「1億円の接待費」「象1頭600万円」「ハードボイルドなパイプカット」……語り継がれる豪傑たちの伝説
第14回ゲスト:西木正明さん(後編)
島地 勝彦 プロフィール

ハードボイルド作家の決めゼリフ(その2)

西木 僕の弟は泌尿器科の医師なんですが、ある日、北方から電話があって「西木さんの弟を紹介してください」という。紹介するのはぜんぜんかまわないんだけど、一応理由を聞いてみたら、それがまあ、北方らしいというか何というか。要約すると、銀座あたりのクラブで、数人の女から自己申告があったと。

日野 自己申告?

島地 「出来ちゃった」ってこと。

西木 本人曰く「全部俺というのはありえない。しかし今後、こういうことがあったときに、自分の身の潔白を証明する必要があるからパイプカットしたい」。そこで、信頼できる医者を探しているうちに僕の弟を思い出したというんだね。

紹介ぐらいはいくらでもするけど、他に方法もあるでしょう。そういうコトはもうしない、とかさ。そしたら北方は「いや、それはダメです。男には譲れないときがある」と。

日野 ハードボイルド風に言ってますが、ただのエロオヤジじゃないですか。

島地 さすが文豪・北方謙三だね。手に持つペンだけでなく、シモのペンもフル稼働しているんだから。

西木 結局、パイプカットしたんですが、あんまりおおっぴらにする話でもないだろうと思って、人には言わないようにしてたの。そしたらある日、何かの集まりのときに、大沢在昌がでっかい声で「謙ちゃんがさ、西木さんの弟のところでパイプカットしたんだって!」って話してるじゃない。変に気を使って損しました。

島地 あの二人はマブダチだからね。で、パイプカットの効果はあったの?

西木 これは大沢から聞いた話だけど、クラブで女を口説くとき「俺はパイプカットしたから絶対に安心だ」を決めゼリフにしているとか。やった後、自分じゃないと証明するはずのものを、やるための材料に使ってるわけで、そこはやっぱり、流石としかいいようがない。

島地 作家は作品がすべてです。素晴らしい作品を書いてくれるなら、私生活がどんなにだらしなくてもいいんですよ。北方謙三は今や数少ない無頼派ですから、ずっとその生き方を全うしてほしいね。