レファレンスサービスには、利用者から寄せられたニーズに基づいて行われる受動的なサービスだけでなく、利用者のニーズを予測するとともにニーズを醸成することを意図して図書館側から積極的に情報を提供する能動的なサービスがある2

本稿で扱う質問回答サービスは、何らかの情報ニーズを持った利用者が図書館員に援助を求めて尋ねる質問、すなわちレファレンス質問(reference questions)を起点に、図書館が受け身の立場で情報や情報源を提供または提示するサービスであり、直接的かつ受動的なレファレンスサービスの中核に位置づけられる。

質問回答サービスは、図書館員が仲介的立場から、何らかの情報源を典拠にして、必要とされる情報や資料を参照指示すること(refer)を基本原則としている。そのため、図書館員のレファレンス能力、つまり利用者の要求を的確に把握する能力や情報源についての知識及びそれを見つけ出すための探索技術などが、質問回答の成否に大きく作用することになる。このようなレファレンス能力は、情報源とその利用法についての学習とともに、豊富な実務経験の積み重ねによって習得できるものと考えられている3

3.利用者の情報ニーズの把握

利用者による図書館のレファレンスサービスの利用は、情報ニーズに基づいた情報探索行動の一環として見ることができる。情報探索行動(information seeking behaviour)とは、情報ニーズが生じた時に、これを充たす情報を探索・入手するために起こす行動である4。レファレンスサービスを担当する図書館員には、情報探索行動に関する知識や、利用者の情報ニーズを把握し分析する技能が必要となる。

図1 図書館利用者の情報ニーズの変化

レファレンスインタビューと利用者の情報ニーズとの関係を分析した重要な理論に、Taylorによる「情報ニーズの4段階」がある。Taylorは、図書館のレファレンスデスクでの質問応答を基に、利用者の情報ニーズの変化を、図1のように4段階に分けて説明している5, 6。図書館のレファレンスインタビューにおいては、利用者の情報ニーズをQ1からQ4の段階へと進展させることが求められる。また、図書館員は、インタビューをする際に、意識化(Q1→Q2)、言語化(Q2→Q3)、定式化(Q3→Q4)の流れを理解し、意識する必要がある。

1968年に発表されたTaylorのこの論文は、2015年に米国の大学・研究図書館協会(ACRL)のCollege & Research Librariesを代表する7本の記事に選ばれ、同誌の75周年記念号に掲載された7。また、Google時代のレファレンスインタビューに関する文献レビューからも、Taylorによる理論的枠組みが、今なおレファレンスインタビューの研究に影響を与え続けていることがわかる8

4.レファレンスプロセスとレファレンスインタビューの意義

レファレンスプロセスとは、図書館員が何らかの情報ニーズを持つ利用者が提示した質問を受け付けてから質問者に回答するまでの、一連の処理過程のことである。

レファレンスプロセスを時系列の処理として見ていくと、まず、図書館員は、利用者から最初の質問(開始質問)を受け付け、レファレンスインタビューを行い、レファレンス質問(最終質問)を決定する。次に、決定した最終質問をもとに、検索戦略を構築する。検索戦略の構築は、質問の分析、検索に使用する情報源の選択、その情報源で用いる検索語の選定、検索語を用いた検索式の作成という一連の作業から成る。その後、検索を実行し、検索結果が質問の主題に適合しているか(適合性)、また利用者の情報要求を充足しているか(適切性)を評価し、評価に応じて検索戦略を再検討したり、レファレンスインタビューを再度実施したりして、最終的に適切性のある結果を回答として提供する9

レファレンスプロセスにおいて、利用者の情報要求を把握する段階で重要となるのがレファレンスインタビューである。レファレンスインタビューは、利用者の質問の内容を特定化・具体化し、検索戦略の構築に役立つ手がかりを得るために行われる、図書館員による利用者との質問応答(question negotiation)である。レファレンス質問の受付方法は、場所や時間、媒体(口頭・電話・文書・電子メール等)などによって異なるため、それぞれの方法に即したインタビューが必要となってくる。インタビューを的確に行うことによって、回答時間の短縮や正答率、質問者の満足度の向上などの効果が期待できる。

5.レファレンスインタビュー要否の判断

利用者からの質問を受け付けた後に、レファレンスインタビューが必要か否かを判断するにあたっては、Jahodaらによる「質問応答確認のためのチェックリスト」が参考になる。チェックリストには、質問内容を特定化・具体化するために検索開始前及び検索開始後に確認すべき事項として、以下の項目が列挙されている10

・検索開始前(Pre-search)

  1. 真の質問か?
  2. 主題が理解できるか?
  3. 質問は曖昧でなく完全か?
  4. 要求される情報の量は特定されているか?
  5. 回答のレベルは特定されているか?
  6. 言語、年代、出版地、刊行形態に制約がありそうか?

・検索開始後(Postsearch)

  1. 利用できる時間内に回答可能な質問か?
  2. 質問は不正確さを含んでいるか?
  3. 文献中に許容できる回答があるか?
6.利用者による不明確な質問の要因

レファレンスインタビューにおいて、利用者は自分の情報ニーズを常に明確かつ完全に表現するとは限らない。特に、利用者が最初に提示する開始質問は、真の質問ではなく不明確な質問(ill-formed query)になることが多く、Rossらは、その要因として以下の6点を挙げている11。(訳文は齋藤1212による。)

  1. きわめて特定化された情報を求めていながら、より広く一般的なものを質問として提示する
  2. 特定化されたものを求めていながら、実際に提示した質問への回答から得られるものと要求との間にズレがある
  3. 図書館システムがどのように機能しているかを正確に把握していない
  4. 質問で使用されているキーワードが曖昧である
  5. 質問に言い間違いがある
  6. 質問内容に誤りがある

これらの不明確な質問に共通する特徴は、利用者が、例えば「ロシアに関する本はどの辺りでしょうか?」や「『国史大辞典』はどこにありますか?」のような、ある主題に関する情報源の所在や特定の情報源の所在に関する質問といった、主題志向や情報源志向の質問をすることである。それらの特徴に対し、Dervinらは意味付与理論に基づき、利用者の真の情報要求を引き出し、その要求を満たす適切な回答を提供するためには、問題志向のインタビューが有効であることを指摘した。また、問題状況(情報が必要な理由・背景)、求める情報の主題、情報の利用目的を把握する問題志向のインタビューを行うための質問技法として、次に述べる中立質問(neutral question)を提案した13, 14

7.レファレンスインタビューの質問技法

レファレンスインタビューで用いる質問形式には、大きく分けて閉質問(closed question)と開質問(open question)がある。

閉質問は、Yes-No型やWhich(A or B)型の質問である。回答内容は図書館員の示した選択肢内に限定されるものの、即座に明確な回答を得やすい質問形式であり、利用者があまり主題に詳しくなく、開質問では有益な情報が得られない時に用いると効果的である。また、図書館員が聞いた内容を確認する際にも有用となる。このような閉質問では、図書館員が利用者に適合するものを事前に判断して選択肢を提示するため、その成否は図書館員の力量に大きく左右されることになる。

開質問は、5W1H型(Who, What, When, Where, Why, How)の質問である。利用者から具体的な説明を得ることができる質問形式であり、開質問中心のインタビューは利用者が主題や問題をよく知っているときに有効となる。利用者の情報要求を見逃さないよう、特にインタビューの初めの段階で開質問を用いると効果的である。

開質問の部分集合に位置付けられる中立質問(neutral question)は、図書館員が利用者の視点から、真の情報要求を理解できるようにするための質問技法である。中立質問では、図書館員が利用者の語る内容の枠組みを提示しながら、情報が必要となった問題状況、求める情報の主題、情報利用の目的に関する問題志向の質問を、開質問の形式を用いて行う。この中立質問は、インタビューの初期に使用すると効果的である。ただし、利用者のプライバシーにも係る事項のため、インタビューにあたっては慎重な配慮が必要である。多くの図書館員は、開質問でインタビューを開始し、続いて中立質問を使用する方がより快適に感じるであろう15

図2は、以上3種類の質問形式の関係を示したものである。

図2 閉質問・開質問・中立質問の関係

表1 閉質問・開質問・中立質問の相違

また、表1に、「大企業に関するもっと詳しい資料はありませんか?」という利用者からの開始質問に対し、閉質問、開質問、中立質問を用いた場合の、図書館員による仮想インタビューをまとめ、3種類の質問の相違を示す。

8.レファレンスサービス担当者の行動指針

レファレンスインタビューは、利用者と図書館員の相互作用であるため、利用者から見た図書館員の肯定的または否定的な行動が、インタビューが成功するか失敗するかの重要な要因となりえる。

米国図書館協会(ALA)のレファレンス・利用者サービス協会(RUSA)が2013年に改訂公開した「レファレンスサービス担当者のための行動指針」は、レファレンスインタビューにおいて図書館員に求められる行動の要素を示したものである。この行動指針には、インタビューの進行に沿って、以下の5領域に関し、それぞれ全般、対面、遠隔の3種類に分けた具体的な指針が掲げられている16

  1. Visibility/Approachability:多様な技術により可視性を上げること、利用者が質問しやすくすること等
  2. Interest:利用者の質問に興味・関心を示すこと等
  3. Listening/Inquiring:利用者の質問をよく聞き、不明な点は利用者に尋ねること等
  4. Searching:適切つ効果的な検索をすること等
  5. Follow-up:利用者が回答に満足しているかどうかを確認するとともに、さらに調査を続ける必要が出てきたときの指針を示すこと等

RUSAの行動指針にも示されているとおり、レファレンスサービスを担当する図書館員は、知識や技術のみならず、利用者に対する態度まで含めたレファレンス能力の向上に努める必要がある。

9.おわりに

質問回答サービスの環境は、図書館員と利用者が対面や電話で行うものから、利用者が情報要求を図書館員に伝える手段としてインターネットなどの電子的技術を使用するバーチャルレファレンスへと拡大、変化してきた。一方、質問受付方法やコミュニケーション手段が従来と異なるバーチャルレファレンスにおいて、レファレンスインタビューにより利用者の質問を明確化することの重要性が改めて指摘されている17, 18。バーチャルレファレンスサービスの時代にも、図書館員には利用者の要求を的確に把握できるよう、効果的なレファレンスインタビューを展開することが期待されている。

(わたなべ ゆきこ)

参考文献
  1. 小田光宏編著『情報サービス論』(JLA図書館情報学テキストシリーズ 3-5).日本図書館協会, 2012.8 [国立国会図書館請求記号:UL731-J22]
  2. 斎藤文男, 藤村せつ子著『実践型レファレンス・サービス入門 補訂版』(JLA図書館実践シリーズ 1).日本図書館協会, 2014.5 [請求記号:UL731-L6]
  3. 齋藤泰則『利用者志向のレファレンスサービス : その原理と方法』(ネットワーク時代の図書館情報学).勉誠出版, 2009.11 [請求記号:UL731-J10]
  4. 齋藤泰則, 大谷康晴共編著『情報サービス演習』(JLA図書館情報学テキストシリーズ 3-7).日本図書館協会, 2015.3 [請求記号:UL731-L8]
  5. 長澤雅男『レファレンスサービス : 図書館における情報サービス』丸善, 1995.3 [請求記号:UL731-E26]
  6. 長澤雅男, 石黒祐子『問題解決のためのレファレンスサービス 新版』日本図書館協会, 2007.4 [請求記号:UL731-H33]
  7. 三輪眞木子『情報検索のスキル : 未知の問題をどう解くか』(中公新書 1714).中央公論新社, 2003.9 [請求記号:UL41-H9]
  8. 三輪眞木子『情報行動 : システム志向から利用者志向へ』(ネットワーク時代の図書館情報学).勉誠出版, 2012.3 [請求記号:DK411-J717]
  9. 山崎久道 [ほか] 共著『情報サービス論』(現代図書館情報学シリーズ 5).樹村房, 2012.4 [請求記号:UL731-J19]
  10. Bopp,R.E. and Smith,L. ed. Reference and information services : an introduction. 4th ed. (Library and information science text series). Libraries Unlimited, 2011 [請求記号:UL731-B35]
  11. Cassell,K.A. and Hiremath,U. Reference and information services : an introduction. 3rd ed. Neal-Schuman, 2013.
  12. Harmeyer,D. The reference interview today : negotiating and answering questions face to face, on the phone, and virtually. Rowman & Littlefield, 2014. [請求記号:UL731-B52]
  13. Jahoda,G. and Braunagel,J.S. The librarian and reference queries : a systematic approach (Library and information science). Academic Press, 1980. [請求記号:UL731-32]
  14. Knoer,S. The reference interview today (Libraries Unlimited library management collection). Libraries Unlimited, 2011.
  15. Ross,C.S. et al. Conducting the reference interview : a how-to-do-it manual for librarians. 2nd ed. (How-to-do-it manuals for libraries). Neal-Schuman, 2009. [請求記号:UL731-B27]
  16. Whitlatch,J.B. Evaluating reference services : a practical guide. American Library Association, 2000. [請求記号:UL731-A104]
  1. 国立国会図書館「平成28年度レファレンス・サービス研修のご案内」2016.
  2. 国立国会図書館『日本の図書館におけるレファレンスサービスの課題と展望』(図書館調査研究リポート No.14). 国立国会図書館関西館図書館協力課, 2013.3, p.2, 48-56. [請求記号:UL731-L2]
  3. 参考文献5) p.128. 参照。
  4. 情報探索行動については、参考文献 8)を参照。
  5. Taylor, R.S. Question-negotiation and information seeking in libraries. College & Research Libraries. 29(3), 1968.5, p.178-194. [請求記号:Z55-A138]
  6. 参考文献 7) p.40-42. 参照。
  7. 国立国会図書館「米国の大学・研究図書館協会、C&RL誌75周年記念号を公開」『カレントアウェアネス・ポータル』2015/03/16.
  8. 国立国会図書館「Google時代のレファレンスインタビュー(記事紹介)」『カレントアウェアネス・ポータル』2016/06/09.
  9. レファレンスプロセスについては、参考文献 1) p.114-119. を参照。
  10. 参考文献 13) p.116-124. 参照。
  11. 参考文献 15) p.19-22. 参照。
  12. 参考文献 3) p.68-73. 参照。
  13. Dervin,B. and Dewdney,P. Neutral questioning : a new approach to the reference interview. RQ. 25(4), 1986, p.506-513.
  14. 参考文献 3) p.79-84. 参照。
  15. 前掲注13
  16. American Library Association, Reference and User Services Association. “Guidelines for Behavioral Performance of Reference and Information Service Providers”. 2013.
  17. 国立国会図書館「効果的なバーチャルレファレンスサービスを行うためには」『カレントアウェアネス-E』(198), 2011.8, E1202.
  18. 依田紀久「チャットレファレンスにおける質問明確化の実態は?」『カレントアウェアネス-E』(216), 2012.6, E1296.

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