Aはよくある錯覚で、損した1万円はサンクコストなので、このあと勝っても負けても取り返せない。これはちょっと考えると分かるが、難しいのは問題Bだ。干拓地は無駄だが、すでに投資は終わっており売却が可能なので、少しでも売却してコストを回収したほうがいい。
つまり大きな固定費を支出したあとは、短期的には投資先を変えずにサンクコストを守ることが合理的だ。考えるべきなのは、今後のキャッシュフローだけなのだ。
これを小池知事のように「投資をやり直したいが、今までのコストがもったいない」というトレードオフで考えると混乱し、野党や市民団体が「カネより都民の安心が大事だ」と騒いで収拾がつかなくなる。
問題は築地を使い続ける「機会費用」だ
論理的に整理しよう。まず豊洲の建設費6000億円は忘れていい。土地の売却益や再利用可能な設備などを差し引くと5000億円ぐらいかも知れないが、サンクコストは意思決定に関係ないので無視できる。
小池知事の考えるべきなのは、豊洲の維持費とその機会費用(代わりの手段にかかる費用)のどっちが大きいかという比較である(維持費には都民の不安への対策費も含む)。
常識的に考えると、豊洲移転をやめたら築地を使い続けることになるが、これは老朽化して場所が狭くなり、魚が地面に転がされて環境基準どころか食品衛生法違反だ。建築基準法にも違反する建物がたくさんあり、木造家屋が多いので、火事が出ると丸焼けになるリスクが大きい。
答は明らかだろう。築地を使い続ける機会費用は豊洲よりはるかに大きいので、不安があっても移転した方がいい。豊洲と築地以外の「第三の市場」は新たに6000億円近い投資が必要なので、どう考えても採算に合わない。
これが従来の都庁の方針だった。「分からない場合は既定方針通りやる」という役所の掟には、それなりの合理性があるのだ。公共投資のようにサンクコストが大きいと機会費用も大きいので、公共事業でも民間プロジェクトでも、問題の先送りが事後的には合理的になることが多い。
しかしこのような「時間非整合性」が事前に分かっていると、役所は採算性を考えないで巨額の投資を行い、財源が不足したら公債で将来世代から前借りする。つまり既定方針を守る役所の掟は、短期的には合理的だが、長期的にみると官僚は将来の納税者にただ乗りしているのだ。