女流名人戦五番勝負第1局、上田女流三段が先勝…最強名人逆転で沈めた

2017年1月16日10時0分  スポーツ報知
  • 大盤で対局を振り返り笑顔を見せた勝者の上田初美女流三段
  • 初手を指す挑戦者の上田女流三段(右)と里見香奈女流名人(後方中央は立会人の清水市代女流六段)

 神奈川県箱根町の岡田美術館で15日、第1局が行われ、先手の挑戦者・上田初美女流三段(28)が101手で、8連覇を目指す里見香奈女流名人(24)=女流王座、女流王位、女流王将、倉敷藤花=に先勝。初戴冠に向けて幸先のいいスタートを切った。

 激しく斬り合った力戦の中、放った鬼手▲5一角の一撃で最強女流名人を沈めた。第2局は22日、島根県出雲市の出雲文化伝承館で行われる。

 終局後、深紅の和装と重なるように上田の頬は染まっていった。「斬り合っていく将棋を指したかったので、気持ちの面で負けない将棋を指せて自信になりました」。互いに果敢に攻め合う「斬り合い」という将棋用語を語る鋭い表情は、どこか女剣士を思わせた。

 女流名人戦史上に残る一手が生まれたのは85手目の局面だった。守勢の里見が一瞬にして先手玉を攻め立てた△7九飛~△8五桂の構想は「光速の寄せ・出雲のイナズマバージョン」とでも呼びたい鮮烈な手順。上田は「△8五桂は見えなかった。自玉があんなに危なくなるとは思わなかったので焦りました」と動揺しつつも腰を据えた。

 28分の考慮で打ち込んだ▲5一角は、誰も予想しなかったカウンターの一撃。形勢をたぐり寄せた。「偶然発見できました。▲5一角で負けたらしょうがないと思った」。相手の駒が3つも利いている地点への意表の角打ちで、4一の地点で眠りかけていた成銀に命が吹き込まれた。

 控室で検討していた森下卓九段(50)は「驚きました。羽生(善治)さんが指したら『さすが羽生』と言われる一手ですよ」と最大の賛辞でたたえた。

 名シリーズの再来を期待させる開幕局となった。4期前の五番勝負で上田は里見とフルセットの死闘を演じている。「もうずいぶんと前のような気がします」。最終局は女流棋戦として史上初めて将棋大賞の名局賞特別賞を受賞したが、本局も負けず劣らずの名局となった。

 初挑戦の時からの最大の変化は、結婚し母親になったこと。一昨年12月に女児を出産して以降、育児に追われながらも今期通算24勝6敗と大活躍している。支えているのは、同門の棋士である夫の及川拓馬六段(29)。上田は言う。「手伝ってくれるのではなく、ウチは2人で育児をしているので任せてても、何も心配していません」。娘も理解しているのか、14日朝に自宅を出る際、「バイバ~イ!」と笑顔で送り出してくれた。

 7連覇中の最強女流名人を相手に、大きな一勝を挙げた。「1局勝ててホッとした部分は大きいです」。鬼の一手で激戦をモノにした挑戦者の表情は「ママ」ではなかった。勝負師の顔だった。(北野 新太)

 ◆上田 初美(うえだ・はつみ)1988年11月16日、東京都小平市生まれ。28歳。伊藤果八段門下。5歳で将棋を始め、2001年に女流棋士に。11年のマイナビ女子オープンで初タイトルの女王を獲得。獲得タイトルは女王2期。今期女流名人リーグは7勝2敗で挑戦権を獲得した。居飛車も指しこなす振り飛車党。

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