大物釣るが大物ぶらず　松方弘樹さん死去

　すごみのある俳優ながらバラエティー番組でおちゃめな素顔を隠さず、無類の釣り好きとしても名をはせる。松方弘樹さんは多面性を見せるスター俳優のはしりだった。

　ギラッと光る目力が持ち味。「東映城の暴れん坊」の異名をとり、数々の浮名も流した。１９７０年代の「仁義なき戦い」シリーズや「真田幸村の謀略」、「修羅の群れ」（８４年）などやくざ映画と時代劇が似合った。

　俳優の両親のもとで育ったが、最初に目指したのは歌手。１７歳の春、作曲家の内弟子になったが、半年後に現れた後輩の歌のうまさに衝撃を受けて断念した。後輩は後の五木ひろしだった。

　松方青年を東映に連れて行ったのは、父で“剣豪”の誉れ高い近衛十四郎。殺陣での尋常でない殺気で知られた父を、松方さんは敬愛した。記録映画「時代劇は死なず　ちゃんばら美学考」（２０１６年）で、「勝新太郎と近衛の対決をセットに見に行ったら、完全に勝さんが押されていた」とうれしそうに語った。

　左利きで、初期は“サウスポー剣法”で知られたが、右手での殺陣も体得。９０年代以降は時代劇が下火になったが、映画「十三人の刺客」（１０年）で大勢を向こうに殺気ほとばしる立ち回りが鮮烈だった。

　釣りも父の影響だ。京都府亀岡市に父と釣り堀「天国」を作ったことがある。８０年代以降「松方弘樹　世界を釣る」など釣り番組が名物に。「辰兄ぃ」と慕う俳優梅宮辰夫とのやんちゃなコンビで親しまれた。

　８５年からは、ビートたけしさんのバラエティー番組「天才・たけしの元気が出るテレビ！！」に出演し、ファン層を広げた。髪はオールバックでサングラス姿ながら笑い上戸。ハンカチで眉毛をなで上げながら汗を拭うしぐさは評判だった。

　一方で、映画への情熱は冷めずプロデュース業にも進出。主演も兼ねた初プロデュース映画「首領（ドン）になった男」（９１年）は３億５千万円の借金をして製作したが、ヒットして手元に２億円以上残った。すると、出資者とその家族らを連れ、チャーター機でハワイや台湾に旅行して、ほぼ使い切ってしまう豪快さ。

　後に著書で「みんなが満足してくれたなら十分。松方に話を持っていったら、何か面白いことが起きるかもと思っていただけたら。というのは強がり半分」と明かした。

　７０歳を超えると「たった一つ残されたときめきがマグロ釣り。４００キロのマグロを何としても釣りたい」と夢見ていたが、惜しくも天国へと旅立った。

　▽大和田伸也（６９）「私の初監督映画『恐竜を掘ろう』で主演を務めていただきました。撮影中は本当に穏やかで優しく、スタッフ、キャスト、見物人にも自ら声をかけて楽しませてくれました。いっぱい学ばせてもらいました。先輩、またあの人懐こいステキな笑顔を見たかった。悔しいです。ありがとうございました」

　▽渡瀬恒彦（７２）「年齢も近く、東映の撮影所でともに育ってきました。いまは、言葉が出ません」

　▽時代劇「名奉行　遠山の金さん」で共演した女優池上季実子（５８）（ブログで）「ショック！大ショック！　先ほど訃報を聞き身体が震えました…。もっと、もっと、たくさんお話も、お仕事もご一緒したかった…懐の大きい、やさしく厳しい本当にすてきな大先輩であり、お兄ちゃんでした」

　▽ドラマ「ＨＯＴＥＬ」で共演した高嶋政伸（５０）「第一話が放送された直後に僕の実家にお電話を下さり、父忠夫に『先輩、どう思いました？　政伸、良かったですよね』と連絡を下さいました。撮影中も何度も僕のほっぺたをつねって『てんぐになってんじゃないか？』と活を入れ続けて下さいました。あの時のほっぺたの痛さと深い温かな松方大先輩の瞳は生涯決して忘れません。心よりご冥福をお祈りします」

　俳優の高橋克典（５２）の母は、松方さんと親交が深かった俳優・梅宮辰夫（７８）のいとこ。高橋はこの日、自身のブログで「辰夫叔父の甥（おい）ということで、いつも身内のように接していただきました。寂しいです」とつづった。

　梅宮はこの日、コメントを発表しなかったが、２４日に神奈川県内で取材に応じる予定。

　松方さんは福井県を舞台にした映画「恐竜を掘ろう」に主演。２０１３年２月の公開前後には県立恐竜博物館や神社を訪問し、地元住民と交流した。

　舞台あいさつとトークショーを開いた福井市の映画館「テアトルサンク」の支配人酒井宏幸さん（５３）は「あれだけの大物俳優なのに丁寧で気さく。自分は映画で成長したので映画界の力になりたいと言っていたのが印象に残っています。お客さんにも映画館で見てほしいと声を掛けていました」と振り返る。滞在した福井について松方さんは「こんなに差し入れが多かったのは初めて。いろいろな人と話して温かく、幸せそうだなと思った」と話していた。酒井さんは「体がよくなればと願っていましたが…。映画界にもっと力を貸してもらいたかった」と悼んだ。