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【赤字のお仕事】
「糶取り」…ネットオークションでもおなじみのあれはこう書くの?
何年か前にブックオフで英国の作家、ジェームズ・ヒルトンの『失われた地平線』という絶版になっていた文庫本を105円で買った。「シャングリラ」という理想郷を意味する言葉を広めたことでも知られるこのチベットを舞台にした冒険小説は期待したほどには面白くはなかったけれど、Amazonマーケットプレイスに出品すると4500円で売れた。これを「せどり」という。
奇妙な語感を持つ一見して正体不明のこの言葉は、ここ数年のうちに見聞きすることが多くなった。本などを安く買って高く売り、利ざやを得ることをいう。早くいえば「転売」である。この言葉が世に広まるきっかけを作ったのは昭和50年に急死した作家、梶山季之の書いた『せどり男爵数奇譚』という古書にまつわる連作小説だといわれている。さらに三上延のミリオンセラー小説『ビブリア古書堂の事件手帖』が、この言葉を定着させたとおぼしい。どちらの小説にも古本を転売する「せどり屋」が出てくるのだ。
ネットの発達で一般人が気軽に「せどり」ができるような環境が整ったことも大きい。「ヤフオク!」などのネットオークションサイトやAmazonマーケットプレイスなどで個人が簡単に商品を売ることができるようになった。また、大量の在庫をそろえるブックオフをはじめとする新古書売買のチェーン店が増えたことで、転売する商品を安く買えるようになったこともある。最近はネットオークションやネットショッピングで品物を買い入れ、それをネット上で高く売る「ネットせどり」というやり方もある。これなら家から一歩も外に出ずに、「せどり」をすることも可能になるのだ。