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後ろから近づき
恐る恐る声をかけました。
「ダイチ・・・・・?」
すると、ダイチは振り返って
煙をプカプカ吐き出しながら
「よぉ~~~~~~」
と、手を振りながら間の抜けた声を出しました。

(なんだぁ・・・全然元気そうだな・・。)
心配なんていらなかったのかな?
ダイチは突然私が現れたとしても、
特に気にするような男ではありません。
「元気?」
「まぁね~」
心配して家まで駆けつけても
第一声がこの程度の会話しかしませんでした。
黙って隣に座り、ダイチの姿格好を見ると・・
1年前に出会った時と同じ
「薬物中毒のホームレス」
の印象に戻りつつあるようでした。

髪はボサボサ。
臭いも・・・なんか臭い。
しかも今回は服もヨレヨレ・・。

ダイチは楽しそうにヘラヘラと笑い続けています。
あと・・・気になったのが
ダイチの吸っている「タバコ?」
この煙のせいでしょうか?
なんだか・・・
ダイチの回りだけ歪んで見える・・・。
(気がする)

時間の流れさえも違うように感じました。
なんかフワフワ・・・・・して・・・・・。
それからダイチと
えーと・・・・・・
なにか・・・
話した気がします・・・。
(覚えてない)
何か意識がどこか遠くにいっていたような・・・。
「オイ!大丈夫かよ・・・・。」
ダイチに肩をユサユサと揺らされて、
私は意識を取り戻しました。

(あっ・・・・あれ?)
いつの間にか寝てしまっていたのか?
ダイチが心配そうにコチラを見つめています・・・。
(あ、まずい・・・・)
私は焦りました。
(これじゃ、おかしいヤツだと思われてしまう!!)

なので、私はとっさに
「ああ・・それで・・・何で連絡もせずに会社を辞めたの?」
と頭に思い浮かんだ言葉を言いました。
しかしソレを聞いたダイチはヘラヘラ笑いながら
「それ、さっき話したじゃん~」
と答えました。
(あれ???そうだっけ?)

その時の私は・・・
妙に記憶が曖昧でした。
私もダイチも
少しおかしくなっていたのかもしれません。
おかしくなきゃ、こんな状況にはならないのですが笑
少しの沈黙の後・・・・・・・。
ダイチは
「・・いや・・なんか疲れてさ・・。」
と、会社を辞めた理由を改めて教えてくれました。

疲れた・・・・・か。
私も同意して、それに返します。
「ああ・・そうだね・・疲れたなぁ。」

そう疲れた。
1日8時間あまり・・・
長い日は10時間。
毎日「約120軒」の家を飛び込み営業するこの仕事は、
今考えてみるとあまりにも「過酷」な仕事でした。

そしてその労力に見合わない
月10万円にも満たない給料。
それを3年続けたのです・・・・。
誰がどう聞いても「バカなバカの話」です・・・・。
しかし、いま思えば、
この時が「私の人生で一番疲れていた時」なのかもしれません。
さらに私は、
この3年間勤めた「飛び込み営業の会社」を辞める少し前に
婚約者の浮気が発覚し、
修羅場になり、別れていたのです。

(疲れた・・何もかも本当に疲れた・・。)

私もダイチも
とにかく心底疲れ果てていました。
その流れで私は、
ついついダイチに
飛び込み営業の会社の
愚痴と不満を
ありったけ吐き出してしまいました。

何よりシマくんが死んだ話を
誰かに聞いてほしかったのです・・・。
「あんなクソ会社じゃなかったら、
シマくんは死ななかった!」

私は声を荒げてダイチにそんな話をしました。
私が「声を荒げる」なんて初めてのことだったので、
ダイチはビックリしていました。
しかし、
話を聞き終えたダイチは意外な反応をしました。
「えっ?そう?」

あれぇ?
そう?っていうのは
「俺はそう思わないけど」という意味でしょう。
(まだブラック企業の洗脳教育が解けていないのか?)
私はそう思いました。

しかし、ダイチは、ちょっと言いずらそうに
こう話を続けます。
「だって・・・オレ達はどこ行っても一緒じゃん?」
「そういう人間が集まった会社でしょ?」
なんとなくダイチの言いたいことはわかりました・・・・
そして、その言葉を聞いてムカッとしました。
「そっ・・・・」
途中まで言いかけて、私は考え込んでしまいました。
そんなことない?
いや・・・・一理ある・・かも・・・・。
・・・私は何も言い返せませんでした。
ダメなやつはどこに行ってもダメってことか・・・?
どこに行ってもシマくんには
最悪の結末が待っていたのでしょうか?

いや・・・そもそも人生に「もしも」はありません。
私はそれ以上、
会社の愚痴や悪口を言う気にはなれませんでした。
そんな気になった理由の1つは、自分がシマくんの死を口実に、
会社の文句を言いたかっただけなのかもしれない・・
そう思えて恥ずかしくなったからです。

そして2つ目はダイチがまだ、
あんなひどい待遇のクソブラック企業に
感謝しているように感じたからです。

なぜ感謝しているんだ?
(これは・・・洗脳の影響なのか?)
沈黙が続く中で、
私が色んなことをグルグル考えていると
ダイチがこう言いました。
「でも、楽しかったろ~?」
(ああ・・そうか・そうだな・・)
私は感極まって言葉が出なかったので、
ただウンウンと頷きました。
ボロボロの今思い返しても、
やっぱり楽しい思い出ばかりだった気がするのです。

別に会社に(感謝している)んじゃないんだよな・・
会社の仲間達が好きだったんだよな。
会社の待遇と仕事内容は「紛れもなくクソ」だった・・・。
でも会社の悪口を言うと、
なんていうか・・・・・・
一緒に働いてきた仲間達の「頑張りや努力」
まで悪く言う事になってしまうんだ・・・。
そんな事を考えながら
1人でグズグズ泣いていると・・・。

ダイチがボソッと
「でもさぁ・・・」
「さっきの話、面接で言ったらウケるんじゃない?」
と言いました。

(いつの間にか面接の話したのか・・・・?)
いやいや・・・飛び込み営業会社の話なんて・・・
不謹慎な話や犯罪まがいの話しばっかりなんだから
言えるわけが・・・・・。
「あっ!」
私はパッと立ち上がって声を上げました。

(いや、面白いかもしれない!)
どうせクソみたいな経歴なんだから
それを逆手に取って
プラスにする方法が確かにあるかもしれない。
これまで面接を落とされ続けたのは

どう見ても「最悪の経歴」なのに
自分を偽って、よく見せようとしていたからじゃないか???
そう思うと
目からウロコがポロポロ落ちました。

「じゃあ帰るね!!!!!」
私は思いつくと
すぐ何かやってしまおうとする習慣がありました。
(急いで帰って面接対策しなきゃ!)
そしてパッとその場を立ち去ろうと時、
本来の目的を思い出しました。
(あっ忘れてた。)
振り返って、ダイチにこう聞きます。
「ダイチ・・・これから仕事どうするの?」
ダイチはヘラヘラ笑いながら
「就活するんでしょ?
オレのも探しといてよ。」
と言いました。

(絶対そう言うと思った・・・。)
「わかった!!また連絡する!」
・・・・・・・・・・
結局この数ヶ月後・・ダイチは私の紹介で、
私と同じ法人営業の会社に就くことになります
私はダイチとの再会後、
やっぱり面接をガンガン落ち続けたのですが、
偶然受けた営業会社の部長さんが、
私のいたクソブラック企業の事を知っていたのです。

まぁ地元で会社も近かったですから・・・・
部長は、面接で私の自虐的なブラック企業の話を聞いて
(すげえ・・っていうかコイツ頭おかしいだろ)
と思ったそうなのです。
正解。
まぁこれは、ダイチの言ったとおり、
ブラック企業話が「ウケた」という事でしょうか?

入社後に部長からも
「普通あんな会社に3年も居続けるバカは居ない、
だから採用した。」
とお褒めの言葉(笑)をいただきました。
こうして入社時期は数カ月ズレましたが、
私とダイチは二人仲良く
真っ当な会社に勤めるようになりました。

めでたしめでたし・・・・・。
ということは・・・・
あるはずもなく。
ブラック企業の次に待っているのは
また別のブラック企業だけです。

例えるなら、ここは「沼」

前向きに前進しているつもりでも、
無能な人間は
ゆっくりゆっくり沈み続けていくしか・・・・
ない・・・・・・のかもしれません。
おしまい
