まいど憶良(おくら)です。
神戸には早くから世界各国の美味しい物が集まり、洋食屋さんの名店が多いことでも有名です。
今回はちょっとわかりにくい場所に「ものすごい名店があるよ」という話を聞きつけ、神戸は南京町にやってきました。
神戸南京町に、西側の「西安門」から入って1つ目の路地を右手に曲がると・・・
もう見えています。
ここ「洋食屋双平」さんは数々の神戸っ子の舌を満足させ、また食通をも唸らせてきた名店です。
なのに、コスパも良いので固定ファンも多いんです。
店に入ってすぐに目についたのは、神戸出身の切り絵作家、成田一徹さんの作品。
その他にも店内は、ご主人の趣味の品があちこちに飾られています。
揚げ物に使う油が重要なのです
そんな店の人気メニューは、揚げ物です。エビカツ、ミンチカツ、トンカツ・・・。どれも人気で、まんべんなく注文が入りますという事でしたが、今回はエビ2尾と ミンチ1枚がセットで食べられる、「ミックス定食のB」1200円を注文しました。
そして、もう一品、気になるメニュー「ミンチとロースの重ね揚げ定食」900円も注文しました。
重ね揚げってなんだろう。
洋食屋さんの定食としてはとっても安いんですが、食べてみるとそれだけではないことがわかりました。
使っている油は「ヘッド」。ヘットと呼ぶ人もいます。
牛の脂を精製した食用油脂、牛脂(ぎゅうし)をオランダ語ではヘッド、ヘト、フェットなどと呼んでいて、ドイツ語ではヘットと呼ばれているそうです。
揚げ物に使う油としてはラードが有名だと思います。豚の油ですね。
ラードは揚げ物に使うとカラッと揚がり、豚のうまみ成分がプラスされるという特徴がありますが、短所としては揚げたては美味しくても時間がたつとベタッとし、お腹にもたれたりしやすい脂です。
ところが牛の脂で揚げると、冷えてもベタッとしない、へたらない、そして、胃にもたれないという長所があります。
短所はお値段が高いという事。
そのため、風味をよくするために植物性油にヘッドを混ぜて使用する店もあるようですが、ここ双平さんでは、100%ヘッドを使用しています。
3時間たってもカリッとして胃にもたれない極上のカツ
これがヘッド。融点35~55℃と、ラードより少し高め。
さて、この油で揚げられたカツの定食がこちら。
来ました。「ミックス定食のB」です。
たっぷりとかかった、オリジナルのデミグラスソース。
ここのデミグラスソースは、ベタッとした甘ったるい感じがなく、コクが深いのにとてもシャープな味わいです。
エビカツをカットしてもらった、断面図です。
食べてみると、衣がカリッと、身はプリッと。
で、終わらないんです。
ほんのわずかですが、身がしっとりと柔らかいんです。
何だっ、これは!
このエビの甘みがぐぐっと主張する、その後プリッとした楽しい食感。また2、3度噛むと柔らか食感と甘みが返ってくる感じ。
分析してみましょう。
エビの美味しさを引き出すためには、しっかりとした下処理をすること。
ここに手を抜かない。これは間違いない。
次に、エビにどのくらい火を入れるか、これも重要。
これで甘みと食感を決定できます。
問題は、熱の通り具合を揚げ物で見極める、職人としての経験値です。
もう一つ、単に揚げるだけでなく、蒸すという要素が入っているため、エビと衣のわずかな空間を作らなければなりません。そこで衣をつける時の力加減が重要・・・と見ましたが、どうでしょう。
最後に、エビの尻尾なんですが、これが美味しいっ。
私はエビの尻尾は必ず食べてみようとします。
大体のお店では、尻尾の先まで行かずに殻が口に残って嫌な感じになってしまうんですが、嫌な食感を残さずに食べられる店は貴重です。
さらに、美味しいな、と思わせてくれる店は稀有です。
そして、双平さんのエビフライの尻尾は、ここだけ集めて食べたいレベル。
エビの尻尾まで食べられる、というレベルでなく、高級なエビせんべいのような味わいなんです。
うわっ、美味しいっ。と、思わず言ってしまいました。
すると、「ちゃんと、丁寧に処理してるからね。」と、笑顔で説明がありました。
食感がとにかく楽しいミンチとロースの重ね揚げ
続いてミンチカツ。
カリッと感と、じゅわっと感を同時に感じられる一品です。
しかし、重ね揚げとはいったいどういうものなのでしょうか?
これはミンチと、ロースカツを重ねて1つにして揚げるということでした。
えっ、それは別々に楽しめば良いのでは、という意見もありますが、重ねて揚げることによって、とにかく食感が楽しくなるんです。
衣だけ食べてみても、美味しい。これはヘッドの旨味によるところが大かと。ミンチとロースカツもバラバラにならずに、一体感があります。
カリッと、サクッと、しっとりと、そんでもって、じゅわっとなんです。
歯が何ミリか進むごとに食感と味が変わっていく、そういう楽しさが口の中で広がりました。
旨さ大爆発のカキフライと爽やかドレッシングも必食
野菜はなかなかのボリュームです。
そして野菜の値段が高騰した時でも、この量は変わらないんです。
そこにかかっているドレッシングもオリジナル。
りんご酢の爽やかさが美味しい、シンプルな材料で作ったというドレッシングもまた手間がかかっています。
材料を合わせてから2~3か月寝かせて熟成させた後、最後にオリーブオイルを混ぜて使うというこだわり様です。
大量にあった野菜もペロリとなくなってしまいました。
もう一つ、これ食べてみて、と出されたのがこれ、
カキフライです。
でっ、でかい。
季節によっては2個、3個の牡蠣をまとめて揚げる圧倒的なボリューム。
そしてこのカキフライがまた旨いっ。
ご主人が、
「牡蠣の持ってる、ちょっとした臭みというか、癖のある嫌な風味は、揚げてる間にふわっと抜けてしまうんよ。だからカキフライが苦手っていう人も、ウチのやったら食べられる。そういうお客さんも多いよ。」
ハイ、分かります。
臭みはないけど、旨味はぎゅっと圧縮されている感じ。
レモンをキュッと絞って、食べると濃厚な牡蠣の旨味がまた引き立ちます。
その凝縮された旨みと甘みが、口の中に、さーっと広がって行きます。
カキフライが好きな人は、要注意。
一度ここのカキフライの味を知ってしまうと、普通のカキフライでは満足できなくなってしまうかも知れません。
最後にご主人にお話をお聞きしました。
・料理は、どこかで修行されたんですか。
ご主人 : 「いやいや、独学なんよ」
・えっ!それでこの味が出せるもんなんですか?
ご主人 : 「まぁ、ラッキーな部分もあったんよ。知り合いにお肉屋さんがいてな、いい肉をそこから入れさせてもらってるんよ。まぁ、値もいいけどね。それから、ヘッドも。これはやっぱり他の油とは味が全然違うな」
・味の秘訣は、素材のよさですか?
ご主人 : 「それもやけど、丁寧な仕事やな。手を抜かない。まじめにやる。当たり前の事やけど、この当たり前のことが出来んようになったら、店はやめなあかんと思ってる。お客さんにも、料理の素材にも失礼やしな」
確かに、ドレッシングにしても、エビの尻尾にしても、細かい所へのこだわりは半端な物ではないです。
・この店のこだわりポイントはどこでしょう。
ご主人 : 「ごまかしのない、本当の旨さやろなぁ。最近、大量に化学調味料を投入した料理を作っている店とかが多くなった気がするんよ。それはどうかなぁ、感心せんなぁ、と思うなぁ。
良い素材を使って、丁寧な仕事をしてやれば、作るのにお金と時間はかかるけど、本当の美味しさを味わってもらえると思うんよ。
目先の損得は考えずに。せっかく来てくれるお客さんのために。自分の作ったもんを、美味しいって笑顔で食べてもらえたら、料理人としては、まぁそれが嬉しいわなぁ」
食べ物の話をするとき、キラッといたずらっぽく輝く目が印象的でした。
このお店には公式Webページはありません。
洋食屋 双平
住所 : 兵庫県神戸市中央区栄町通2-9-4 川泰ビル
TEL : 078-393-3839
アクセス : JRまたは阪神「元町」駅から徒歩5分
営業時間 : 11:00~17:30(ラストオーダー17:00)
定休日 : 水曜
プロフィール
憶良(おくら) : 元ゲームプランナー、元ゲームプロデューサー。
ゲーム企画講師や駄菓子屋店長などを経て現在に至る。
休日は名古屋から鳥取あたりの温泉に浸かり、地元スーパーで珍しい食材を買っては料理する。
その際食べ歩きにも積極的と、食に対してはかなり貪欲。
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