昨日、以下の件が軽く炎上してました。 ≪日経ビジネスオンライン≫「マーベル新作、“マント人気”で大台ヒット狙う 「ドクター・ストレンジ」全体マーケティング統括担当、ディズニー・ジャパン井原多美氏に聞く」 記事はこれ→ (Click!) 「女性とのロマンスがしっかりと描かれていて、女性も映画の世界にすっと入り込んでいける。女性にラブ要素は欠かせないですからね」という雑きわまりないプロモーション戦略の説明が総スカンをくらい、炎上。私も『マッドマックス 怒りのデス・ロード』や『10 クローバーフィールド・レーン』等、「俺は普通に映画を観たいだけなのに何でこんな仕打ちを受けなきゃならんのだ」とたびたび不満を感じつつ映画に接しているので、この件も「あー語り口がムカつくー」と思いつつ横目で見ておりました。 が、その後にユーザー間で行われた、あるアンケート結果の拡散のされ方が非常にあやういので、余計なお世話は百も承知で、その解釈について書きます。(Twitterのほうに書こうかとも思ったのですが、Twitterではできる限り非生産的な話だけしていたいのでこっちに書きます。昨日、本件関連でちょっとマジな論調で投下したツイートも、RTしていただいた方には申し訳ないのですが、恥ずかしいので近々消します) で、ある方が行ったアンケートとその結果がこちらです。
「女性は恋愛要素があれば映画を観に行く」的なステレオタイプな言説に検証を入れてみよう、といった趣旨でしょうか。20,000人近い方が回答しています。すごい!
アンケートを行った方ご自身はこのアンケートにバイアスがかかることを認識しておりまして、だからこそアンケート後の結果もパーセンテージではなく回答者の「実数」でまとめ報告をされていたようなのですが、アンケート結果のみを目にしたと思しき方々が、そのへんのバイアスをあまり考慮せず「女性の大半が恋愛要素を不要と考えている」という解釈で拡散してしまっているのを目にしました。それはかなり危険なことなので、ちょっと指摘させてください。 まずこのアンケートは、ツイート主ご自身が言及していたとおり回答者の傾向に相当なバイアスがかかったものなので、世間一般に割り戻しはできない数字であるということを踏まえなければなりません。そもそもが、いわゆる「映画クラスタ」の方から発信され、映画クラスタを起爆剤に拡散されたアンケートです。異常な「恋愛推し」を含む日本版予告の問題点について、常々問題意識を持っている人が初動を担っています。 さらに、このアンケートは「自由参加」です。RTを目にした人全員が回答を強制されるものではありません。なので、モチベーションの観点から、日本版予告について問題意識をもっている人ほど自発的に回答することになり、問題意識を持っている人たちの間でこそ積極的にRTされていきます。拡散とともに母数は増えていきますが、このバイアスが常にかかり続けるため、2,000を超えるRTがあったとしても、おそらく回答者の大半は映画クラスタ近辺のアカウントである可能性が非常に高いです。20,000人近くが回答したからデータ数が十分で、結果が正しいということではないのです。 また、このアンケートは、大元のツイート自体は恣意的な表現を含まないように非常によく考えられた、公平な文言になっています。が、いざそれをRTする人は、RT前後に自分の主張を併記できるため、回答者同士の意見の独立性が担保できない点も指摘しておきます(このアンケートが行われた時間帯に、ちょうど映画クラスタのTLをディズニーバッシング旋風が通過していたことも考慮すべきかと)。
もう一つ、このアンケートの結果から「洋画宣伝において恋愛要素のアピールは無駄」という結論を読み取っている方が多くいたのですが、それは性急です。ていうか一番極端な例だと、「恋愛推しの予告を作っても17%しか客が増えないことが示されたな」というツイートもありました。これはもう、ぜんぜん違います。
(※ここから先の計算、厳密性より説明の簡略化を優先するため端数全部切り捨てます) そもそも、その考え方をするなら、回答者のうち12%は結果に寄与しない男性票なので除外し、女性のみを母数として割り戻すと、女性100%のうち19%が「恋愛要素が映画を観ようと思うきっかけになる」、81%が「ならない」集団になります。 で、母数81になるはずのところ19増えるのだから19÷81で増加率は23%、と計算するべきです。・・・が、そもそもこの考え方自体が間違いなのです。 この論法の根本的な間違いは、「恋愛要素が映画を観ようと思うきっかけにならない」と答えた81%の人を、「恋愛要素がなくても映画を観に行く人」と誤読してしまっていることによります。が、この81%の人たちは、あくまで「恋愛要素に反応しない人」であり、ある映画を観に行くことが確定している人では全然ありません。 この81%の人は一枚岩ではなく、各人が映画の中の何に興味を持つのかは、もっともっと細分化されます。ある人は海外俳優A氏に興味があるかも。ある人はサスペンス映画なら興味があるかも。ある人は爽快なアクションなら興味があるかも。などなど・・・。 だから、恋愛要素のない作品の予告を観ても、「恋愛要素には興味なし」と回答した81%全員が観に行くなんてことはありえません。実際にその作品を観に行きたいと感じる潜在顧客は30%かもしれないし、20%かもしれないし、5%かもしれないのです。 で、そう考えると、19%の人の「観に行きたい」スイッチを入れる恋愛要素って、何気にすごくないですかね・・・? 前段で説明した通り、かなりのバイアスがかかったであろう今回のアンケートですら19%の女性が恋愛要素に反応するという結果なのですから、世間一般での傾向を考えれば、恋愛要素のパワーはさらに高いものになると思われます。 なので、私はこのアンケートの結果を観て、「あっ、この条件下でも19%も恋愛要素に反応するという回答してるのか!?」と、拡散傾向とまったく逆の感想を持ちました。 これらを踏まえて考えると、映画プロモーションが馬鹿の一つ覚えみたいに「恋愛!家族愛!人類愛!」みたいなラブ念仏を唱えまくっているのも、それなりに勝算があるということが分かるかと思います。とはいえ、私は本稿をもって「オラァ!だから配給会社様は正しいんだぞお前ら!!!」と言いたいわけでも、「女ってホント恋愛好きな~!ホント好きな~!(地獄のミサワ顔で)」と言いたいわけでもありません。私も映画業界のラブ念仏を聞くたびに「アタマ沸いてんじゃねえのかコイツら」と思ってます。 が、今回のようなアンケート結果が誤読されたまま広まってしまうのは、ある偏見を打ち消す代わりに別の偏見を強めているだけです。そして、間違った根拠を武器に配給会社に異を唱えても、それでは何も変わらないのです。自分のもっている武器が正しいのかきちんと吟味し、相手が拠り所にする根拠も把握し、そのうえで殴りかかってこそ、建設的な議論になるはずです。 さて、誤読によって少しおかしな拡散はしているものの、今回のアンケート自体は物凄く意義のあるデータをもたらしています。それは、たかだか数時間で行われたアンケートに、実に1万4千人の女性が「恋愛要素とか別に求めてねーから」と回答した事です。そういう強固な客層がガッツリいるんだぞ、ってことを改めて明確にしたという点で、このアンケートは配給会社に対するお客側の意思を示したデータとして、有用な使われ方ができるのじゃないかなあ、と思います。 真面目な話はこのへんで。そろそろクソツイートマンに戻ります。 |
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