ケイ役に抜擢されたのは、これで女優デビューとなる人気作詞家の阿木耀子だからなおさらだ。25歳の烏丸に阿木は35歳。この場面の取材はNGだったが、マスコミの要望に応えて写真はどうしても使いたい。福永は以前から付き合いのあった阿木に相談した。
「『お引き受けした時から覚悟はできていました』となんの迷いもなく了承してくれた。さすがトッププロだと思った」
映画は、予想を上回る高評価で拡大公開されてヒット。この年のキネマ旬報第7位、阿木は報知映画賞で助演女優賞、日本アカデミー賞では烏丸、阿木がそれぞれ主演・助演女優賞にノミネートされた。
東監督は、その後も東映で田中裕子の「ザ・レイプ」(92年)、大原麗子の「セカンド・ラブ」(83年)、黒木瞳の「化身」(86年)を撮って注目を集めた。
福永は公開後、烏丸からこんなことをいわれた。「宣伝が裸ばかりで売るから、もう東映には出たくない」
烏丸は1年後に高倉健主演の名作「駅・STATION」(東宝)で、阿木の夫で作曲家の宇崎竜童とも恋人役で共演した。 (おわり) =この連載は内尾哲明が担当しました。
■福永邦昭(ふくなが・くにあき) 1940年3月17日、東京都生まれ、76歳。63(昭和38)年、東映に入社。洋画宣伝室や宣伝プロデューサー、宣伝部長、東映ビデオ取締役を経て、2002年で定年退職。一昨年、「日本元気シニア総研」に参加し、研究委員、シニアビジネスアドバイザーの資格を取得。