物価の上昇を極度に恐れるドイツが2017年の第1週にインフレが進んだことを発表した。このことは多くを物語っている。16年12月の消費者物価上昇率は前年同月に比べ1.7%上昇し、前月の同0.8%増から跳ね上がった。この2年間は物価の上昇圧力が非常に低かったが、今年は先進国全体で物価上昇率が回復する兆しが見えてきた。
その大きな理由は原油価格の上昇だ。16年の初めの数カ月間は1バレル30ドルを割り込んだが、最近は50ドル超まで戻している。変動の大きな項目や一時要因を除く基調的なインフレ率も上昇しそうだ。これは朗報と言える。17年は物価が過度に上がるのではなく、デフレ不安が緩和されることになりそうだ。
なぜそうなるのかを理解するには、先進国でインフレが進む原動力となる要因を考えてみるといい。それは輸入品の価格、国内経済における余剰生産能力、インフレ予測の3点だ。
■中国の供給過剰、縮小傾向に
まず輸入品の価格上昇をみてみよう。1年前は総需要の減少と(資源や食料などの)商品や工業製品の供給過剰で物価が世界的に下落していた。中国経済は大きく揺らいだ。新興国は全般的に経済が低迷し、ブラジルとロシアは深刻な景気後退に陥っていた。
今、状況は以前より明るく見える。新興国の中にはまだ問題がある地域も多いが、安定に向かっている国も出てきた。中国の生産者物価は54カ月連続で下落した後、ついに上昇に転じ、16年12月の卸売物価指数が前年同月比で5.5%上昇した。中国の供給過剰はまだ莫大ではあるが、縮小傾向にある。アジアや先進諸国における購買担当者調査の楽観的な結果をみれば、需要環境が好転していることが分かる。商品価格が回復してきたことにも反映している。
つまり先進国は世界中で始まった物価の上昇を以前よりも多く国内に取り込むようになってきている。国内物価への影響がどれだけあるかは為替相場によってくる。米国では基調的なインフレ率が米連邦準備理事会(FRB)が目標にする2%に近づき、ドルが上昇している。一方、日本やユーロ圏はインフレ率が低く、円とユーロが下落しているのだ。
■米で失業率低下、賃金2.9%上昇
物価上昇に大きな影響を及ぼす2つ目の要因は、国内の余剰生産能力だ。労働力の余剰を測る指標である失業率が(生産能力をみる上でも)便利な尺度になる。失業率が4.7%の米国では生産設備はフル稼働に近い。平均賃金は16年12月に前年同月比で2.9%上昇し、09年以来最大の伸びとなった。生産性の向上が1%程度で推移していると考えると、単位労働コストが2%上がれば、賃金が3%前後上昇するのは妥当だ。
他の先進国では、見通しが米国ほどは良くない。ユーロ圏の労働市場はより硬直的だ。ユーロ圏の余剰能力はより大きく、失業率は9.8%に及ぶ。イタリアやスペインなど南欧の主要国は、大きな余剰生産能力を抱えている。このため欧州中央銀行(ECB)が掲げるインフレ率目標の2%に近い水準に戻すためには、特にドイツのインフレ率が2%を大きく上回る必要がある。