トヨタ自動車や仏エア・リキードなど世界の自動車・エネルギー企業が中心となり、水素の利用促進を目指す新団体を設立した。水素の代表的な使途である燃料電池車(FCV)は走行時に二酸化炭素(CO2)を出さない「究極のエコカー」だが、水素インフラの普及などが課題だ。トヨタはハイブリッド車(HV)での“反省”も生かし、普及加速を目指す。
トヨタ自動車の「ミライ」
■FCVとEV「両方とも必要だ」
トヨタなど13社は17日(現地時間)、スイスで開いている世界経済フォーラムの年次総会(ダボス会議)で、新団体「水素カウンシル」の設立を発表した。新団体は「水素を利用した新エネルギー移行に向けた共同のビジョンと長期的な目標を提唱する」としている。共同議長会社にはトヨタとエア・リキードが就いた。
「水素の火は絶やさない」――。あるトヨタ幹部は口癖のように話す。同社は昨年12月に電気自動車(EV)の事業化を目指す社内組織を発足し、走行時にCO2を出さないゼロエミッション車(ZEV)でFCVからEVにかじを切ったような印象も与えた。だが、この幹部は「両方とも必要だ」と話す。地域や時期に応じて、適したZEVを投入する考えだ。
トヨタは2014年に世界初の量産型FCVである「ミライ」を発売した。FCVは20年ごろをメドに、「グローバルで年間3万台以上、日本では少なくとも月に1000台レベル」との販売目標を掲げる。量産のネックとなっている中核部品「セル」の生産技術の確立も急いでいるが、もう一つの課題は「仲間づくり」だ。
■特許押さえすぎた苦い経験
仲間づくりでトヨタには苦い経験がある。
同社が世界のメーカーに先駆けて1997年に量販を開始したHV。間もなく「プリウス」などの累計販売台数が1000万台に達するが、「トヨタが特許を押さえすぎて他社に広がらず、市場が拡大しなかった」(トヨタグループ幹部)。また、世界の自動車市場全体から見るとHVの販売台数はわずかだが、米国や中国でエコカーの枠組みから外されつつある。
こうした経験も生かし、15年1月には自社が保有するFCVの特許を無償公開することを決めた。独BMWとFCVで組むほか、国内ではホンダや日産自動車と水素インフラの整備で手を携える。豊田章男社長は「自動車産業が大きな転機を迎え、技術に加えて場づくりが必要だ。共感する仲間が要る」と社内外に繰り返し訴える。
17日、ダボスで水素カウンシルの発表に臨んだトヨタの内山田竹志会長はこの直前、アラブ首長国連邦(UAE)にいた。現地企業などと協力し、同国でFCVの実証実験を行うことを発表するためだ。年初に極寒の米デトロイトで開かれた自動車ショーの会場から日本、UAEを経由し、ダボスへ。水素普及への執念が強行軍を支える。
(名古屋支社 奥平和行)