島地 作家の本分を全うしたといえば、昨年亡くなった船戸与一も早稲田の探険部で、西木さんの後輩でしたよね。
西木 年齢は確か4歳下だったかな。一緒にアラスカで越冬したことがありますから、まあ、ケツの穴まで知ってる仲ですよ。ガンでもう長くないらしい。そんな手紙をもらったときは、何かの間違いだろうって、なかなか受け入れられませんでした。
島地 俺は『山猫の夏』を読んで感動して、小説を書いてくれとお願いしたときからの付き合いでした。寡黙な男だったけど、素晴らしい仕事をしたと思う。
西木 最初に手紙をもらったときは「肺がんであと1年」と書いてあった。でも実は胸腺がんで、告知から7年も生きました。あれは物書きとしての執念でしょう。
島地 まさに執念だね。『満州国演義』を書き切り、最終巻が刊行された2ヵ月後に逝ってしまった。ほんとうにいい仕事をしたと思います。ご冥福を祈って献杯しましょう。
西木 では、献杯。
島地 ところで、さっきのパイプカットの話だけど、もっと詳しく聞かせてくれないかな。弟さんはいまも・・・
日野 もー、今回はせっかくいい感じで〆られると思ったのに、どうしてそこに戻すんですか。
西木 湿っぽいまま終わるのは性に合わない、シマジらしい転換が僕は好きですよ。しかし、まだパイプカットに興味があるなんて、お前こそ相当な無頼派じゃないか。
島地 どんな立派な人物であっても、下半身に人格はないんですよ。そうだ、今度、新宿伊勢丹でやっているバーに遊びに来てよ。
西木 聞いたよ。「シマジさんが新宿でバーをやってるらしい」って、作家仲間でも話題になることがある。でもシマジがバーマンなら、話はおもしろいし、博識だし、間違いなく繁盛するんじゃないかな。
島地 おかげさまで大繁盛しています。土日はだいたい店に出ているから、そこで話の続きをしましょう。
日野 他のお客さんもいるので、パイプカットの話は控えめがいいかと。
島地 いや、興味津々でみんな食いついてくるよ。
西木 どんなバーなんだよ、いったい。
〈了〉
著者: 開高健、島地勝彦
『蘇生版 水の上を歩く? 酒場でジョーク十番勝負』
(CCCメディアハウス、税込み2,160円)
1989年に刊行され、後に文庫化もされた「ジョーク対談集」の復刻版。序文をサントリークォータリー元編集長・谷浩志氏が執筆、連載当時の秘話を初めて明かす。