オバマ米政権は、安全保障、外交、経済の重点をアジア太平洋地域に置く「アジア・リバランス(再均衡)」政策を掲げ、日本、韓国、豪州など同盟国との関係を強化した。
だが、南シナ海での人工島造成など中国の一方的な海洋進出を止めることはできず、北朝鮮の核開発の進展には打つ手がなかった。
オバマ大統領が、アジア太平洋重視を初めて明言したのは、2011年11月のオーストラリア連邦議会での演説とされる。オバマ氏は、米国を「太平洋国家」と位置づけ、「同盟国・友好国と連携し、この地域の未来のため、より大きく長期的な役割を果たしていくことを戦略的に決断した」と宣言した。
つまり、日韓豪や東南アジア諸国連合(ASEAN)と連携し、アジア太平洋での米国の存在感を維持する。それにより、中国を軍事的にけん制しながら、同時に外交的に関与を続け、国際秩序に取り込んでいく。アジア太平洋の秩序づくりに米国が主導的に関わることで、地域の成長を米国の成長につなげる--。そんな大きな絵を描いた。
だが、他の政策と同じように、アジア重視という政策も、実行力が十分に伴っていたとは言えない。
経済分野の柱である環太平洋パートナーシップ協定(TPP)は米議会の承認を得られず、トランプ次期政権の誕生で風前のともしびだ。
安全保障分野でも、オバマ政権の2期目は陣容が変わり、中国への配慮が目立つようになった。その影響もあって、南シナ海で中国の海洋進出への対応が遅れた面があった。
13年に「米国は世界の警察官ではない」と表明したことで、軍事力の行使をためらう政権とのイメージが定着し、中国、ロシア、北朝鮮から足元を見られたという指摘もある。
一方、日米関係に絞ると、オバマ政権2期目は安倍政権との間で、自衛隊と米軍の一体化が進んだ。
オバマ大統領は14年春に来日した際、尖閣諸島について、米国の対日防衛義務を定めた日米安全保障条約5条の適用対象だと、米大統領として初めて明言した。
尖閣諸島をめぐる日中の緊張は続いているが、衝突に至らないで済んでいるのは、オバマ政権のこうした関与も一定の役割を果たしているためだ。
在日米軍駐留経費の負担増を日本に求めるなど同盟のあり方を見直すような発言をしてきたトランプ次期大統領が、どういうアジア政策をとるかは未知数だ。
オバマ政権のアジア重視という政策の基本的な考え方は、次期政権でも維持されるよう求めたい。