インスタントな表現に喝を downy青木裕×DIR EN GREY薫対談
青木裕『Lost in Forest』- 文
- 金子厚武
- 撮影:鈴木渉 編集:山元翔一
downyやunkieなどで活躍するギタリスト・青木裕が初のソロアルバム『Lost in Forest』を完成させた。青木といえばギターで出しているとは思えないサウンドメイキングや、椅子に座って観客に背を向けながら演奏するスタイルで異彩を放ち、また一昨年には初の個展を開催するなど、イラストや模型の分野でも注目を集める才人。制作期間10年、数千トラックに及ぶギターサウンドのみで構成されたアルバムには、ある種の「怨念」が凝縮されているという。
今回はMORRIE(DEAD END、Creature Creature)、SUGIZO(LUNA SEA、X JAPAN)と共にアルバムにゲスト参加しているDIR EN GREYの薫を迎え、青木とのギタリスト対談を実施。プレイスタイルは異なれど、「闇」や「痛み」を表現の根幹に持ち、己の道を進み続ける両者は、どちらも映画好きだったりと共通点が多い。「時代を追いかけるのではなく、個人を掘り下げることが時代を作る」という感覚が共有されつつある現代を映し出す、意味のある対談になったように思う。
青木さんのとんでもない角度から攻めてくる発想に、いつも「やられたな」って思わされる。(薫)
―プライベートでも交流があると伺っていますが、お二人はいつどのように知り合ったのでしょうか?
青木:5年ほど前にDEAD ENDの打ち上げで、MORRIEさんが引き合わせてくれました。そこから、すぐに連絡を取り合うようになったわけではないんですけど、薫くんがdownyの復活作(2013年にリリースされた『第5作品集「無題」』)を気に入ってくれたみたいで。海外のインタビューでも紹介してくれたんだよね?
薫:あのアルバムは衝撃的で悔しかったです。一時期はホントにずっと聴いていて、ライブ前に楽屋で流していたら、海外のクルーが「これは誰だ?」ってよく聞いてきましたよ。「日本のバンドだよ」って言うと、みんな驚いてました。
downy『第5作品集「無題」』より
―「悔しかった」というのは?
薫:青木さんはもちろんギタリストでもあるんですけど、コンポーザーとしても飛び抜けていると思うんです。発想がとんでもない角度から攻めてくる感じで、いつも「やられたな」って思わせてくれる。ギターの音色もすごいんですけど、それだけじゃない何かが曲の中に詰まっていて、そういうところも含めて「悔しい」って思うんです。
―だからこそ、DIR EN GREYの“滴る朦朧”(2014年に発表された映像作品『DUM SPIRO SPERO AT NIPPON BUDOKAN』のボーナスCDに収録)のリミックスを依頼したりもしたと。
青木:リミックスの話をもらう前から、“滴る朦朧”が入ったアルバム(2011年にリリースされた『DUM SPIRO SPERO』)は聴いていたので、依頼は光栄でした。実は、今回薫くんに参加してもらった“Witch Hunt”は、“滴る朦朧”のリミックスを作ったときのトラックが基になっているんです。あのリミックスには、とにかく変わったギターの音を詰め込んでいて、「他に何か使えないかな?」ってずっと考えていて。そういう経緯で生まれた曲に、薫くんが参加してくれたのは、意味があることなんじゃないかと思います。
僕が音楽に向かうときにあるのは、一度音楽を諦めた自分への怒りを始めとするいろんな想い。(青木)
―薫さんは青木さんのアーティストとしての魅力についてどうお考えですか?
薫:リミックスにしろ、今回のアルバムにしろ、あとイラストもそうですけど、青木さんって何でも徹底的にやるじゃないですか? 自分も徹底的にやりたいタイプなので、話が合うんちゃうかなと思っていたんです。で、実際話してみて、「やっぱり、そういう人やな」と。「この人は何を考えて一日を過ごしてるんやろう?」っていうところまで知りたくなる人ですよね。
―音楽にしろ、イラストにしろ、やるからには徹底的にやる。それは昔からそうだったのでしょうか?
青木:結果的にそうなったとも言えます。昔の将来の夢が「イラストレーターか音楽家」だったんです。でも、上京してその夢は打ち砕かれて。場所を変えてどうなるわけでもないと思い知って、一度すべてやめちゃったんです。29歳まで普通に会社員をやっていました。
でも、30歳から新1年生みたいな感じで、また本格的に音楽をやり始めたことで情熱が再燃してしまって。それに賭けたかったので、再出発してからは変化球だけでいこうと決めたんです。でももはや、「情熱」という言葉を超えた、「怨念」に近いものがあったと思います。
―当時は昼間会社で働いて、深夜にスタジオに入る生活をずっと続けていたと以前の取材でおっしゃっていましたよね(TAKUTO(about tess)×青木裕(downy、unkie)対談)。
青木:20代後半ですね。僕が音楽に向かうときにあるのは、「楽しさ」ではなくて。自業自得なんですけど、一度音楽を諦めた自分への怒りを始めとするいろんな想いがある。それは作品に表れていると思います。
青木:僕の絵やプラモデルは、よく「埃っぽい」って表現されるんですけど、音もそうで(笑)。薫くんみたいな極悪なギタートーンに憧れはするものの、僕には無いものなので、「これが自分です」っていう音を鳴らすだけなんです。
リリース情報
- 青木裕
『Lost in Forest』(CD) -
2017年1月18日(水)発売
価格:2,700円(税込)
Virgin Babylon Records / VBR-0371. I am Lost(feat. MORRIE)
2. Open the Gate(feat. MORRIE)
3. 851
4. Waltz of the Bugs
5. Fury
6. Missing
7. Witch Hunt(feat. 薫)
8. Im Wald
9. Ghosts in the Mist
10. Gryphon / Burn the Tree
11. Cave
12. "B"
13. Colling(feat. MORRIE)
14. Shape of Death(feat. SUGIZO)
プロフィール
- 青木裕(あおき ゆたか)
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downy、unkieのギタリスト。他にMORRIE(DEAD END)ソロ・プロジェクト、黒夢等様々なプロジェクトに参加。ギタリスト、プロデューサーの他、CDジャケットのアート・ワーク等イラストレーターとしても幅広く活動している。
- 薫(かおる)
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兵庫県出身。1997年に結成された5人組ロックバンド、DIR EN GREYのギタリスト兼リーダー。そのカテゴライズ不能なサウンド、圧倒的なライヴパフォーマンスは国内外で高く評価され、欧米でも作品のリリース、ツアーを行ない世界中で熱狂的なファンを獲得している。2015年には自伝書籍『読弦』を発表、また毎月第2・第4金曜日に有料会員向けオフィシャルブログマガジン「TheThe Day」を配信している。