新年のあいさつ回りの帰り道、商店街でランチしたらゲームセンターがあった。
昼休みだし、中に入って見まわすと「はじめの一歩」のパンチングマシーンがあった。
朝からクソジジイどもにちょっと嫌味を言われたのでストレス発散にやることにした。
一番弱いモードで3回殴って150pt出すとクリアらしい。基準は分からんが俺は体もでかいし150くらいは出るだろうと軽く助走して渾身の一撃!
130pt…。
っておい。ああぁ。手首がめちゃくちゃいてぇ。やべえぞ。吐き気する。昔腕を折った時も吐き気したし。これ折れたわ。俺は確信した。
だめだ、もう止めよう、とグローブを外そうとしたとき視線を感じた。俺を少年が見ていた。
ここで逃げていいのか?少年が見ているというのに。俺はグローブを握り直しもう一発殴りつけた。
120pt。少年はきゃっきゃ喜んでいた。クリアしたらしい。俺の右手首はもう力が入らなくなっていた。右側の背中が痛い。
でもあと一発残っている。どうする。もうクリアしてるし。俺の右手首もクリアされてしまいそうだ。やめたい。
俺はそっと右グローブを外し少年に聞こえるように「左でやってみるか」と強キャラ感のある独り言をして左グローブをはめた。
そして三発目。40pt。ちょっとびびりすぎたか。まぁクリアしたし。少年の方を向くと彼はもう別のゲームを見ていた…。
会社に戻り激痛でうずくまっていると上長が声をかけてくれた。「すみません。転んで手をついてしまって手首がめちゃくちゃ痛いっす」
新年早々、嘘をついた。今まで殴ったことすらしたことない陰キャが調子こいて昼休みにパンチングマシンで手首を痛めたなんて言えなかった。
上司は病院に行けと言ってくれた。病院の先生には本当のことを言った。診察の結果、右手首が折れていた。今日は早退になった。
小さいころから強くなりたかった。でももういい。俺は誰も何も殴らない。平和が一番だ。最近はちょっとしたことでイライラしてしまう。でも今なら誰にでも優しくなれそうだ。