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【社説】

欧州で問われる民意 反・既成政治の先は

 独仏オランダで今年、国政への民意が問われます。既成政治への異議申し立てが勢いを増し共鳴し合いますが、将来の展望はあるのでしょうか。

 三月に下院選があるオランダでは、反イスラムを掲げる極右、自由党が第一党になりそうな勢いです。四〜五月に大統領選が実施されるフランスでは、欧州連合(EU)への反対を訴える極右、国民戦線のルペン党首が決選投票進出をうかがいます。

 ドイツでは秋に連邦議会(下院)選挙があります。

◆打倒メルケル氏掲げ

 寛容政策や脱原発などでリベラル色イメージの強いメルケル首相ですが、保守本流、キリスト教民主同盟の党首です。

 中道左派の第二党、社会民主党と組む大連立政権が三年来続き、基盤は盤石に見えましたが、寛容政策で難民申請者が大量に流入、その一人が昨年十二月、ベルリンでテロを起こし、逆風が吹いています。しかし、今月の世論調査では首相の支持率56%と、昨年九月に比べ10ポイント以上上昇。首相四期目を目指すメルケル氏には今のところ、敵は見当たりません。

 ドイツの野党は、環境保護を訴える緑の党、旧東ドイツ政権党の流れをくむ左派党などです。メルケル氏より右派や保守寄りの主張の受け皿はありませんでした。

 間隙(かんげき)を縫い、支持を伸ばしているのが、新興右派政党「ドイツのための選択肢」です。

 反ユーロを唱え四年前に発足しましたが、移民難民の受け入れ反対など、より右派寄りの主張へと軸足を移してきました。

 主導権争いの末、党の顔となったのがフラウケ・ペトリ党首(41)です。四人の子どもの母親です。女性であることに加え、旧東独地域育ち、理系(化学)研究者だったなど、メルケル氏(物理学専攻)とも共通点があります。

◆極右ではないけれど

 メルケル氏打倒に闘志を燃やし、昨年秋、首相地元の旧東独地域で実施された州議会選では、第二党に躍進しました。

 トランプ氏と同様、あれよ、あれよという間に支持を広げている「選択肢」ですが、憎悪をあおるいわゆる極右ではありません。

 党幹部によると、「選択肢」は外国人排斥ではなく、反イスラムを掲げ、イスラム教徒に対してではなく、イスラム政治思想への反対を主張します。

 ドイツの週刊誌シュピーゲルは「右派国家主義」と名付けています。思想信条的には「選択肢」とは逆である、「緑の党」との類似を指摘します。

 緑の党は一九八〇年に結成。環境保護や平和主義を訴え、チェルノブイリ原発事故(八六年)後は脱原発に力を入れます。

 両党の共通項は、既成政治や既成メディアに不満を抱き、不公平や不公正のない「理想」を求める点です。緑の党が原発、「選択肢」が難民による破局を主張する点が違いです。

 緑の党は、ドイツ統一後、旧東独の市民運動と合流して90年連合・緑の党となり、九八年、社民党との連立で政権入りし、メルケル政権に先立って脱原発政策を実現させました。

 しかし、「選択肢」がどんな将来像を描いているのかは見えてきません。

 「選択肢」は、欧州各国の反移民難民、反EU勢力とともに、英国のEU離脱決定や、米大統領選でのトランプ氏当選を歓迎し、共鳴し合います。ベルリンのテロ後はそろって、メルケル氏の寛容政策や、EU域内の移動の自由を保障したシェンゲン協定を批判しました。ペトリ氏がルペン氏と会談し、友好関係を築くことで一致した、とも報じられています。

 しかし、英国はEU離脱決定半年以上たった今も、今後の具体的なシナリオを明らかにしていません。トランプ次期米大統領の政策も不透明で、国際社会を混乱させています。

 既成政治打倒を目指すものの、展望を示せないことも、「共鳴仲間」に共通するようです。こんな世界はごめんです。

◆優位でも油断は禁物

 互いに共鳴し合う中で、主張がエスカレートし、競い合うように、不寛容、排他的な色彩を強めていきはしないかも心配です。

 「選択肢」はドイツ連邦議会で初議席を獲得するかもしれないが、メルケル与党の優位を覆すことはないだろう、というのが、大方の見立てです。

 しかし、さらなるテロなど治安の悪化や、各国勢力との共鳴が、どんな化学作用を起こすのかは分かりません。

 英国のEU離脱決定やトランプ氏当選で学んだように、油断は禁物です。

 

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