東京都の豊洲市場の地下水から、驚くべき数値の有害物質が検出された。濃度がケタ違いにあがり、検出箇所も大幅に増えた。巨費を投じた都の汚染対策はきちんと機能しているのか、という疑念さえ起こさせる。

 とはいえ、ここは冷静に対応する必要がある。今回の数値の変動はあまりに急激で、専門家も戸惑っている。いまはまだ、議論の土台である数値の信頼性が揺れている状態だ。

 都は今夏と想定していた移転判断のスケジュールにこだわらず、さらに検査を続け、今回検査結果が大きく変動した原因を徹底的に調べるべきだ。

 2014年に2年間の予定で始まった地下水の検査は、今回が9回目。都としてはここで都民の「安心」をとりつけ、豊洲移転に向けてはずみをつけたい、そんな期待があった。

 だが調査結果は予期せぬものだった。盛り土のあるなしにかかわらず、敷地内の72カ所から環境基準を超える有害物質が検出された。発がん性物質のベンゼンは最大で基準の79倍。本来検出されてはならないシアンは初めて検出された。

 都の専門家会議は、原因について、(1)昨秋から「地下水管理システム」を動かし、地下水のくみ上げや排出を始めたことで水の流れが変わった(2)採水時に土の粒などが混入した、という可能性を指摘している。

 移転を予定する仲卸業者らには、都への不信感が改めて広がっている。今回の検査は、入札で過去8回とは異なる会社が初めて担当した。今後、都は複数の会社に検査を依頼し、数値を突き合わせることなどで信頼回復に努めてもらいたい。

 食の「安全・安心」をめぐっては、さまざまな視点がある。

 専門家からは「地下水を飲むわけではないので健康に影響はない」「(人が働く)地上部に問題はない」などの声も出る。確かに、地下水で魚を洗うことなどは想定されていない。

 一方、土壌や地下水の汚染を環境基準以下に抑えることは、都が豊洲移転を決めた際の都民への約束だった。東京ガスの工場跡地への移転に反対する都民の声も少なくなかった。

 科学的な「安全」と、消費者の「安心」は時にずれる。

 いくら行政が「安全」を強調しても、消費者の納得がえられない場合もある。逆に「安心」を過剰に求めれば、風評被害につながりかねない。

 「安全」と「安心」をどう両立させるか。都に求められるのは、一歩ずつ着実に手順を尽くし、不信をぬぐう姿勢だ。