トランプ米大統領が前任者の内政面での重要な成果である、無秩序に広がるオバマケア(医療保険制度改革法)に対する猛攻撃を始めたことで、米国の市民と保険会社は先行き不透明な状況となった。
トランプ氏が大統領就任の数時間後に署名した大統領令は、オバマケアの規定の適用を緩めようとするものだ。個人または保険会社、その他の企業や各州に「費用、罰金または負担」を課すという医療費負担適正化法の規定について、部分的な撤回または先延ばしをするよう政府機関に求めている。
オバマ前大統領による政策を転換させるには、政権のより幅広い後押しが必要になる。
また、政権は別の大統領令で官僚主義に襲いかかり、全省庁に新たな規制導入の凍結、計画中の規制の撤回、最近決定した規制の延期を命じた。
だが、医療に関する大統領令は、保険市場に新たな費用を負わせることを避けようとしており、新大統領が消費者と保険会社の要求に折り合いをつけることの難しさを浮かび上がらせている。
トランプ氏は、首都ワシントンの「沼」にいる企業ロビイストの影響力を激しく非難してきた。だが、米国は国民の圧倒的多数の医療保険を民間保険会社に頼っており、どんな政権でも保険業界の声をはねつければ影響をもたらす。
大統領選前、保険会社が保険料を引き上げたりネット取引から撤退したりしたことで、人々が保険を購入するオンライン保険取引所に混乱が生じ、消費者に動揺が広がった。
米ワシントン・アンド・リー大学の医療問題専門家、ティモシー・ヨスト氏はこう話す。「民間保険に頼っている限り、保険会社に翻弄される。保険会社は慈善事業ではなく営利事業だ。利益を確保できなければ去って行く」
■「加入しなければ罰金」に焦点
大統領令の大きな試金石は、医療保険に加入しなければ罰金を科すというオバマケアの「個人加入義務」をどう扱うかだ。この規定は、多くの共和党支持者が政府の余計な押しつけだと非難する一方、保険会社は商品の販売対象者が増えるので歓迎している。
一部のロビイストは、トランプ政権が何百万人もの罰金を免除した場合、若く健康な人々は保険を買わなくなり、病気を持ち費用がかかる顧客の側に市場がゆがんでしまうと危惧している。
トランプ氏の顧問ケリーアン・コンウェー氏は22日、米NBCテレビに「私たちは、このオバマケアの罰金をなくす」と語ったが、いつどのようにするのかには触れなかった。
オバマケアを巡る最大の戦いは、議会で法律を覆そうとする共和党と、代替策を用意せずに撤廃すれば数百万人が医療保険を失いかねないと警告する医療専門家の間で行われている。