文部科学省の元高等教育局長(61)が早稲田大学に再就職する際、法で禁じられた「天下り」のあっせんを受けるなどしたという疑惑が浮上した。省内の組織的な関与も指摘されている。
この事態に、文科省官僚トップの前川喜平事務次官が辞任の意向を固めたとされるが、それで「幕引き」というわけにはいかない。
誰しも、ここだけか、という思いがよぎろう。全省庁で「天下り」の実態を洗い直す契機とすべきだ。
元局長は、2015年8月に退官、同年10月に早大教授に就任した。
大学のホームページによると、高等教育政策、著作権を専門分野とするほか、文科省関連の事業にかかわる連絡調整などが挙げられている。
国家公務員法は、再就職をあっせんすることを禁じ、本人による利害関係のある企業・団体への求職行為も禁じている。
文科省は大学の設置認可や助成などに権限を持ち、実務は高等教育局が担う。大学との間に利害関係は生じうる。
政府の再就職等監視委員会が調査したが、あっせんには省の人事課関係者が関与し、大学側へ元局長の経歴など人事情報を提供、元局長も在職時に大学側に就職に関し相談した疑いがある。
いずれも国家公務員法に違反する可能性がある。
また、これまで他にも同様に再就職あっせんが多く繰り返されてきた疑いがあり、組織的な違反の様相ものぞく。
07年の法改正で強化された天下り規制は、国民の不信を招いていた中央省庁と利害組織などとの癒着を断つことを主眼とした。
その後も違反の指摘例はあったが、今回のケースは組織的であることなどから悪質性が高いと判断したとみられる。
また、深く思いを致さなければならないのは、傷ついた信頼だ。
文科省の当事者たちが犯したルール破りの影響は大きい。
公正、公平を説き、ルールを守ろう、ズルはいけない、と繰り返す学校教育。いわば、その総元締(文科省)に露呈したズルである。
文科省は関係責任者を懲戒処分にする方針だが、それではすまない。不信感は「アクティブ・ラーニング」への転換をうたう次期学習指導要領の策定や、新しい大学入試、学校制度の多様化など、教育改革の機運に水を差しかねない。そういう危機感をもって今回の問題はとらえなければならない。
疑念は省庁全般にも及ぶ。総点検を急務とするとともに、結果や実態の情報公開を強く望みたい。