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【ねこぢるの夫】最凶の鬱漫画『四丁目の夕日』【山野一】

自分の世界観があまりに下らないことに気づいた時こそ山野作品を読むのにふさわしい時である。山野作品は、その唾棄すべき世界観を一気にクラッシュしてくれる。

更新日: 2017年01月18日

dougasetumeiさん

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山野一というとかなり好き嫌いが分かれる漫画家だとは思う。
いや、好き嫌いというよりは貧困、狂気、不条理を描いた強烈な作品群が許容できる人とできない人に分かれるといった感じだろうか。

どうしても波長が合わないという方には、無理にはお勧めできない。しかし、一読する事で波長が合う、合わないの結果はどうあれ、新しい扉が開く事は間違いない作品だ。

三丁目のとなりの四丁目には
果てしなく深い闇がある。

努力した事、頑張った事が全て裏目に出て、
絶望的だった場所から絶望すら麻痺してしまう地点へと転がり堕ちてしまう。

全く救いがない漫画ではあるが、
最後の最後は幸せになったのかな?
と思うか思わないかは是非読んでみてください。

不幸のどん底をここまで突き詰めるとは……
まさに圧巻です。

山野一の「四丁目の頃」

私と初めて会う人は、
たいていホッとした顔をする。
あのような漫画を描いたのだから、顔が業でねじくれ曲がった人非人に違いないと思っているようだ。

まあ無理もないが、
一般に作品は作者の性質の一部しか表していない。
私にはあの漫画を描いた一面はあるが、
それがすべてというわけでもない。

社会になじめない劣等感、
バブルで調子こいた世相への憎悪、
そういった鬱屈を、この極端な作品を描くことで解消し、心のバランスをとっていたのかもしれない。

これからバブルに突入していこうという時期、
日本人の誰もが調子づき、浮かれ騒いでいた。

文学部のボンクラ学生だった私にも、
就職先はないではなかったが、
そういう道になんの魅力も感じなかった。

ドロップアウトする事に不安がないではなかったが、迷いも未練もなかった。

私は社会人としての適性、
特に人間関係に難があった。
といってバイトをしないわけにもいかないので、
バイクでの書類運び、ホテルの電話番など、
なるべく人と接しないですむ仕事を選んだ。

丸一日、六畳一間のアパートにこもって、
好きな漫画を描いていられる日は幸福だった。
傍目にはとてもそうは見えなかっただろうが。

漫画家という職業は、
まぁ一種のサービス業だろう。
通常読者に娯楽を提供してお代をいただく。

だが四丁目の場合、
原稿料が出ないこともあって、
読者へのサービス精神ははなはだ希薄だった。

私は一体誰に何を
うったえようとしていたのか?

当時の私にもハッキリ
分かっていたわけではないが、
読者を憂さ晴らしのはけ口ぐらいに
思っていた感は否めない。

お金を払ってこんなものを読まされる
読者もたまったものではない。

子供の頃なんかの間違いで読んで、
トラウマになったという人が何人もいた。

一方若い頃の私と同じような鬱屈を抱え、
それをうまく表現できない人には、
カタルシスや癒しになる場合もあるそうだ。
あれが人を癒すなどとは
想像したこともなかった。

流行り廃りの激しい漫画の世界で、
この因果な息子「四丁目の夕日」は
何故か25年もの間絶版にならず、
細々とではあるが書店の片隅に存在し続けた。

呆れたことに数ヶ月前には増版の知らせが入り、
さらにはインターネットでも配信するという。
世の中の具合がほんとに悪いせいだろうか。

解説(特殊漫画家・根本敬)

山野一とゆう漫画家は、
一見作品を通じて、その現代のタブーに
挑戦していると、思われがちであるが、
それは間違いである。

彼の作品に一貫して通底する、
あの危うさは、ただ山野一が
自分に対してのみイイ子であることを
証しているにすぎない。

漫画に限らず、小説でも映画でも
今時の作家は何らかの自主規制を絶えず
余儀なくされ、また強いられる。

その大自主規制大会の中で
山野一は常に限界に挑んでいるのだが、
それはやはりタブーへの挑戦、

つまりどれだけタブーを描けるか
というのが目的ではなく、
ただ、山野一が自分に対しての誠実さを
貫いた結果にすぎないのだ、やはり。

私は山野一の漫画そのものは大好きだし、
よく出来てると思うけど、
彼の一番好感を持てる部分というのは、
刃でメッタ切りした相手を
尚も機関銃でハチの巣にしてしまうような、
殺る時は容赦しません、徹底的にやりますよ、
とでもいうような彼の作家的態度だ。

それはまた、自分に対してイイ子であり続けようという意志の表れでもあるかもしれない。

「くたばっちまったんだって? あのオヤジ…」

「ぐっちゃんぐっちゃんだったっつーじゃん
 機械に挟っちゃってさ……」

「オウちょっと聞かせろよ……」

「ぐっちゃんぐっちゃんだったんだろ?」

「なあ…ぐっちゃんぐっちゃんだったんだろ?」

「なァ……」

「ぐっちゃんぐっちゃんだったんだろ?」

それにしてもやっぱり
山野一はハンパじゃないな。

話は飛ぶが、絶望的楽観論者の山野一本人は
時に何も考えてないように見えることがあるが、
勿論彼が本当に何も考えがないわけではない。

考えを突きつめた状態は
何も考えてない状態とよく似ているのだ。

山野一は、この世の中のおおよそのことは、
突きつめれば、どうでもいい事だし、
もっと突きつめれば
自分が、人間が、地球が、そして宇宙までもが
壮大なムダにすぎないことだと達観しているに違いない。

そして恐らくそう達観した時から彼は人生が
ほほえましいものに見えだしたにちがいない。

二十代半ばにしてそう達観してしまった、
山野一が描き出す不幸のどん底は
逆に大乗仏教的ですらある…と私は勝手に思うのである。

出典『四丁目の夕日』解説/根本敬

『四丁目の夕日』以外の山野作品

山野一の単行本は残念ながら
文庫版『四丁目の夕日』以外
現在すべて絶版となっている。

今では入手不可能となった
幻の山野鬼畜作品を
発表年代順で以下に紹介する。

夢の島で逢いましょう

特殊漫画界の異端・山野一の記念すべき初作品集。
収録作品は『月刊漫画ガロ』に掲載されたもの。

後の作品と比べると、
正直えげつなさではあと一歩。

それでも鬼畜・不条理など
山野一らしさはちゃんと出ていて、
最初から異常だったってのはよくわかります。

どの話も危ない奇形人間が大量に出て来ますし、中々他の漫画では見られない、本当に化け物じみた化け物がたくさん見れます。

鬼畜SF活劇「DREAM ISLAND」(64頁)は
初期の傑作です。

時は西暦20XX年。
重罪人は完全封鎖された「夢の島」へと
隔離されており、中は無法地帯と化しています。

そこに立大聖歌隊が慰問に訪れるのだが、
さらわれて消息を絶ってしまう。

彼らを救うためD-4という死体をベースにした兵器(ロボ〇ップみたいなもんです)が投入されるが…

この夢の島はまさに魔境です。
腐敗物に湧いた害虫で雲のように覆われ、化学物質による汚染等でどの図鑑にも載ってない様な魑魅魍魎が蠢いている。
夢の島を治めるフリークス軍団とD-4との、醜い殺し合いが見もの。

もちろん聖歌隊の運命はそらひどいもんだし、人間たちの薄汚い部分もたっぷり描かれてます。

貧困魔境伝ヒヤパカ

山野一3冊目の単行本です。
ひたすら人間のダークサイドにスポットをあて、救いのない結末へと導きます。

本書に込められた貧乏人に対する悪意は、全山野作品を通じてもトップクラスだと思います。

よくこんなもの描けたなってのと同時に、よくこれが出版できたなとすら思わされます。

しかし不思議な事に悲壮感や湿っぽさが一切なく「これが当たり前なんだよ」と言いたい風でもあり、心地良いとさえ言える後味の悪さを約束してくれるような気がします。

大学教授と学生の女が不況の現状を調査するため東京都某地区の貧民窟を訪れる。

工場の労働者に話を聞くと、周囲一帯の土地は地盤沈下しており、染み出した海水をポンプで絶えず汲み上げなければならないという。
すると突然、労働者によって二人は手漕ぎポンプがある深い穴に突き落とされる。

労働者は「ポンプを漕げ」と二人に命令する。
二人は仕方なく十日ほどポンプを漕ぎ続けるが、
理性が切れた二人は殴り合いの喧嘩を始める。

それを見た労働者は住人達の前で交われば出してやっても良いと条件を与え、仕方なく二人は獣の様に交わって見せた後、上から渡されたハシゴを上って行くと得体の知れない群衆が待ち構えていた。

そして群衆は二人を散々慰み者にした挙げ句、二人をまた穴に戻してしまう。

核戦争で文明世界が滅亡した後、
たった1人生き残ったのは
悪徳の限りを尽くした極悪人の男だった。

極悪人は臨終間際、
ふとした拍子にガイガー探知器を見つけ、
男は懐かしい文明時代を振り返りながら
大霊界へと昇る。

すると黄金に輝く大日如来が目の前に現れ、
極悪人の男を極楽浄土に迎え入れようとする。

極悪人自身「へぇーこのオレを?極楽に?でもオレは悪人ですぜ」と大日如来に疑問を投げかける。

大日如来は「ゴータマが死んでから三千年目に降臨し、その時地上にいる者を救済する。私の役目はゴータマとの"約束の日"を守るだけ。そんなもんなんです」と男に美しく完全な肉体を与える。

こうして男は涅槃に迎えられた
唯一の人間となったのであった。

資産家の孫である秀麿は夏休みの自由研究の課題を「貧乏人の観察」に決め下男と女中をつれて貧民窟へ向かう。

最も貧乏そうなアパートの一室を尋ねると
食事中の貧乏人が現れた。

食事のおかずは
ハリガネ虫が一杯詰まったカマキリの開きと
自分の体の中で飼っている回虫の塩茹であった。

秀麿は貧乏人に生活の中で
何か嬉しかった事は無いかと尋ねると、
貧乏人は三年位前に大家夫婦の死体を塩漬けにして一か月食べ続けた話をした。

そして、訪れた三人を前に
薄ら笑いを浮かべた貧乏人は言った。

「しかし今日のほうが良さそうだ
 上等なのが三匹も」

貧乏人は下男の頭を斧で叩き割った後、
女中を犯し、包丁で女中の乳房を切り取って
茶碗の飯と一緒に食べた。

秀麿は「貧乏人は浅ましいものとは聞いてましたが人間の所業とは思われないですねえ」と述べる。

いやね 私も浅ましいと
思うには思うんですがね

貧乏もここらへんまでくると
なんか楽しくなっちゃって
どーでもよくなっちゃうんですよ

人間の尊厳とか良識とかね
ビタ一文にもならないものは
クソといっしょに
便ツボにひり出しちゃいましたよ

以後は畜生のごとく
もっぱら欲望に忠実に生きていると
こういうわけなのです

精神世界を執拗に描写した夢漫画の傑作。

気が付くと見知らぬバスに乗り、
見知らぬバス停「のうしんぼう」で下車する男。

不思議な風景を通り過ぎながら、
山中にあるビルヂングに自分の部屋を見出すと、
不意に友達が風呂屋に誘いに来る。

そして、男は到着した風呂屋で
パノラマのように艶やかな花火を目撃する。

掲載誌が『ガロ』という事もあり
前衛美術の影響が色濃く出た、
アヴァンギャルドな作品に仕上がっている。

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