山田孝之主演の深夜ドラマ『山田孝之のカンヌ映画祭』第3話感想/ネタバレあり
テレビ東京 / 毎週金曜 / 2016年1月6日(金) 深夜0時52分〜 30分ドラマ
主演:山田孝之 監督:山下敦弘 / 松江哲明
あらすじ:2016年の夏、今まで俳優として意外にも大きな賞を取ったことない山田孝之が『カンヌ国際映画祭』の『賞』が欲しいということで、山下敦弘監督を呼びつけ『賞を取るための映画』を山下監督に撮ってもらいたいと話を持ちかけたところからこの物語は始まる。
山田が持ち込んだ『題材』を山下監督が映画化し『カンヌの1番のやつ』を取りに行く!
どうも、アバウト男です!
山田孝之主演のフェイクドキュメンタリードラマ【山田孝之のカンヌ映画祭】こと通称【山カン】!
撮影に必要な資金調達のためにスポンサーに見せる試作映像:パイロットフィルムを撮ることになった第3話!
今回もドラマの売りである『ディス』ポイント(D)と『舐め』ポイント(N)を絡めせながら、ネタバレ込みで書いていこうかなと思います。
第1話感想
第2話感想
第3話の感想
何も聞かされてない山下監督(N)
ざっくりと『撮りたいもの』があるとプロデューサーの山田孝之に呼ばれ、主演俳優の芦田愛菜と監督を務める山下敦弘はとある森に車で向かっていた。到着するとそこには山田が集めた『完璧な布陣』なる撮影スタッフが集められていた。
戸惑いながらも挨拶を済ませた山下監督が、すかさず山田を呼び出し、
「おれ、何撮りゃいいの???」
山下監督はパイロットフィルムの撮影に関して一切何も聞かされていなかった… と言うか普通パイロットフィルムをどう撮るかの事前の打ち合わせとかしそうなもんだけど、そんなんすっ飛ばしていざ撮影当日って!荒い。これが『通常の映画作りの逸脱』を意識した結果なのか!? 不安気で見守る芦田愛菜。
特に山田が用意した台本も無く、撮る内容は全て山田の頭の中。寧ろ「今考えてるだろ?」的なふわっと感。
山下監督が山田に思い描いている内容を聞こうにも「あの、詮索しないで欲しいんだけど」と軽く突っぱねられてしまう。
裸の王様のような山下監督は完全に置いてけぼり。結局山田が仕切り出し、なすがままに。ちょっと今回の山下監督は舐められてるを通り越して、若干可哀想に見えちゃいました。
個人的には、芦田愛菜と山下監督が撮影の『動きの確認』を山田に見せるも、肝心の山田が飲んでた水でむせて見てなかったシーンが好きですね。なんだよあの1人だけ2Lの水持ってる違和感。どんだけ水分補給すんだ!?
カンヌに前のめり過ぎ(N)
今回の第3話は、第1話同様にさらっと『カンヌ』を舐めてる発言や演出が入っていた。分かりやすいところで言うと、車を停めてる待機場所から草木が鬱蒼とした撮影場所までの移動の間に、山田からの「頑張って行きましょう!」的な意味の掛け声として、
「カンヌ目の前なんで!」
と一言バシッと決める。
いやいや、さすがに早いだろ!
まだパイロットフィルムの撮影前の移動の間よ。カンヌ楽勝かよ!
その手前でも、さり気ないんだけど助監督が紹介される際にテロップで『渡辺直樹』と名前が出るんだけど、その下に肩書きで『カンヌ国際映画祭グランプリ受賞【穢の森】に参加』と書かれていて、実はこの【穢(けがれ)の森】とは、今回のドラマの肝である映画のタイトル。要は『すでにグランプリを取った前提』でテロップを出しちゃってて、
さすがにカンヌに前のめり過ぎだろ!
と思ってしまった。最初にテロップが出た時点ではタイトルは公表されなかったから、テロップを一瞬見て、実際にカンヌでグランプリを取った【穢の森】って作品があるのかと思ったわ!
↑追記:上のグレーの部分に指摘が入り、どうやら僕の見間違いでした。ごめなんなさい。河瀬直美監督の【殯の森】を【穢の森】と見間違えました。
確か、第2話で名前が挙がった河瀬直美監督作品の助監督をやってたみたいです。こう見ると映画のタイトルを敢えて似せたのかな?前のめって【穢の森】って書いてあっても面白かったけど。
気になって助監督の渡辺直樹さんのこと調べたら、山下監督作【もらとりあむタマ子】の助監督やってる人じゃないかよ!山下監督のあの余所余所しさは何だったんだよ!?初対面の空気感だったけど。
一緒にもう1人テロップが出てた撮影監督の山崎裕さんも調べたら、知らなかったんだけどマジですごい撮影監督さんでした。
柳楽優弥がカンヌで主演男優賞を取った【誰も知らない】や【歩いても 歩いても】【奇跡】【海よりもまだ深く】など是枝裕和監督とのコンビが有名で、他では佐村河内守のドキュメンタリー映画【FAKE】や、西川美和監督作【永い言い訳】の撮影も手がけてたり、日本映画界に無くてはならない人でした。
この人を撮影監督として、フェイクドキュメンタリードラマ内で出演させるって、凄いのか・ある意味舐めてるのか分からなくなって来る。
FAKE
永い言い訳
肝心のパイロット・フィルムがイマイチ(N)
とは言え、出来上がった肝心のパイロットフィルムの出来は、これで「お金出そう!」って気になりそうにない『凡作』というか、いまいちピンとこないモノでした。あくまでパイロットフィルムとしてこんなもんなのかな。
内容は、首を吊った男の傍で、芦田愛菜演じる倒れてる少女が目を覚まし、落ちていた包丁を手に取り「あ”ぁーーーー!」と叫んで終わり、でタイトル【穢の森】がドン!って短っ!
実際の作品の設定は、少女の後ろで首を吊っていた男は母親に殺された父親で、少女も母親に首を絞められ殺されかけ、意識を取り戻し母親への復讐を誓う…的な『親殺し』を主題とした物語。なんだけど、もはや映画の題材として持ってきた大量殺人鬼の
エド・ケンパー関係ねぇ!
何だよw 蓋を開けてみれば単なる親に殺されそうになった子供の復讐劇じゃねぇかよ。ネタ元とも言えないレベルで関係ねぇー!他にも作品内のクレジットのフォントが絶妙にイケてないとか、これで「カンヌ目の前なんで!」とかよく言えたな…w と面白かったですね。
有村昆のある意味ディスった使い方(D)
映画コメンテーター有村昆が主宰するイベント内で、今回作ったパイロットフィルムを披露したんだけど、それを観た有村昆は「親殺しから最も遠い存在のような芦田愛菜ちゃんに、親殺しを演じさせるのはコンセプトとして"あざとい"」と苦言を呈した。
これはわりと誰もが思う事でもあると思うし、納得できる意見ではあるんだけど、前回の第2回の放送で天願大介が言っていた事を思い出すと、この有村昆の意見はあくまでも『日本での話』でもあって。
日本での芦田愛菜は確かに、鈴木福くんと踊っていた『マルモリ』ダンスとか、しっかりと礼儀正しい子役のイメージがあるんだけど、『カンヌ=外国』からしたらそんなん知ったこっちゃない。知っててもギレルモ・デル・トロ監督作【パシフィック・リム】に出てたくらいのイベージしか無いだろう。
逆にカンヌにしたら「あの作品に出てた子が主演で親殺しの話なんだ!?」って興味の方が先に立ちそうだなと思った。そういう風に考えが誘導させられたのも、このドラマの狙いなんだろう。
今回の有村昆の意見は、芦田愛菜がラストに登場した第1話を観た視聴者の反応とも重なる。「大量殺人鬼とかけ離れた芦田愛菜を、チョイスしてくるとかウケるしズルい!(=あざとい)」って反応を視聴者にさせた上で、
第2話で『カンヌ映画祭』の特性や『日本映画の最近の傾向』を聞かされてからの、今回の有村昆のツッコミで「ってことは逆に、芦田愛菜はネタだけのキャスティングじゃないのか!?」と間接的にハッとさせる仕組みにもなっていて。
しかも、この有村昆の意見は『本人がマジに言ってるものなのか?それともドラマのセリフとして言わされているものなのか?』分からなさがなんともズルい。
「有村昆ならそんな事言いそ〜!」と視聴者の反応込みのニヤついたキャスティングでもあるだろうし、『日本の枠組み』で考えて意見してしまう映画コメンテーターを、半ばディスってる?とも取れる絶妙なラストでした。
首吊りのプロ『首くくり栲象』
今回、首を吊っている男の画が欲しくて、普段なら人形を使ったりするんだけど、リアルを求めた山田は『首吊りプロ』首くくり栲象(たくぞう)なる人を連れて来ていた。いくつなんだろう?見た目は長身のおじいさん。
この人は1997年から20年近く自宅の庭で首を吊り続けていて、実際に3分感ほど首を吊ることができるらしい。パフォーマンスとしてやってたりもするし、こういう撮影で呼ばれる事もある恐らく唯一無二の『首吊りのプロ』だ。
※生命に関わる危険な行為なので絶対に真似をしないでください。
というテロップと共に実際に首を吊る姿を見ると、分かっていても心配になる。森の雰囲気も相まって異様な空気感は確かに漂うってはいた。
首くくり栲象さんを扱った記事
彼を追ったドキュメンタリーもあるみたい
他にも、
もしもの事があった場合のために呼んでいた看護婦さんが見るからに『手ぶらのオバさん』だったり、芦田愛菜に演技指導をする山田孝之のが「やっぱアンタが主演した方が良いだろ...」と思わせる瞬間的な演技の上手さを見せつけたり、リアルに首を吊った男の前で芦田愛菜ちゃんを演技させる事を心配する山下監督の優しさなんかも良かったですね。
見えて来たドラマの方向性
3話目でなんとなく見えて来たのは、このドラマ【山カン】は、
ドラマを通して、映画がどう作られていくか一般の人に知ってもらう事を目的としている。
映画がこれだけ世に溢れていても、僕も含め映画がどう作られて行くのかは知らない人が圧倒的に多い。どう企画が立って/どうキャスティングされ/どうお金が出て/どう撮影して/どう編集して/どう流通して/どう宣伝してか等。
『カンヌ国際映画祭のパルムドールを取る』という『無理め』な大枠を掲げつつも、実際はところは『映画が作られて行く過程』を知ってもらうのが狙いなんだろうな。
それは一般人(観客)の映画に対するリテラシーを向上させる目的もあるだろうし、こういう表舞台に出ない『プロ』の人を知ってもらったり、これを機に映画業界の仕事に興味を持つ人もいるだろう。こんな映画の関わり方もあるって職業紹介にもなってたり。
『映画』というものを解体して「こんな業界なんですよ〜」と、映画業界を引っ張る山田孝之や山下監督が表立って分かりやすく説明してくれてるような、映画好きな僕としては実にタメになる『映画教育ドラマ』ですね。
映画の本とか買うけど結局読んでなくて、ドラマとして楽しみながら学べるってのは良いですね!
- 第1話:カンヌを目指す
- 第2話:カンヌを学ぶ
- 第3話:パイロットフィルムを作る
- 第4話:お金を集める
って流れだから、そういうことなんだろう。
第4話:お金を集める
映画制作に必要な資金を集めるために作ったパイロットフィルムを持って、山田孝之/芦田愛菜/山下監督の3人は、【シン・ゴジラ】【君の名は。】を当てた大手映画会社『東宝』を訪れ、そこで制作費1億円を要求する。ますます面白くなりそうな予感!
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