トランプ米大統領の就任は、日米関係にどう影響するのか。そのことが、通常国会の与野党論戦の大きなテーマになるのは当然だろう。

 安倍首相は、先週の施政方針演説でこう強調した。

 「これまでも、今も、そしてこれからも、日米同盟こそが我が国の外交・安全保障政策の基軸だ。これは不変の原則だ」

 「米国第一」を掲げ、「世界の警察官」はやめるというトランプ氏を、アジア太平洋地域への関与に引き留めたい。そんな思いが「不変の原則」という強い言葉に表れたようにみえる。

 中国の強引な海洋進出や北朝鮮の核・ミサイル開発など、地域の安全保障環境は厳しさを増している。地域の平和と安定を維持するためには、日米関係は引き続き重要だ。

 だとしても「不変の原則」の名のもとに、米国追随の外交を漫然と続けてはなるまい。

 きのうの衆院代表質問で民進党の野田佳彦幹事長は、トランプ大統領の就任演説では、日米が共有してきた「自由、民主主義、人権、法の支配などの言葉が聞かれなかった」と指摘し、首相の所感を問うた。

 物足りなかったのは、首相が「日米は普遍的価値の絆で固く結ばれた同盟国だ」などと答えるにとどめたことだ。近く行われるだろうトランプ氏との首脳会談では、普遍的な価値の重要性を十分に説く責任がある。

 トランプ氏の米国が孤立主義に閉じこもらないよう促す。そのことが、国際社会の秩序を守り、日米関係をアジア太平洋地域の「公共財」として機能させることにもつながる。

 そのためにも大事なことは、日本自身が国際的にも、歴史的にも認識を疑われない行動をとることである。

 昨年末、首相の真珠湾訪問に同行した直後に、稲田防衛相が靖国神社に参拝した。代表質問で民進党の大串博志政調会長が見解をただすと、首相は「答えを差し控えたい」などと述べただけだった。

 だが、日本はA級戦犯の責任を認めたサンフランシスコ平和条約を受け入れ、国際社会に復帰した。そのA級戦犯が合祀(ごうし)されている靖国神社に政治指導者が参拝すれば、近隣国との関係に水を差し、米欧を含む国際社会の疑念を招きかねない。

 アジアで、そして世界で日本がどう役割を果たすか。信頼を勝ち得るために、どんなふるまいが求められるのか。

 トランプ政権の誕生を、日本が主体的に外交を構想する契機としなければならない。