うかつに「登山でユニクロのヒートテック使ってます!」なんて書こうものなら、あちこちからお叱りを受けてしまいそうなこの案件。地雷を踏まぬよう注意深く進めていきましょう…(苦笑)
最近もとあるアウトドア系キュレーションメディアが批判を受けて、記事を削除するといったことがありましたっけ…。
はてなブックマーク - 登山服装をユニクロで揃える秘訣!超お買い得な登山ウェア6選!|YAMA HACK
そんな登山(スポーツ)用途のヒートテック使用に警鐘を鳴らしたのは、恐らくこちらの記事が最も有名かと思います。ヒートテックが登山に向かない旨のソースとして貼られることも多いですね。はてブ数も4桁とすごく読まれてる!
ヒートテックを山岳ガイドが使わない理由
確かに昔のヒートテックは少し汗ばんだだけでも、すぐには乾かずに汗冷えする印象でした。しかしながら、実際のところ現行製品でも同じ状況なのでしょうか?
ユニクロが公式に登山着へのヒートテック使用を宣伝してる
最近ですと、昨年セブンサミットを達成した女性冒険家の南谷真鈴氏が、エベレスト登山にてヒートテックを着用したことを、ユニクロ公式が大々的に宣伝している位。
実際の所はユニクロと並んで南谷氏をスポンサードするミレーの「ドライナミックメッシュ」を、ドライレイヤーとして着用している裏事情もある訳ですが、あくまでそれはFacebook等で一部のみに向けて伝えられた情報です。
Marin Minamiya - Cold day today.. 😫❄️ but #UNIQLO HEATTECH... | Facebook
(ミレー)Millet DRYNAMIC MESH NS CREW MIV01248 0247 BLACK - NOIR S/M (EUサイズ)
- 出版社/メーカー: Millet
- 発売日: 2016/08/01
- メディア: ウェア&シューズ
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もしかして、ヒートテックの速乾性能は、上がってる?
登山におけるウェアの選択は一歩間違えると命にも関わること。それをグローバル企業であるユニクロが大々的に謳っている訳ですし「もしかしたらヒートテックの吸汗速乾って以前より進化してるのでは?」なんて思いました。
ユニクロの店頭ポップでも「今年のヒートテックはドライ機能がアップしました」との記述。やっぱり速乾性はアップデートさせてるみたい!?
先の警鐘記事にしても、元々は2013年に書かれたもの。3年以上経った現在、ヒートテックのアウトドアウェアとしての性能は、実は進化してるのではないか?と考え、今回簡易的ではありますが速乾性能に注目して比較テストを行ってみました。
2016-2017シーズン版のヒートテックで速乾テストをしてみよう!
買ってきたのは、現在売られている2016-2017シーズンの最新ヒートテック。冬期の下着としては最もオーソドックスな長袖タイプ(Vネック 九分袖)です。素材の割合は「レーヨン34%/ポリエステル33%/アクリル28%/ポリウレタン5%」と、ネットで見られる過去のヒートテック情報とほぼ同様です(ブ厚かった頃の初期ヒートテックは全く別)。
ネットではこの「レーヨン」が速乾におけるネックとされていますが、とりあえず試してみないことにはね!
やはりパッケージ裏では「吸放湿」と「吸汗速乾」を打ち出しています。
ちなみに現行ヒートテックには「ヒートテック」「極暖ヒートテック」「超極暖ヒートテック」の3種類がありますが(後者ほど生地が厚く暖かい)、「吸汗速乾」を打ち出しているのは薄手の「ヒートテック」肌着のみなのでお間違いなく。
ユニクロ|HEATTECH(ヒートテック)|MEN(メンズ)|公式オンラインストア(通販サイト)
比較対象は2年前のヒートテック/無印コットン/モンベルジオライン
本当は4〜5年以上前のヒートテックが手元にあれば良かったのですが、その頃のヒートテックは全て処分済み。手元にある一番古いヒートテックシャツは、一昨年に型落ちとして購入した、つまり2014-2015シーズンのモデル(スペックは今回購入のものと同じ)。
さらに速乾性能の低そうな同型の長袖下着として、無印良品の「コットンウールストレッチ あったか/Vネック長袖シャツ」を用意しました。綿100ではありませんが、「綿84%/ウール10%/ポリウレタン6%」と肌触り重視で、速乾性は二の次と思われます?
また、比較用のアウトドアウェアとして、この手の話題ではお馴染みの「モンベル/ジオラインM.W.(長袖)」を用意。さらに長袖シャツではありませんが、登山用ベースレイヤーとして人気の「モンベル/スーパーメリノウール M.W.」も用意しました(こちらは長袖が手元になくタイツを使ったので、あくまで参考数値)。
その他、ジオラインL.W.やファイントラックのドライメッシュなども使っていますが、用途が異なる(防寒を含まないベースレイヤー/ドライレイヤー)であるため、テストには加えていません。この2製品の速乾比較は、以前こちらの記事で行っています。
お気楽山歩きを楽しむ私が手放せない地味目な山ウェア「三種の神器」 - I AM A DOG
速乾性能(スピードテスト)の手順について・注意
まず、最初に注意として今回のテストは実際のフィールド使用でなく、保水状態からの乾燥具合(含水率)の変化を、部屋干し時の重量変化で計測したものです。フィールドで肌着として着用し、ミッドレイヤーやハードシェル等を重ね着した場合は、全く別の結果になる可能性があります。
あくまで、速乾性能の一部を比較したテストである点、また、一度きりの計測のため様々な誤差も発生していると思われる点に留意の上、ご覧くださいませ。
全てのウェアに同量の水分を含ませて乾燥させる方法なども検討しましたが、今回は一律で水を染みこませた状態から、洗濯機で5分脱水をした状態を「保水状態」としました。
そこから「室温22℃/湿度45%」の室内で部屋干し。10分毎にそれぞれの重量を計測しています。フィールドでの汗乾き(汗冷え)にどれほど直結するデータか分かりませんが、比較的面白い結果(?)が得られましたので、公開してみることにします。
※テストに際して新品のヒートテックと無印シャツは、1度洗濯を行っています。また、全てのテスト肌着に対して洗濯時に、(速乾性能に影響が出ると言われる)柔軟剤は使用していません。
肌着の保水&乾燥テスト結果
まずは、実測の重量変化を表にしたものです(単位はグラム)。「乾燥時」の重量に、前項条件の「保水時」重量。以後は10分おきの重量変化になります。
※部屋に置いているだけでも、乾燥時の衣類は湿度等で2g前後の重量変化は頻繁に起きるようでした。あくまでそのレベルの誤差は発生しているとお考えください。
「含水率」は湿量基準含水率にて
そして気になる含水率の変化を折れ線グラフで。ちなみにグラフを作るにあたり保水率(「含水率」と呼ぶそうです)の算出方法を調べたのですが、この「含水率」には水を含まない重量を基準にした「乾量基準含水率(全乾法)」と、全体重量を基準にする「湿量基準含水率」があるそうです。どちらを用いるべきかですが、あくまで素材毎の含水率の変化が比較できればよいので、後者の数値を出しています。
まず、目を見張るのがジオラインの圧倒的な速乾性能の高さ。スタート時点での保水が少ないことにも注目ですが、乾き初めてからの急下降ぶりが、その速乾性能の高さを示しています。実際に着用した場合、含水率20%を切っている時点で、ほぼ汗冷えなどは感じないと思われます。
続いて、今回の主役(?)であるヒートテック。困ったことに(?)最新の2016版よりも、2014版の方が乾きが早い結果が出てしまいました(笑)。測定誤差の範囲(スタート時点での脱水の誤差)とも考えられますが、今回1度きりの計測では最新版ヒートテックの速乾性能向上を裏付ける結果は得られせんでした。
しかし、天然素材であるスーパーメリノウールより、ヒートテック2種の方が乾燥が早かったのも事実。ただし、テストに使用したスーパーメリノウールがタイツであったため、ウエストゴム部分の吸水が多かった可能性もあり、これも誤差程度と考えて良さそうです。
そして当初、最も含水率が多かった無印のコットン肌着。計測時の手触りもあきらかに、これだけが「濡れ」感が強かったです。しかし完全乾燥(含水率0%)になるのは、ヒートテックやメリノウールと10分しか変わらない結果でした(しかも1gの差)。アウトドアでは兎も角、洗濯物としての乾き具合は化繊インナーに負けない製品のようです(笑)
テスト結果より
今回のテストで分かったことは、まずはやはりジオラインの圧倒的な乾きの速さ。「M.W.(ミッドウェイト)」というそれなりに保温効果も高い素材でのこの結果は、アウトドアメーカーの面目躍如といったところ(当然ですが、アウトドア用製品にはより高機能・高価格のインナーが多数存在します。入手しやすいコスパの高さから、私がジオラインを選んでいるだけです)。
(モンベル)mont-bell ジオラインM.W.ラウンドネックシャツ Men's 1107525 BK ブラック L
- 出版社/メーカー: mont-bell
- 発売日: 2015/01/16
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そして肝心のヒートテックですが、ジオラインには及ばないものの、天然素材で登山着にも使われるメリノウールと同等の性能が見られた点。後述する、私が日頃登山で使っている(下着用ではない)メリノウールシャツよりも乾きが早かった位です。
もちろん「すなわち即登山使用OK」とはこれだけのテストからは言えませんが、それこそ南谷氏のようにドライレイヤーとの併用、または吸水性の高いミッドレイヤーを重ねることで、安価な防寒&速乾インナーとして1つの選択肢になってもいいように感じました(そのレベルのウェアを選択する人はそもそもヒートテックは着ないと思いますが…)。
また、発汗量は個人差もあることですし、私のような汗っかきはドライレイヤーが必須ですし、その上に重ねるベースレイヤーも、メリノウール一択でなく改めてジオラインを含めた化繊インナー各種(ハイブリッド系なども)を試してみたくなりました。
(モンベル)mont-bell スーパーメリノウールM.W.ラウンドネックシャツ Men's ブラック(BK) L 1107235
- 出版社/メーカー: mont-bell(モンベル)
- 発売日: 2015/01/16
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実際のところ、低価格インナーはユニクロ以外にも選択肢は多く「ヒートテック以上ジオライン以下」の素材は様々にあるようです。自分の行動スタイルや発汗量に併せて、それらを適宜使い分けられる人なら、何を選ぼうとも外野がとやかく言うことではないのかもしれません。
そしてまだその判断ができない初心者のうちは… とりあえずジオラインを選んでおけば間違いないでしょう(笑) 無難すぎる結論ですけども。
おまけ:ユニクロ/ファインメリノウールの速乾性能
今回のテストに併せて、以前から気になっていたユニクロ製「ファインメリノウール」(前「スーパーファインメリノウール」→現「エクストラファインメリノ」)の乾燥テストも行ってみました。格安メリノウール素材としてお馴染みのユニクロ/ファインメリノですが「これをアウトドア用メリノ的に使えないか?」なんて考えたことのある人は、結構いるのではないでしょうか?
比較相手は私が秋冬の登山で使っている、モンベルのスーパーメリノウール製長袖シャツ。普段はこれをスキンメッシュの上に着て、ベースレイヤー兼ミッドレイヤー的な使い方をしているものです(以前はこの間にジオラインを挟んでいましたが、行動中は熱すぎたので今は外しています)。
まずは、保水状態から乾燥の重量変化を表にしたもの。モンベル、意外に重たい…。
そして、含水率の変化グラフはこちら…。はい、ユニクロ/ファインメリノウールの方が、保水や速乾については性能が上と思われる雰囲気の結果が出てしまいました(笑)(これも実際に肌着として着た場合の変化と同じとは限りません)
確かにモンベルのメリノウールシャツ、汗乾きがそれほど早くなく、ファイントラックのスキンメッシュに助けられてる部分は大きい気がしていました。それでも汗冷えする程ではありませんでしたし、これなら別にヒートテ… おっとこれ以上はやめとこう。
(モンベル)mont-bell メリノウールプラスアクション ジップネック Men's 1104972 DKBL ダークブルー M
- 出版社/メーカー: mont-bell
- 発売日: 2015/02/10
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だからといって、ユニクロのファインメリノウールを登山で使うか?と言われるとそれはそれで微妙です(肌直はチクチクしそう)。
そろそろ、モンベルメリノも買い換えたいと思っていたところですし、最近流行のメリノウールと化繊のハイブリッド素材など試してみたい、なんて考えてしまいました。
ファイントラック(finetrack) メリノスピンライトジップネック OA FUM0712 M
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- メディア: その他
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参考記事/関連記事
冒頭で紹介したヒートテックご意見番としてお馴染みのブログより。2年前に既に同様のテスト(ヒートテック極暖)のテストを行っていたようです。南谷氏のドライナミックメッシュ使用についても、記事にされています。
ヒートテック極暖の速乾性は「綿以下」という実験結果
ヒートテックでエベレスト登頂 実はドライナミックも下に着ていた
アウトドアギアジンのベースレイヤー&ドライレイヤー記事。どれも情報量タップリですが、今回の記事的に注目なのはワークマンネタでしょうか(笑)
一度着たらもう戻れない!さらに快適になったメリノウールのベースレイヤー(インナー)おすすめ10着【2016】 | Outdoor Gearzine "アウトドアギアジン"
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当ブログよりもハイテク素材やユニクロ関連記事を少々。
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