もって1年程度?(トランプ氏のFacebookより)

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 日本では就任間もないトランプ政権の動向が憂慮されているが、ワシントンの関心は“その先”に移っている。「トランプ大統領は1年で消えるから、今からトランプ後を見据えるべきだ」という意見が、真顔で交わされているのだ。

 大統領選中から、そして当選後にも暗殺計画が取り沙汰され、CNNやニューヨーク.タイムズなど「反トランプメディア」によるスキャンダル報道で辞任に追い込まれる可能性も指摘されてきたが、「最有力シナリオ」は別にある。米在住ジャーナリストの高濱賛氏は言う。

「ワシントンの政界関係者や政治記者たちはもっぱら『大統領になることだけが目的だったから、あとはすぐに放り出すのではないか』と噂しています。元国務省高官のドワイト・レイク氏が『トランプとトランプが選んだ閣僚、補佐官では外交安全保障政策は空中分解してしまう。もって1年だ』と言い切ったのに対し、そうなればトランプはあっさり辞めると言い出すはずだという声が共和党内からも上がっているのです。

 トランプ氏は昨年、一部記者に『俺が大統領になったら実際の内政外交は副大統領に任せる』と語っていたと報じられたことがあります。大統領選というゲームに勝ちたかっただけで、その先のことなどどうでもいいと考えているフシさえあります」

 トランプ氏が大統領選に勝ちたがった理由として指摘されているのが、前任者・オバマ氏への“復讐”である。因縁は8年前のオバマ大統領就任時にさかのぼる。

 当時すでに大統領選出馬を画策していたトランプ氏はオバマ氏が大統領になって以降、「オバマはアフリカ生まれで米市民ではない」「出生証明書を見せてみろ」と挑発。オバマ氏はそれを受けて2011年4月に出生証明書を公開し、その直後にワシントンのホテルで開かれた夕食会で、その場に居合わせたトランプ氏を大いに茶化したという。

「オバマ氏はホテルの大型スクリーンに、ホワイトハウスの上にトランプタワーが乗っかったけばけばしい『トランプのホワイトハウス』の合成写真を写し出し、参加者はそれに大笑いした。トランプ氏はこのとき、『大統領選に勝ってオバマを見返してやる』と決意したと言われています」(同前)

 逆に言えば、オバマ氏への復讐という目標が達成された今、トランプ氏が大統領の座に固執する必要は皆無ということになる。共和党関係者が驚きのシナリオを明かす。

「党内ではすでにトランプが早々に大統領を放り出した場合のシミュレーションが行なわれている。

 その場合はマイク・ペンス副大統領が昇格し、トランプの娘婿のクシュナー上級顧問らトランプ側近に代わって共和党本流のスタッフがホワイトハウス入りする展開になる。共和党内にもそれを願っている者が大勢いる」

 そのシナリオを最も強く望んでいるのは、米経済界かもしれない。

「トランプ氏は“経済のプロ”を自任しながら、経済学における『比較優位』すら理解していない可能性があります。各国がそれぞれ輸出競争力の高い分野に生産をシフトすると、全体の生産性が上がり、お互いの富が増すというのが比較優位。

 しかしトランプ氏はその逆をやろうとしている。輸出競争力の低いアメリカの自動車を守るために保護主義を取れば、他国もアメリカからの輸入に制限をかける。そうすればアメリカの生産力は結果として低下する。就任前こそトランプバブルを歓迎したウォール街だが、早晩の行き詰まりを懸念する声が強まっている」(相沢幸悦・埼玉学園大学経済経営学部教授)

 1年も待ってられないか。

※週刊ポスト2017年2月3日号