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歴史の転機 日中関係 立て直しに動く時期だ

 今年は1937年7月の日中戦争勃発から80年、72年9月の日中国交正常化から45年だ。「明と暗」の節目だが、日中関係は良好には程遠い状態だ。トランプ米大統領の誕生で国際情勢の行方が不透明になる中、日中関係をどう立て直すかは日本外交の大きな課題だ。

     「アジアにおける緊張緩和と世界の平和に貢献する」。72年の日中共同声明は国交正常化の意義を強調した。しかし、中国の経済、軍事大国化によって日中の力のバランスが崩れ、45年前の「日中友好」の枠組みだけでは安定が保てなくなっている。今や海外には「世界で最も危険な2国間関係」との見方すらある。

    民間交流で対立緩和を

     2010年代以降、尖閣諸島の「国有化」や反日デモの嵐で日中ともに相手に対する感情が悪化した。同時に日中の国内総生産(GDP)も逆転した。中国公船の領海侵入が常態化し、東シナ海上空には中国が防空識別圏を一方的に設定した。昨年末、空母「遼寧」が初めて宮古海峡を通過するなど中国軍の日本周辺での活動が活発化している。

     オランダ・ハーグの仲裁裁判所は昨年、中国が主張する南シナ海での歴史的権益や人工島建設を国際法違反と判断した。しかし、中国はこれを無視し、南シナ海を「内海化」するような動きを続ける。既存の国際秩序に挑戦する中国の行動を抑止するため、日米安保や自衛力の強化などの備えをするのは当然だ。

     同時に、それだけでは国際的な影響力を増す中国を押しとどめることは難しい。仲裁判決後、日米などは中国に判決受け入れを迫る包囲網作りを目指したが、当事者のドゥテルテ・フィリピン大統領が対中融和方針を打ち出したことで崩れた。

     日中間には45年の間に築き上げられた経済的な結びつきもある。日本の政府開発援助(ODA)や技術支援は改革・開放政策に踏み切った中国の経済発展を助けた。一方でバブル崩壊後の日本経済にとって中国市場の拡大がプラスに働いてきた面も否定できない。

     備えだけでなく、中国との共通の利益を増やし、対立感情を緩和する努力が必要だ。80年前、日本は「暴支膺懲(ようちょう)」(凶暴な中国を征伐し、懲らしめる)をスローガンに日中戦争に突入した。憎悪や侮蔑にとらわれれば、危険な状況に陥ることは歴史が証明している。

     今こそ民間交流の重要性が増しているといえるだろう。戦後も72年までは民間交流でパイプが保たれた。日中関係の悪化とは逆に中国からの訪日客は増えている。摩擦もあるが総じて言えば、日中関係にはプラスだ。アニメ映画「君の名は。」は中国でも大ヒットした。中国の若者は日本のポップカルチャーに強い関心を持つ。現実の日本を知ることで、対日イメージが改善されれば、安全保障リスクも軽減される。

     日本も正確な中国像の把握が必要だ。日本にあふれる「中国脅威論」や「中国崩壊論」には現実を踏まえない議論もある。巨大な中国は一面的な評価では全体をとらえきれない。近視眼的にならず、多様性にも目を向けるべきだ。

    首脳の決断が重要だ

     シーレーンの確保や海上権益擁護を目指した中国の軍備拡張の動きは今後も続くだろう。しかし、2049年の「建国100年」に向け、先進国入りを目指す中国にとっては平和な周辺環境が不可欠なはずだ。周辺諸国との関係維持には自制や協調姿勢を示していく責任がある。

     中国軍と自衛隊の接近遭遇が相次ぐ中、防衛当局間の海空連絡メカニズムの合意が急がれる。北朝鮮問題や保護主義台頭にどう対処するか。少子高齢化への対応など共通の課題も少なくない。尖閣諸島問題を封じ込め、2国間の大局に影響を与えないようにする方策はないか。共通の課題に取り組み、国民感情が改善していけば、より困難な問題を議論する環境も生まれるのではないか。

     習近平(しゅうきんぺい)国家主席は外交方針として「大国は下流なり」ということわざを引用する。大国が譲れば国家間の関係がより円滑に進むという意味だ。大国の自覚があるなら対立しても話し合いには応じるという姿勢を見せてほしい。

     中国では今年後半、中国共産党の第19回大会が開かれ、指導部内で突出した「核心」の座についた習主席の権力基盤がさらに強化される。安倍晋三首相も長期政権を視野に入れる。「1強」体制の弊害もあるが、外交面では妥協しても国内の批判を抑えやすいという利点がある。

     日中間には72年の共同声明など四つの基本文書があるが、08年の戦略的互恵関係に関する共同声明以降、日中を取り巻く環境は変わった。

     来年の日中平和友好条約締結40年もにらみ、「第5の文書」締結を目指した対話を進める時期ではないか。「一衣帯水」の日中には「不戦」の選択しかありえない。両国首脳の決断に期待したい。

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