ピカピカ光れ、泥だんご まん丸すべすべ秘伝レシピ 京都教育大学教授、加用文男
よっこらしょ、と空き地に座り込む。バケツの水で地面をぬらし、土をかき集めてだんごにする。さらに乾いた砂を何度もかけ、「まぁるくなあれ」と唱えながら表面をさすること3時間。
つるり。触感が急に変わる。とたんに表面が光り始める。ここまできたらしめたもの。「光る泥だんご」の一丁上がりだ。ボウリングの球のように輝く不思議なだんごにみせられ、かれこれ17年、研究している。
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■保育園で衝撃の出合い
京都教育大で発達心理学を教えてきた。子どもを観察するため保育園にしょっちゅう赴く。あるとき「保育士の労働実態を伝える映像を作ってほしい」と頼まれた。
お安いご用と引き受けた。4カ月間、朝から晩まで園にはりつく。こんなに長く子どもを観察するのは初めてだった。彼らがよく泥だんごを作ることに気付いた。
暇つぶしに私も作っていると、ある保育士さんが「ええもん見せたろか」と自作のだんごを取りだした。まるで鏡のように光る球を見て腰を抜かした。「こ、これ、どうやって作ったん?」
すっかり魅力にとりつかれた。50個目でようやくきれいな球体になったが、光らない。しょんぼりする姿を哀れんだか、その保育士さんが「秘術を教えたるわ」と、ある技を伝授してくれた。
まず、水をかけた砂を手に握り、ギュッと水を絞りながら丸く固める。その次に、少し湿らせた砂を何度もかけて、てのひらで転がす。この土台作りに1時間ほど。
次がいよいよ秘伝の「手粉かけ」。手を地面の乾いた砂になで付けると、白い粉が付着する。このきめ細かい粒子を、土台を磨くようになすりつける。500回ほど繰り返すと、急に大理石のように滑らかになり表面が黒光りしはじめる。砂の細かい粒子が凹凸なく並んだからだ。
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■永久保存版は偶然から
200個ほど制作して、ようやくこの境地に達した。2年間、毎日のように大学で作っていたから「加用先生がおかしくなった」と噂が立ったらしい。
だが、当初のやり方では2、3日後にくすんでしまう。永久保存版は作れないかと考え込んだ。
そのころ、父が脳卒中で倒れ、郷里の高知へ見舞いに行った。空いた時間に出身小学校の校庭でだんごを作っていると、先生が困り顔で話しかけてきた。いわく「近所の人から不審者がいると通報がありました」と。
「文男くんじゃない?」。しばらく話すうち、彼女の顔がパッと明るくなった。顔見知りとわかり、話に花が咲いた。おかげで手はすっかり留守になり、さするだけになっていた。話し終わって、手元を見ると、真っ白に光る球があった。
翌日には中の水分がしみ出て、球は白から黒に変わり、その後も光り続けた。液体のファンデーションの上に白粉をはたくと、滑らかな肌になるのと同じだろう。最後に手粉で磨くのではなく、優しくさすって乾いた部分を残すことで水分量が調整され、光り続けたというわけだ。この発見で、永久保存版が完成した。
いつの間にか有名になり、全国の保育園・小学校から講演依頼が舞い込んだ。手拭いとバケツがあればどこでも作れる。たいていケーキと紅茶なんかが用意されているが、頂く暇はない。校庭を一巡りし、土台作り用と手粉用に良い土がどこにあるのか、見極める。
校庭がぬれていると作れないが、「そこを何とか、先生の力で」と押し切られることも。ある学校では、布団乾燥機で砂を乾かしながら作った。
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■夢中にさせる何かある
さて、「泥だんごづくりの効用は」と問われると、答えにくい。「集中力がつく」という人もいるが、集中しない子もいるし、土集めにご執心の子もいる。そもそも遊びの効用が証明されたこと自体がない。ひとつ言えるのは、素材集めに子どもの裁量があり、無理に誘い込まなくてもやるということだ。
ピカピカ光る泥だんごを見せると、1日くらいは子どもに尊敬してもらえる。「泥だんごの先生が寝ろといったから寝る」という具合だ。作品を見せると「スゲー」と驚いてから、「でもな、おれが作ったのはもっと光ってたぞ」と自慢げに報告してくれる。そういうやりとりが面白い。
還暦過ぎの身に、かがんでの作業はこたえるが、始めると夢中になってしまう。子どもも大人も、この素朴な遊びのなかに、何かを見つけるのだろう。
(かよう・ふみお=京都教育大学教授)
[日本経済新聞朝刊2017年1月17日付]
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