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トランプ次期大統領、実は「数字音痴」だったとは…
本当の資質が見えてきた

致命的な失態

就任式を間近に控えたトランプ次期米大統領は、先週水曜日(米東部時間の1月11日)の記者会見で、「最も多くの雇用を作り出す大統領になる」と抱負を語った。だが、この記者会見で、大統領としての資質に疑問符が着く致命的な失態を少なくとも3つ犯した。

その第1は、「ロシアがトランプ氏のセックススキャンダルを握っている」という趣旨の報道をした米ニュース専門局のCNNなどメディア2社に対して、「黙れ」「フェイク(偽の)ニュース」と罵倒して質問の機会を与えず独善的な性質を露わにしたことである。

第2は、新大統領の経済政策の中で最も大きな期待を集めているインフラ投資の具体策を説明できなかったことだ。

そして、第3は、中国と日本、メキシコを名指しして、これらの国々との間で「貿易の不均衡がある」と時代遅れかつ的外れの批判を展開、経済音痴ぶりを露呈したことである。

トランプ氏の大統領選挙期間中の発言は偏見に満ちた非常識なものが多かったが、11月の勝利会見ではそうした発言がなりをひそめ、過激発言を選挙期間中限定の集票トークとみなし、安堵する向きが増えていた。

ところが、今回の記者会見は、そうした安堵感を完全に吹き飛ばし、トランプ・リスクの大きさを改めて示した格好で、世界中で物議をかもしている。今週は、この記者会見の内容をチェックしておこう。

アリババグループのジャック・マー会長と Photo by GettyImages

雇用を生み出すと言うが…

今回の記者会見は、トランプ次期大統領にとって当選後初めてのもの。米国では、6代前のカーター元大統領以来、大統領選の勝利から3日以内に記者会見を開くことが慣例化している。

米メディア各社は、この慣例に従い、トランプ氏にも早期の記者会見開催を求めていた。ところが、同氏は、ツイッターで自分の言いたいことだけを個人的なメッセージとして発信し続けるばかりで、長らく公式会見に応じて来なかった。

しかも、このツイートには、先週の本コラム(『トヨタがカルロス・ゴーンに学ぶべき「対トランプ交渉術」』)で取り上げたトヨタ自動車のケースのように、個別企業の経営に対する一方的で不当な介入と受け止められてもおかしくないケースが珍しくなかった。

それだけに、今回は、様々な疑問に対して、どのようなやり取りが行われ、トランプ氏がどう答えるかに大きな関心が集まっていた。

ちなみに、記者会見は、トランプ氏の自宅があるニューヨークのトランプタワーの1階で開催された。米内外のメディアから300人以上が集まり、1時間にわたって行われたという。

トランプ氏自身は記者会見の冒頭で、「神がこの世に創造した中で最も多くの雇用の創出者になる」と抱負を語った。

その証左として、「中国のネット通販最大手、アリババグループのジャック・マー会長など、多くのすばらしい人たちがアメリカにやってきている。彼らはこれからすごいことをするだろう。選挙結果が違っていたら、こうした人たちは別の国に行っていただろう」と自身の成果が早くも上がっていると強調した。

また、アメリカ国内の雇用が奪われていると、メキシコに生産拠点を置く自動車メーカーへの批判を繰り返していたが、「ここ数週間で経済にとってすばらしいニュースがあった。大手自動車メーカー、フォードがメキシコへの工場の移転計画を撤回した。フォードに感謝したい」と述べた。

さらに、米自動車最大手のゼネラル・モーターズ(GM)に対して、「フォードなどの動きに続くことを期待する」と追随を迫った。さもないと、「海外移転しようとする企業には高い関税をかける」とお得意の恫喝も忘れなかったのだ。