モスクワで売られている商品が何らかの指針になるとすれば、ロシアはドナルド・トランプ氏の大統領時代が朗報になるとみている。
「トランプ・チェンジオーバー」と銘打った金色の「iPhone(アイフォーン)」特別モデルが売られており、スーパーには、トランプ氏の顔が描かれた袋入りの砂糖が登場した。トランプ氏は必然的にマトリョーシカ人形になっており、モスクワのアルバート通りの土産物店でプーチン大統領と木製の肩を並べている。
トランプ氏は大統領選でプーチン氏を称賛していたため、ロシアの明らかな歓迎ぶりは理解できる。だがクレムリン(ロシア大統領府)は、成り行きを見守るアプローチを取っている。クレムリンについては、米情報機関はハッキングとプロパガンダ(宣伝工作)によってトランプ氏がヒラリー・クリントン氏を倒すのを助けようとしたと結論している。
「ロシアの戦略的封じ込めの措置が目先緩和されるという幻想は抱いていない」。プーチン氏の安全保障会議を率いるタカ派のパトルシェフ書記は今週、政府系新聞ロシスカヤ・ガゼータ紙のインタビューでこう語った。
パトルシェフ氏の言い分はこうだ。オバマ米大統領の政策が米ロ関係を後退させ、北大西洋条約機構(NATO)と欧州連合(EU)をロシア政府と衝突する道にはめた。「こうした状況では、ドナルド・トランプの米大統領選出が、米ロ関係に根本的な変化をもたらすかは語れない」と同氏は付け加えた。
■「変化への期待行き過ぎ」ロシア専門家
モスクワの政府関係者がすべてパトルシェフ氏ほど懐疑的なわけではないが、ロシアの大方の観測筋は、トランプ氏の大統領就任後に、米政府の対ロ政策に抜本的な変化があるとの期待は行き過ぎだとの見方で一致している。
「ブレグジット(英国のEU離脱)が決まった国民投票の後、トランプ氏の到来は、世界がロシアの方向へと変わりつつあることの最も強力な証拠だ」。外交政策の政府系シンクタンク、ロシア国際問題評議会のアンドレイ・コルトゥノフ会長は言う。だが同氏は、トランプ氏の政策課題の上位には、中国などロシア以外の国々が占める可能性が高いと考えている。新政権は移民などの国内問題にも重点を置くことから、ロシアとの関係修復が最優先課題になる見込みは薄い。
オバマ氏がロシア、特にプーチン氏に十分な関心と敬意を払わなかったということがロシア政府の憤りの根底にある。これが最も直接的に表明されたのが、オバマ氏が2014年3月、ロシアがクリミアを編入した後に、ロシアを「地域大国(regional power)」と呼んだときのことだ。
ロシア政府関係者らは、今のところ、2人の大統領が幸先のいいスタートを切れるように専念していると話す。
「トランプ氏が我々の大統領(プーチン氏)にできるほど単独で物事を決められないことは分かっている」と、ある政府関係者は言う。「我々としては、トランプ氏にとって過度に難しい状況にするのを避けなければならない」