アピタル・酒井健司
2017年1月16日06時00分
日本におけるがんのうち、胃がんは長らく死亡率第一位でした。現在は、男性では肺がんについで第二位、女性では大腸がん、肺がんについで第三位です。胃がん死が減った理由には、ピロリ菌感染割合の低下、治療法の進歩、検診の普及、食生活の変化などがあると考えられます。
がん検診の有効性を厳密に評価するには、検診対象者を検診を受ける群と、受けない群とにランダムに分けて、胃がん死や進行胃がんがどれくらい起こるかを数えて比較しなければなりません。けれども、今となっては検診を受けない群を設定する臨床試験は倫理的に行うことができません。検診を受けない群に振り分けられた人が不利益を被るからです。同様に、早期胃がんが発見された患者さんを、手術群と放置群に分ける臨床試験も行うことができません。
しかし、早期胃がんを放置したらどうなるのか、まったくわかっていないわけではありません。ほとんどの早期胃がんは治療(外科的切除または内視鏡的切除)されますが、まれに例外があります。大阪府立成人病センターおよび大阪がん予防検診センターが、さまざまな事情で治療しなかったか、あるいは半年以上治療が遅れた早期胃がんを追跡した研究を発表しています。
治療を受けなかった早期胃がん56例中、36例が進行胃がんになり、20例が早期胃がんにとどまりました。観察期間は6~137ヶ月(中央値39カ月)ですから、早期胃がんにとどまった20例も、もっと観察期間が長ければ進行胃がんになった可能性があります。早期胃がんが進行胃がんに進む期間の中央値は44カ月と推定されました。
早期胃がんを放置すると多くが進行胃がんになります。当たり前のようですが、こうしてきちんと集計して発表されているのは大事なことです。胃がんの症例数が多い施設でないと不可能な貴重な研究です。
ランダム化比較試験が行われていなくても、それ以外の方法で十分に証拠が示されているので、胃がん検診も胃がん手術もすすめられているのです。「胃がん検診は無効」「がんは放置したほうがよい」と主張する本もありますが、医学的には間違っています。こうした本をうのみにすると命に関わることがありますので、注意してください。
参考:
・国立がん研究センターがん対策情報センター「がん情報サービス」(http://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/summary.html)
・Tsukuma H et al., Natural history of early gastric cancer: a non-concurrent, long term, follow up study., Gut. 2000 Nov;47(5):618-21.
<アピタル:内科医・酒井健司の医心電信・その他>
1971年、福岡県生まれ。1996年九州大学医学部卒。九州大学第一内科入局。福岡市内の一般病院に内科医として勤務。趣味は読書と釣り。医療は奥が深いです。教科書や医学雑誌には、ちょっとした患者さんの疑問や不満などは書いていません。どうか教えてください。みなさんと一緒に考えるのが、このコラムの狙いです。
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