2017年1月21日(土)

 

中野サンプラザで、チャラン・ポ・ランタンと愉快なカンカンバルカン 「ツアー2016-17 “大衆音楽の手引き”」。

 

チャランポのツアーはできる限り初日と千秋楽の2回観るようにしている。初日は初日の面白さがあるが、ツアーを進める中で曲と構成が彼女たちのカラダに馴染んでいき、千秋楽ともなると進行の仕方にも余裕が出て、譬え基本的なセットリストが一緒であってもライブ全体の印象がまったく変わるからだ(とりわけ、ももちゃんの場の掌握力が大きく変わる)。

 

そのことを前提としても、しかし今回ほどその違いが大きかったツアーはなかったかもしれない。実際、内容自体がいろいろ変わっていたのだが、そもそも編成からして違うのだから、それも当然のこと。昨年11月に観たツアー初日の横浜赤レンガ倉庫公演は「チャラン・ポ・ランタンと愉快なカンカンバルカン」によるものだったが、今回はそこにヴァイオリンの磯部舞子さんが加わり、ずいぶん久しぶりに「チャラン・ポ・ランタンと更に愉快なカンカンバルカン」編成となっていたからだ。彼女の存在は非常に大きく、ヴァイオリンがそこに入るという実質的な音の変化のみならず、絵的にも華やかさが増し、総体として“更に”動きがでる。文字通り、更に愉快なカンカンバルカンになるわけだ。

 

「愉快なカンカンバルカン」と「更に愉快なカンカンバルカン」の音の印象の違いは、「アジアの純真」「恋とマシンガン」「ナオミの夢」といった『借りもの協奏』収録のカヴァーを混ぜつつ進められた序盤から如実に表れていたが、それはあれくらいのキャパのホールの中で最も音響がいいとされる中野サンプラザ(それ故、山下達郎は長年その場所でのライブを続けている)だったからこそ尚更よくわかったことでもあった。どっちがいいということではなく、どちらもよい。ただ、ひとり加わった状態とそうじゃない状態でずいぶん音の印象が変わるという、その面白さをこの公演で改めて実感できたということを僕は言いたいのだ。

 

そしてそれ以上にもっと極端に音の印象が変わるのが崩壊バンドである。カンカンバルカンからふたり引いてひとり足してるだけにも関わらず、そもそも出自が違うんじゃないかというくらいに出音の向きが違う。それぞれを仮にひとりの女のコに譬えるなら、カンカンバルカンという明るく健康的なコに対して、崩壊バンドというコはエキセントリック。ちょっと手に負えないところがあるけど、そんなところが魅力的でもあるからほってはおけない、そういう性格をもっている。

 

予測してなかったことだが、本公演ではその崩壊バンドでの演奏が中盤に2曲あった。「美しさと若さ」と「欲」。ただでさえ子供が聴いたらトラウマになりそうなその2曲には崩壊バンドらしさたるものがズバっと反映され、とりわけ長い髪を振り乱して弾く舞子たんと、発狂したかのように叫んだりしつつ歌うももちゃんの様が壮絶だった。そして僕個人はといえばそもそもこうしたおどろおどろしさもある世界観にやられてチャランポを好きになったところも大きかったりする。ということをその場面で思い出していた。崩壊バンドによるその2曲が組み込まれていたこと、そして全体の中でそれは強烈な印象を与えた場面ではあったが、だからといってそこだけが突出していたわけではなく、「愉快なカンカンバルカンのショーのなかで崩壊バンドの2曲がうまく機能していた」というそのことがこのライブを凄いものにした要因のひとつだったんじゃないかと僕は思う。

 

以下、特に印象に残った場面やまったくもって個人的な感想をいくつかツラツラと。

 

「ナオミの夢」。僕が小学生の頃に大ヒットしてドーナツ盤を買ってよく歌っていたヘドバとダビデのこの曲が、2017年の中野サンプラザで歌われ、恐らく原曲を聴いたことのない若い観客たちがそれを楽しんで聴いているということの(ちょっとシュールな)面白さ。そこに“大衆音楽の手引き”という素晴らしいツアー・タイトルが重なった。

 

シャンプーの替え歌「入院トラブル」。ハイライト的な場面がこのあとも次々に押し寄せてきたので忘れられがちかもしれないが、アコーディオンを持たずに踊って歌う小春ちゃんが新鮮で、ツアー初日も今回もこれはやけに耳と目に残った。ホーン3人娘のイテテテ・コーラスと動きも面白くて楽しい。

 

ところでツアー初日とはまったく別物のライブのように感じたと冒頭で書いたが、それはその間に新作の『トリトメナシ』が出たからでもあって、新たにセットリストに加わったそのアルバムの収録曲がまたどれも強い存在感を放っていた。

 

そのなかから、まず「まゆげダンス」。これはもう、ひとりだけ大振りの舞子たんのダンスの可愛さに尽きる。ただただ彼女の動きに見入ってしまったよ。チャーミングすぎますね。

 

「夢ばっかり」~「カモナマイハウス」。サプライズゲストで片平里菜さんとReiちゃんが登場し、女4人で披露されたのがこの2曲。Reiちゃんのギターの素晴らしさは改めて書くまでもないが、特に「おおっ」と思ったのは、「カモナマイハウス」をももちゃん~片平さん~Reiちゃんが歌い繋いでいったその際の、Reiちゃんの歌声がひとりだけ大人びていた…というかある種の色気を持っていたこと。曲が(僕なんかは江利チエミのカヴァーで親しんでいた)「カモナマイハウス」だったからというのもあるだろうが、普段Reiちゃんのライブを観ているとき以上に、その声の魅力になんだかハッとさせられた。

 

「月」。テレビドラマ版の『ディアスポリス』で初めて聴いたときからしびれまくっていた曲であり、近年のチャランポの曲のなかで僕的にはもっとも惹かれる1曲。特にアレンジ面で新境地を感じ、こういう広げ方もあったんだなと唸らされたものだったのだが、本公演におけるこの曲のアレンジと演奏がまた出色だった。それも舞子たんのヴァイオリンの色付けが非常に大きく、小春ちゃんのアコーディオンと舞子たんのヴァイオリンの合わさりはこの上ないなとも思わされ、そうなるとももちゃんの歌声もあんなにも艶めかしく感じられるわけだ。もしもこの公演で演奏した全曲のなかからもう一度同じアレンジで1曲聴かせてあげると言われたら、僕は迷わず「月」を選ぶ。

 

本編の終盤、「ハバナギラ」がきて、さらにそのあと「ただ、それだけ」から「カチューシャ」へと繋げて終わったその場面。それはなんというか、私たちの始まりはそこにあるのだ、いわば原点なのだと示しているようにも思え、昔からチャランポを追いかけてきた者たちはグッとこずにはいられなかったんじゃないか。はい、きました、僕も。

 

あ、その意味では「サンバジャ」も。あれはもうただただかっこよかったし、あれこそカンカンバルカンの真骨頂といった感じ。なんとかメドレーみたいなのが今回はなかったが、これ1曲にカンカンバルカンというバンドの個性と魅力が集約されていたのでそれで十分だった。

 

アンコールその1。コラボ曲「雄叫び」までのスカパラとの3曲。一昨年の浅草公演にもスカパラから数名来たことだし、今回は揃って登場もありかもなとは思っていたが、アンコールで幕があがってスカパラ全員の並びがシルエットで映ったときにはさすがに「うわおっ」となり、そして音が鳴った瞬間血が騒いだ。「サプライズでスカパラが全員出た」というのはそれだけで記事の見出しにもなることだろうが、それよりもここで肝心なのはチャランポが彼等と対等に渡り合っていたということ。いや、それどころか彼らを「率いている」ようにさえ見えたことだ。ゲストを立てる…というようなヘンな遠慮などなく、小春ちゃんはがんがん前に出て弾いていたし、ももちゃんは最高の楽しさをカラダいっぱいに表して文字通りメンバーに絡んだりもしながらおもいきり歌い、しかも完全に場を掌握していた。そりゃあ冷静になんか見ていられるわけがない!

 

アンコールその2。「かなしみ」。この曲を書いたことの小春ちゃんの話と、思いの全てがこもったアコーディオンの音、そして涙。このときばかりは姉のように話を聞き、実際の姉の気持ちもくみ取りながら心を込めて歌うももちゃん。特別な曲だし、それはこのときだけの特別な歌と演奏だった……気がした。

 

セッションやインストも含め約2時間半で全30曲(かな)。かつてなく曲を詰め込んだライブであり、そして過去最大に名場面多数だったこのライブ。そこには無駄な時間が1分たりともなかった。物販宣伝喋りもファンクラブ勧誘喋りも今後の予定喋りも一切なく、それはチャランポのライブでは異例のことだが、せっかく温度が高まってるのに物販宣伝が長すぎて勿体ないなぁと感じることがこれまで少なくなかった僕からすると、その点は特にいいと思えたところだ。つまりその点を含め、このライブをひとつのショーとして完成したものにするのだという彼女たちとスタッフたちの意識が強く働いていたということ。そして実際、この公演はショーとして完璧だったし、演出よりも音楽そのもので引っ張っていくものだったし、それでいてまさに彼女たちが目指すサーカスのような動きもあるものだったと思う。

 

そう、歌も、演奏も、音響も、構成も、バンド力も、ゲスト陣との合わさり方も、全てにおいてこれはチャラン・ポ・ランタンにとって過去最高クオリティのライブだった。これまで6~7年くらい彼女のライブを追いかけている僕だが、エモーショナル度数の高さで忘れられないライブはこれまでにもいくつかある。例えば2012年の青山CAY、2013年の青山円形劇場3日目、あるいは2015年のフジロックのヘブン……。だが今回のサンプラ公演は、エモーショナル度数だけではなく、全てが合わさったショーのクオリティとして最上級だった。だから心底感動した。なんて凄いバンドなんだと思った。恥ずかしげもなく素直に書いてしまえば好きになって本当によかったとも思ったし、なんだか羨ましくさえ思えた。アコーディオン弾くことと歌うことがそれぞれ何より大好きで幸せで、その楽器や声でこんなに人と気持ちを通い合わせて、高校生の頃に大ファンだったバンドとも渡り合えて、それを観ている大勢の客がそのことを喜んでいるって、それ、最高の人生じゃないか。

 

それに何が凄いって、過去最大人数を集めた重要なワンマンでそのように過去最高のパフォーマンスを見せたというそのことが凄い。一番力を発揮しなきゃいけない場所で力を出しきれずに終わることが人生には多々あるのを僕たちはよく知っている。受験しかりオリンピックしかりあれしかりこれしかり。だがチャランポはといえば今回(ワンマンにおいては)過去最大キャパとなるその場所で、堂々、過去最高レベルのものを観せたのだ。文句なし。100点満点で1000点。いや10000点。いや100000点。ふたりにとっても、バンドのみんなにとっても、マネージャーにとっても、(自分含め)長く観続けてきたポラーにとっても、これは忘れ難い公演になったに違いない。

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