目の不自由な人たちが「欄干(らんかん)のない橋」と恐れる駅のホームで、また悲劇が起きた。埼玉県のJR蕨(わらび)駅で14日朝、盲導犬を連れた男性が転落し、電車にはねられて亡くなった。

 昨年、東京と大阪で死亡事故が続き、国や鉄道業界が対策強化に乗り出した矢先の事故だ。きわめて重く受け止めたい。

 国の検討会は昨年末、視覚障害者が単独で駅を利用する時は駅員が声をかけ、本人が希望しなくてもできる限り乗車まで見守る、との方針を打ち出した。

 蕨駅でも改札の駅員が男性の通過に気づいたが、日頃よく利用している人だったので声はかけなかったという。

 ホームドアがない駅では、人の目が何よりの「欄干」である。慣れた駅でもふとした原因で視覚障害者が転落することはある。鉄道各社は改めて、現場の駅員に声かけや見守りの徹底をはかってほしい。

 気になるのは、駅で「人の目」が少なくなっていることだ。

 鉄道各社は合理化に力を注ぎ、駅員は自動改札機の普及とともに急速に削減されてきた。1日平均12万人弱が利用する蕨駅でも、ホーム上に駅員が立つのは平日朝だけだという。

 地方では駅員が一人もいない無人化が進む。こうした駅はホームドアどころか、点字ブロックの整備も後回しにされがちだ。近くに住む視覚障害者の利用者にとってリスクは大きい。

 福岡県中間(なかま)市の視覚障害者団体「つばさの会」は昨年11月、1万1千人超の署名を添え、市内を通るJR線の駅を今年3月から無人化する計画を撤回するよう、JR九州に求めた。会長の進好司(しんよしじ)さんは「地方で暮らす障害者の命の重みが軽んじられているのでは」と憤る。

 駅は、日々移動する私たちの生活に欠かせない場所だ。ハンディがある人でも安全に利用できる環境を整えることは、鉄道側の責務である。

 点字ブロックや、人の転落を感知する線路上の装置、監視カメラの設置など、命を守れる態勢があるかを鉄道各社は確かめるべきだ。それが不十分なままの無人化には反対だ。

 駅を利用する人たちも、できる限りサポートをしたい。白杖(はくじょう)を持ったり、盲導犬を連れたりしている人を見て「危ない」と感じたら声をかける。転落を見たらすぐ非常ボタンを押す。「歩きスマホ」や、点字ブロックをふさぐ荷物も、視覚障害者がぶつかればたいへん危険だ。

 だれもが命を守る「欄干」になれる、との意識を広めたい。