ビジュアル面でもミステリー性を強調。ミステリー洋画に詳しいアートディレクターの沼田皓二を起用。イメージ画をスーパーリアリズムの第一人者であるイラストレーターの横山明に依頼し、金田一耕助役の鹿賀丈史、物語のカギを握る岩下志麻と岸本加代子の顔を不気味な雰囲気で描いてもらった。
ところが、岩下サイドからクレームがついた。「頬のシワが気になる」と。《恐ろしさ》を描き切った一流イラストレーターと当時40歳の人気女優で板挟みの福永。
「横山さんに修正をお願いしたが、『自分の画にキズはつけられない』と拒否された。何度も頭を下げて、ようやく譲歩してもらった」
もうひとつ、意表をつくPRを仕掛けた。完成披露試写会の試写状を、横溝本人の肉声を録音したシートで作ったのだ。レコードプレイヤーでしか聞けないというのがミソ。マスコミからは分かりづらいと不評を買ったが…。
しかし公開から2カ月後の12月28日、横溝が死去。不評の録音シートが遺声になるとは想像もつかなかった。映画の配収は約10億円のヒットとなった。 (敬称略)
■福永邦昭(ふくなが・くにあき) 1940年3月17日、東京都生まれ、76歳。63(昭和38)年、東映に入社。洋画宣伝室や宣伝プロデューサー、宣伝部長、東映ビデオ取締役を経て、2002年で定年退職。一昨年、「日本元気シニア総研」に参加し、研究委員、シニアビジネスアドバイザーの資格を取得。