16年に日本を訪れた外国人旅行者は、前年より2割増え2400万人に達した。ただ、旅行で使った金額は、1人当たりの推計で見ると1割減った。為替の影響に加え、中国人らによる高額商品の「爆買い」が下火になったことが主な理由という。

 訪日観光は経済にプラスで、外国との関係を強める基盤にもなる。今後は一時の追い風に頼らず、リピーターを増やし、滞在を延ばす工夫が大切になる。

 首都圏や関西圏でのホテル不足対策や、両者の名所を回る「ゴールデンルート」以外の観光コースの開拓といった課題に加え、訪日客の関心の多様化にもっと注目したい。

 「次の訪日でやりたいこと」を尋ねた観光庁の調査では、日本食や名所めぐりといった定番メニューのほか、四季の体感、歴史・文化・農漁村の体験などを挙げる人が多い。目的が、買い物や見るだけの観光から体験に移る傾向が読み取れる。

 この流れを意識した試みは、既に各地で広がりつつある。

 徳島県三好市の山奥にある落合集落では、古民家に泊まり、住民との郷土料理作りなどを体験できる。それを目当てに香港や欧米などから多くの人が訪れている。佐賀県はタイ映画のロケを誘致し、タイ人旅行者の呼び込みに成功した。映画の「追体験」が売り物になった。

 東京や大阪では、日本発の人気ゲームキャラクターに扮してカートを街中で運転できるサービスが話題だ。日本人には意外と思えることにも、外国人が新鮮な魅力を感じ、ネットの口コミで広まる例は少なくない。

 まだまだ知恵を絞れるはずだ。体験型の観光を掘り起こすには、地元の自然や文化、産業に詳しい人を結びつけるかじ取り役が重要になる。各地の観光団体や自治体は、人材や組織の育成を積極的に進めてほしい。

 国の役割は、地域の取り組みを後押しする環境整備だろう。

 ホテルやガイドの不足に対応するため、民家に旅行者を泊める「民泊」や通訳案内士の規制緩和が進みつつあるが、一方で質の確保にも目配りが必要だ。免税店で健康食品を不当な高値で売りつけるツアーなど、日本のイメージを損ねる例も見られる。政府は旅行関連サービスの手配業者に登録制を導入する方針だが、警察と連携した取り締まり強化や訪日客向けの相談窓口の整備も急ぐべきだ。

 各地で知恵を競い合い、成功例に学びながら、日本ファンを増やしていく――。官と民、国と地方が力を合わせ、そんな好循環を広げていきたい。