日米地位協定で保護されている米軍属の範囲を限定する、補足協定が発効した。

 昨年、米軍属が沖縄県の女性を殺害したなどとして起訴された事件を受けた再発防止策の一環で、米軍属を「米政府予算で雇用される文民」など8項目に明確化する。

 定義があいまいで、米側の裁量に委ねられてきた軍属の範囲に一定の線を引く。今回の事件の被告も軍属から除かれる。

 こうしたケースが増えれば、事件を起こした米軍関係者の裁判権が米側から日本側に移る余地が大きくなる。軍属の認定に疑義があれば、日本側から提起して協議もできる。

 一歩前進ではあるだろう。

 補足協定は従来のような地位協定の運用改善ではなく、法的拘束力をもつ国際約束だ。日本政府は画期的と自賛している。

 ただこれが、事件の再発防止にどれだけ実効性を持つかは疑わしい。多くの米兵や軍属に、日本の法律の適用を除外するという、特権的な地位は変わっていないからだ。

 地位協定が助長してきた特権意識が、米兵や軍属による事件や事故が絶えない背景にあるのではないか――。沖縄県などが地位協定の改定を求め続けてきたのは、そんな思いからだ。

 だが日本政府は協定改定に動こうとしない。

 沖縄県民の切実な声より、米側への配慮を優先する姿勢はここでも明らかだ。

 問題はこれで一件落着ではない。日米両政府は、地位協定の改定を含め、改めて全般的な見直しに取り組むべきだ。

 焦点の一つは裁判権だ。

 公務外の事件・事故は日本側に裁判の優先権があるが、容疑者の身柄が米側にあれば、起訴まで米側が拘束する。1995年に沖縄で起きた少女暴行事件の後、起訴前の身柄引き渡しに米側が「好意的考慮を払う」という運用改善がなされたが、結局は米側の裁量次第だ。

 「日本の要請があれば引き渡しに応じる」と協定に明記し、強制力を持たせれば、犯罪抑止効果は高まるだろう。

 地位協定はまた、米軍機の事故などの捜査について米軍の優越を認めている。昨年末、沖縄県で米軍オスプレイが大破した事故でも、日本の機関は捜査にかかわれなかった。

 住民の理解のない安全保障政策は成り立たない。日米両政府が米軍基地の安定的な運用を望むなら、地位協定のさらなる見直しは避けて通れない。

 両政府は、その現実に気づくべきだ。