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「本との出会い方」がさまざまに演出されている。若者にも親しみのある有名人や作品がきっかけになって、旧作が思わぬ売れ行きを示す例も生まれている。
夏恒例の文庫フェアで、今年は有名人の推薦を前面に出した企画が相次ぐ。
集英社文庫は、アイドルグループ「AKB48」のメンバーら85人がそれぞれ本を1冊ずつ選び、感想文を同社の特設サイトなどで週替わりで公開するキャンペーンを始めた。帯には1点ごとに違うメンバーの顔写真がつく。「この子の感想文を読みたい」と本を買う人も増えているという。
今年の「AKB総選挙」1位の指原莉乃は東野圭吾『白夜行』を読んだ。感想文は、800ページ超の分厚さに「ぞっとした」と始まり、「乗り気ではなかったけれど、気がついた頃(ころ)には完全に魅了されていた」と始まる。「全く共感できなかった。あの主人公に共感できる人なんてなかなかいないだろう」「ただ全く共感できないからこそ物語に引き込まれ、感嘆のあまり何度もため息をついた」。作家や書評家とも違う、等身大の率直な言葉だ。
「読書経験が少ない人に本を手にとって欲しい。若い男性を中心に、入り口役を彼女たちが果たしてくれるはず」と文庫編集部の瀧川修編集長。フェア開始後、大島優子が読む田中慎弥『共喰(ぐ)い』が7万部、島崎遥香の選んだ『星の王子さま』は4万部を増刷するなど主要メンバーが担当した本を中心に売れている。
新潮文庫はキャンペーン「ワタシの一行」を7月から始めた。ビートたけし、JUJU、小雪、中川翔子、尾木直樹ら108人が愛読書から心に残った1行を選び、コメントをつける。太田光は太宰治『晩年』から「死のうと思っていた」を選んだ。
「ワタシの一行」を選び、その理由を書けば、そのまま感想文になる。夏休みの課題に採り入れたい、との小学校もあるそうだ。
松井秀喜さんの選んだ中村計『甲子園が割れた日』や菅義偉官房長官の半藤一利『幕末史』などの売り上げも伸びている。(中村真理子)
■ドラマやマンガが案内
テレビドラマやマンガ、アニメなど若者に身近な作品が、本との出会いを取り持つケースも増えている。
フジテレビ系で今春まで放送されたSFアニメ「サイコパス」。登場人物がSF作品などを紹介しながら「紙の本を買いなよ」と話すシーンが話題になった。
紹介された本のフェアを早川書房が仕掛けたところ、10~20代の反響を呼んだ。ディック『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』が3万部、オーウェル『一九八四年』は1万部増刷した。依光孝之広報課長は「SFの古典的作品が、経験のないほどの売れ行きをみせた。特に若い女性に好評で驚いた」と話す。
連続ドラマになったベストセラー小説『ビブリア古書堂の事件手帖(てちょう)』も、旧作を掘り起こした。古書店を舞台に起きる事件を、女性店主が解決するミステリー。謎解きのかぎに古書が効果的に組み込まれ、作中の本の人気に結びついた。
例えば、古書好きに知られた梶山季之『せどり男爵数奇譚(たん)』(ちくま文庫)は2000年以来1万部売れたが、11年11月以降は9回の増刷で3万5千部に。小山清『落穂(おちぼ)拾い』を文庫化したところ、初版8千部がたちまち売り切れた。
いずれも一般読者の目にはつきにくい作品で、ちくま文庫の羽田雅美編集長は「一作品がここまで複数の本を動かした例は聞いたことがない」という。
ほかにも東京・表参道の山陽堂書店が6月、マンガ「草子ブックガイド」で紹介された本を集めたフェアを開いたところ、宮沢賢治『銀河鉄道の夜』、ケストナー『飛ぶ教室』などの名作がよく売れたという。
「一般読者は昔以上に本に出会うきっかけを探している」とみるのは、出版事情にくわしいライターの永江朗さんだ。出版不況と言われながら、書籍出版点数は増え続けている。「名作100冊といったガイドは権威による押しつけ感がある。もっと身近なところから、本と出会いたい。フィクションによる一種のブックガイドは、きっかけ作りとして面白い」(上原佳久、野波健祐)