トランプ大統領が口先介入すると…=「ノーガード」の日本を直撃、円が急騰?

大統領選勝利後の初会見でトランプ氏は、対米貿易黒字で中国や日本を名指しで批判。(写真:REX FEATURES/アフロ)

金融市場で、トランプ次期米大統領がドル高是正の「口先介入」を行うのではないか、との観測が強まってきた。11日の記者会見で、対米貿易黒字を重ねる中国や日本を名指しで批判したのに続き、先週末の米紙ウォール・ストリート・ジャーナルでは、競争力の観点で「ドルが高過ぎる」と発言したからだ。17日の外為市場では、米紙での発言が改めて材料視され、ドル円が1ドル=112円台に下落する場面がみられた。

〔NY外為〕円急伸、112円台後半=1カ月半ぶり高値(17日)

トランプ氏が大統領選に勝利して以降、ドルが上昇基調を強めたのは、同氏のインフラ投資に伴う財政拡張策によって米国のインフレ期待が高まることを先取りしたものだ。インフレ期待が高まると米長期金利が上昇。また、米連邦準備制度理事会(FRB)は、インフレ期待を安定化させるために利上げペースを速める可能性が高い。米国の全般的な金利上昇を見越し、ドルは上昇。これにより、ドル円は一時118円台後半まで水準を上げた(下のチャートを参照)。

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ドルが上昇すること自体は、トランプ氏の経済運営に沿った動きだが…

こう考えると、ドルが上昇すること自体は、トランプ氏の予想される経済運営に沿った動きであり、矛盾したことが起きているわけではない。問題は、ドル高のスピードであり、あまりにも速過ぎると、米国の製造業は対応ができず、競争力が落ちてしまう。言うまでもなく、トランプ氏は製造業が多い中西部州の支持を得て大統領になった。「ドルが高過ぎる」との発言の裏には、こうした背景があるわけだ。

仮に大統領に就任してからもドル高是正の口先介入を続けると、どの国が大きな打撃を受けるのだろうか。市場関係者の間では、「やはり日本だろう」(大手邦銀)との見方が多い。これは、口先介入でドルが売られるのと裏腹に、「円が最も買われやすくなる」(銀行系証券アナリスト)からだ。なぜそうなるかと言うと、「円高を阻止する有効な手段がない」(先の大手邦銀)ことが大きい。

教科書的には、金融緩和をすれば円は安くなると考えられるが、「日銀“敗北”の軌跡を「総括的に検証」=「介入権」なき中央銀行の悲劇」でも解説したように、日銀の金融緩和は為替には効きにくい構図にある。日銀が使えないなら「為替介入の権限がある財務省が円売り・ドル買いをすればいい」わけだが、介入は円高が過度に進まない限り、実行は難しい。現在はむしろ「やや過度な円安水準」(同)にある。

「日本は100円を大幅に割り込む水準まで介入は封印されるだろう」との指摘も

為替の適正水準(いわゆる購買力平価)を導き出すのは難しいが、一般的には「100から105円の間ではないか」(大手機関投資家)とされる。110円を割り込んだぐらいで介入すると、トランプ政権から為替の不当操作と認定され、強い制裁措置を受けかねない。従って、「100円を大幅に割り込む水準まで為替介入は封印されるのだろう」(外資系金融機関)との見方が支配的だ。

つまり、日本はドル安(円高)に対して、当面、有効な防衛手段がない、という意味で「ノーガード」なのだ。トランプ大統領が口先介入で本腰を入れ、ドル高を是正すると、裏腹で他通貨が買われる。その際、「日本がノーガードであることは投機筋も分かっているため、買いやすい通貨として円に集中。その結果、円は急騰するリスクが高い」(先の大手邦銀)と見込まれる。

円急騰の日本だけが直撃弾を食らう構図にも

もちろん、トランプ氏がドル高を是正して輸出競争力を高めるのは、対米貿易黒字が最も大きい中国を念頭に置いたもの。ただし、最近の中国は資本流出による人民元の下落が悩みであり、ドル高が是正されると、裏腹に人民元は上昇しやすくなり、「むしろ(ドル高是正は)歓迎できる面がある」(同)と指摘されている。結論として、円急騰でデフレ圧力が強まる日本だけが(ドル高是正の)直撃弾を食らう構図とも言える。

1989年入社、外国経済部、ロンドン特派員、経済部などを経て現職。1997年から日銀記者クラブに所属して金融政策や市場動向、金融経済の動きを取材しています。金融政策、市場動向の背景などをなるべくわかりやすく解説していきます。言うまでもなく、こちらで書く内容は個人的な見解に基づくものです。よろしくお願いします。

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