シリア“停戦合意”後世界初、アサド大統領単独インタビュー
30万人以上の命が失われ、1100万人が故郷を離れた国、シリア。内戦状態に陥って6年。最高権力者は、その責任についてどう答えるのでしょうか。「NEWS23」の星キャスターが、停戦合意後、世界で初めてアサド大統領への単独インタビューを敢行。アサド大統領が30分にわたって語ったこととは?
世界最大の人道危機。その当事者は、意外なほど柔らかい物腰でした。
「ようこそダマスカスへ。戦争開始後、初めて日本の視聴者に向けてお話できることをうれしく思います」(シリア アサド大統領)
6年前、大統領退陣を求める反体制派のデモから、武力衝突に発展したシリア危機。アサド政権をロシアなどが、反体制派をアメリカやトルコなどが支援したことで、代理戦争の様相を呈しました。そこに過激派組織「イスラム国」が加わり、内戦は泥沼化します。
アサド政権側は、欧米が支援する反体制派についても「テロリスト」などと批判して容赦なく攻撃。北部の激戦地アレッポをはじめ各地で市街地を空爆しました。子どもも含め、相次いだ一般市民の犠牲。国際社会の非難にアサド大統領はどう答えるのでしょうか。
「シリア軍とロシア軍は住宅街や病院などを空爆していると批判されています。そうした人的な被害はアレッポ制圧に必要だったとお考えですか?」(星浩キャスター)
「爆撃や戦争犯罪について、ロシアやシリアを非難しているのは、テロリストを支援している国々、アメリカやイギリス、フランス、トルコ、カタール、サウジアラビアなどです。彼らは、メディアや政治を通してテロリストを支援し、武器や資金を送り、後方支援も行っています。彼らにシリア市民のために声をあげる権利などありません。彼らこそが、罪のないシリア市民が6年にわたって殺されてきたことの原因だからです。これが第一です。次に憲法や法律、そして道徳的な点からも、政府の役割は、国民をテロリストから解放することです。国の一部をテロリストが支配し、市民を殺し、全てを破壊、ワッハーブ主義という憎悪に満ちた思想を市民に押しつけている。その時に、政府が何もせずに見ているだけなんて許されると思いますか? もちろん全ての戦争には死傷者がつきものです。全ての戦争は悪い戦争です。流血があり、殺りくがあり、良い戦争というものはないのです。これは明らかです。しかしテロと戦わざるをえない場合、残念ながら死傷者が出てしまいます。我々は死傷者をなくすため、できるかぎりのことをしました。市民のためにと叫んでいる人たちは、シリアやロシアが一般市民を殺しているという証拠を一つでも出しましたか? もう一つ、政府が自国民を殺すことが道徳上できるでしょうか? もし我々が自国民を殺していたら、6年もの間、政府として、軍として、あるいは大統領として持ちこたえることができたと思いますか? それは非論理的です。現実的ではありません。我々がここにいるのは国民の支持があるからです。でも必ず死傷者は出てしまう。我々は本当にこの戦争を早く終わらせたいのです。それがシリアの人々を救う唯一の道です」(アサド大統領)
これまで、アメリカのオバマ大統領はアサド政権を厳しく非難し、退陣まで求めてきました。
「一国の暴君が数万人の自国民を虐殺するなら、それはその国だけの問題ではない」(アメリカ オバマ大統領 国連総会・2015年9月)
しかし、間もなく大統領の座につくトランプ氏は・・・
「アサドは好きじゃない。でも『イスラム国』を殺している。ロシアもイランも『イスラム国』を殺している」(トランプ次期大統領 2016年10月)
「ロシアも『イスラム国』が好きじゃないんだ。ロシアと協力してやつらをぶっ倒せるなら、けっこういいだろ?」(トランプ次期大統領 2016年9月)
「イスラム国」との戦いを優先し、アサド政権やロシアとの協力に前向きともとれる発言です。去年の末には、アメリカが支援してきた反体制派とロシアが支援するアサド政権が停戦で合意しました。こうした中、アサド大統領はトランプ次期大統領をどう見ているのでしょうか。
「トランプ氏に何を期待しますか? また、どのような政策変更を期待しますか?」(星浩キャスター)
「ご存じのように彼は政治経験がありません。過去の大統領のほとんどは政治的な職業や地位に就いていましたが、彼はそうではない。報道を見ると、アメリカのメディアでさえ予測できない人物とみています。判断の根拠となりうるのは選挙期間中の彼の言葉だけです。その中で良かった点は、私たちにとっての優先課題でもある『テロとの戦い』についての言葉です。トランプ次期大統領も『イスラム国』との戦いが彼の優先課題だと言いました。もちろん『イスラム国』はテロ組織のひとつにすぎません。シリアにはヌスラ戦線や他にもたくさんのアルカイダ系グループがいます。ただトランプ氏は『イスラム国』という言葉でテロリズムのことを指したのだと思います。テロを優先課題としてあげた、それは大変重要なことです。新政権には、このテロリズムについての言葉を偽りなく実行してほしい。シリアだけのためではなく、テロは今や中東、そして世界の問題だからです。ですからアメリカの新政権には、この地域でテロと戦うための真の連合、現実的な連合を誠実に築いてほしい。もちろんその連合にはシリアが含まれます」(アサド大統領)
アサド大統領は、トランプ大統領への期待をにじませました。日本については、どうでしょうか。2013年、中東を歴訪した安倍総理。
「シリア情勢の悪化の責任は、人道状況の悪化をかえりみないアサド政権にあることは明らかです」(安倍首相 2013年8月)
アサド大統領は退陣すべきだと踏み込みました。また、欧米と歩調を合わせ、アサド大統領周辺の資産凍結など経済制裁にも参加しています。
「日本の客人に率直に申し上げましょう。何十年も前に国交を持って以来、日本はシリアなどさまざまな国々の発展に、インフラ支援などとても重要な役割を果たしてきました。そして日本は中東のさまざまな問題について公平でした。常に国際法を重視してきました。ところが今回のシリア危機が始まると、日本は初めて慣例を破り、シリアの大統領は辞任すべきだと言ったのです。これは日本の人々の価値観や倫理観に基づいたものだったのでしょうか? 絶対に違います。皆、日本の市民がどれだけ道徳を重視するか知っています。これは国際法にのっとっているのでしょうか? それも違います。我々は主権国家で、誰が辞めて誰が残るべきなどと言う権利は世界の誰にもありません。さらに日本はシリアへの経済制裁に加わりました。かつては支援してくれた日本がです。こうした制裁は、日本の人々の利益や価値観、法律や憲法と何か関係しているのでしょうか。私はそうは思いません。日本は在シリア大使館を閉じ、シリアの現状を見ないままでどう貢献するのでしょう? シリアと関係を絶った他の欧米諸国と同じように日本には何も見えていません。だから日本は何の役割も果たせません。日本は欧米諸国から情報を得ていますが、これは我々からすれば馬鹿げたものです。シリアの再建といいますが、経済制裁を科しながら再建は語れません。一方の手で食べ物を与え、もう一方でそれを取り上げるようなものです。これは日本の政治の問題です。日本は国際法に立ち返らなければならない。我々は主権国家で、日本は常にシリアを尊重してきました。世界で日本の存在を際立たせていたその立場に日本が戻ることを期待します。それでこそ日本は必ず和平やシリアの復興に重要な役割を果たし、人々の支援ができるでしょう。難民のほとんどは、ドイツやフランス、他の国々で『ようこそ』と言ってもらいたいわけではない。自分の国に帰りたいんです。行った先の国ではなく、シリアで支援してほしい。これこそが我々が考えるこの先の日本の役割です。日本が過去の姿に戻ることを期待しています」(アサド大統領)
30分近くに及んだインタビュー。アサド大統領は、シリアで武装勢力に拘束されていると見られるジャーナリストの安田純平さんについては、「何も情報はない」「日本政府からのコンタクトもない」と明かしました。
取材は、1つの質問に対するアサド大統領の答えを短く編集せず、そのまま放送するという条件で行われました。その全編は20日午後3時からCS放送の「TBSニュースバード」で放送されます。(19日23:14)