ドナルド・トランプ氏とロシアの関係をめぐり、事実確認ができていない調査文書を全文公開したことに関して、BuzzFeedは様々な批判を受けた。ベン・スミス編集長は、CNNに出演し、全文公開に踏み切った理由について説明した。
スミス編集長は「記事掲載を誇りに思っている。正しいことだった」と語る。
経緯を振り返る。
全35ページの調査文書は、元英国情報当局者が作成した。ロシア政府が長年にわたってドナルド・トランプ次期アメリカ大統領に接触しており、トランプ氏の名誉を傷つけるような情報をロシアが入手しているという疑惑を記したもの。真偽の確認は取れていない。
まず、CNNが調査文書の内容を2ページにまとめられた概要書が「オバマ大統領とトランプ次期大統領に報告された」と報じた。全文公開はしなかった。
それに続いて、BuzzFeedは「調査文書の事実検証はされていない」と注意書きをした上で、調査文書を全文公開した。
スミス編集長は、CNNの報道が、全文公開を決断するきっかけになったと話すとともに、CNN報道の数週間前にBuzzFeedも調査文書を入手していた、と明らかにした。
「私が非常に大切だと思っているのは、こういうことです。『次期大統領がロシアの干渉を受けている』という証拠がはっきりとしていない主張がある。そういう場合はその詳細を共有するということです」(スミス編集長)
BuzzFeedが真偽の確認が取れていない調査文書の全文公開したことで、ジャーナリズムの倫理をめぐった、激しい論争が起こっている。
ワシントン・ポストのメディアコラムニスト、マーガレット・サリバン氏は、バズフィードは卑猥な調査文書を公開したことで、「どのように一線を越えたか」という見出しのコラムを発表。「噂話や皮肉を公表することは許容できない」と批判した。
CNNのキャスターらからも批判が出た。ジェイク・タッパー氏は、CNNは責任のある報じ方だが、全文公開したBuzzFeedは無責任という意味のコメントをツイートした。
一方、BuzzFeedの全文公開の判断を支持する声もある。
コロンビア大ジャーナリズム大学院が発行する専門誌「コロンビア・ジャーナリズム・レビュー」のバネッサ・ゲザリ編集長は「BuzzFeedの全文公開は正しい」と題する論説を発表した。
調査文書に関する情報は、すでに一部のジャーナリストが掴んでいたことを指摘した上で、「世間を揺るがす可能性のある重大なニュースを、いつまでも発表しないメディアが信頼を獲得できるか?到底できないだろう」と述べた。
また、アメリカの非営利報道機関プロパブリカのリチャード・トフェル氏もTwitterで「市民は自身で判断するために証拠が必要だ」とBuzzFeedの決断を援護した。
BuzzFeedが全文公開をした理由はなんだったのか。スミス編集長は次のようなことを考慮すると、全文公開は正しいことだとCNNの司会者に説明した。
「米政府上層部は、この調査文書に関して激しく論争していた。しかし、その調査文書やその内容はアメリカ国民には隠されていた」
「ここにいる私とあなたは、ここでだけ重大な秘密の文書を持っている。そして、その文書は破壊力のある、危ない内容だ。だが、カメラの向こうにいる皆さんは、その内容を知ることができない。私は、それをよしとする考えを理解できない」
「もし、調査文書に関して報道するならば、『オーディエンスと調査文書を共有し、現在掴んでいる情報を知らせる』との前提に立つべきだ」
スミス編集長は、オーディエンスに敬意を払うべきだということも付け加えた。
3. 「もう罠にはまってはいけない」
BuzzFeedの決断はトランプ氏を刺激し、トランプ氏は記者会見で、BuzzFeedを「クズなゴミの山」と呼んだ。
会見でトランプ氏は、CNNのことも「虚偽ニュース」と呼んだ。CNNはその後、声明を発表、BuzzFeedの報道と自社の報道の違いを強調した。
CNNは声明で、トランプ氏はBuzzFeedの報道を利用し、「CNNの報道内容を歪めている」と批判した。
これに対して、スミス編集長はCNNがトランプ氏側にCNNとBuzzFeedの報道を一緒にしないよう求めることは、トランプ氏側の罠だと注意を呼びかけた。
「明らかに報道機関の分裂を狙っている。異なる編集部による、理にかなった考え方の相違を、大げさな争いに仕立て上げるためだ」
「これは、メディアがここ数年はまり続けてきた罠だ。しかし、今はこの罠にはまっている場合ではない」
4. 関連記事はこちら:トランプ氏とロシアめぐる疑惑文書 BuzzFeedによる全文公開とその反応
この記事は英語から、鈴木貫太郎が翻訳・編集しました。