スイスの保養地、ダボスで開かれる世界経済フォーラム年次総会は、各国の政財界の要人が集う場として毎年注目される。

 今年は、中国の最高指導者として初めて出席した習近平(シーチンピン)国家主席に関心が集まった。トランプ政権を念頭に経済の保護主義を批判し、グローバル化を受け入れるべきだと訴えた。

 近代以降の世界秩序の中心を担ってきた英国、そして米国がつまずいている今、中国が取って代わるとの印象を世界に発信したかったのかもしれない。

 実際のところ中国はグローバル化から利益を最も受けた国と言っていい。外資をとり入れ、輸出を飛躍的に伸ばし、高い経済成長を続けてきた。

 しかし、習氏の言葉は説得力に欠ける。世界第2の経済規模ながら、今なお市場化改革と対外開放が不十分だからだ。

 エネルギー、金融、通信といった主要業界で国有企業が幅を利かせ、民間企業を圧迫し、外国企業の投資を厳しく制限している。改革開放を掲げて40年近くになるが、あくまで共産党政権が管理するもとでの話だ。

 昨年は中国産鉄鋼製品の輸出攻勢が各国で問題視された。過剰生産力を抱えた国有企業が地方政府と国有銀行の支持のもとで淘汰(とうた)されなかったことがそもそもの原因だ。

 習氏は、中国が「国情にかなった発展の道を歩んだ」ことを強調した。グローバル化のもとでも基本政策を欧米と同じにする必要はないとの主張だ。

 だが、そうした政権の流儀は市民の利害とずれているのではないか。

 ここ数年、中国の旅行者が日本、香港や台湾で生活用品を買いあさった理由の一つは、中国政府の輸入関税引き下げが遅れたことだ。

 外国為替をいくら厳しく管理しても、抜け道を使って米ドル建ての投資をし、生活防衛に走る人々がいる。

 情報の管理はさらに厳しく、北京ではツイッターやフェイスブックは利用できない。それでも、壁を乗り越えるネットユーザーも少なくない。

 中国の昨年の経済成長率は6・7%で、26年ぶりの低さだった。貿易の不振が目立つ。人件費の上昇で労働集約型産業が優位性を失い、世界経済での中国の位置づけは変わりつつある。いっぽう、個人消費が力を増しているのは明るい材料だ。

 習氏はダボスで「中国の貢献」をアピールしようとした。だが、真の主役は党や国家ではない。転換期の中国を担うのは民間企業と市民である。