SCEが無くなる日
SCEという名前が無くなるのは、何か大きな時代の変化を感じます
そのSCEが無くなる日がやってくるようです。と言っても、無くなるのは名前だけで、組織や機能は新会社に統合されます。
新会社は「ソニー・インタラクティブエンタテインメントLLC」、略してSIE。SIEはSCEと、そしてプレイステーションネットワーク関連のサービスを担っていたソニー・ネットワークエンタテインメントインターナショナル(以下SNEI)を統合し、ソニーグループのゲーム部門とネットワークサービス分野を担当します。
【関連サイト】
「ソニー・インタラクティブエンタテインメントLLC」 設立のお知らせ(SCE公式サイト)
SCEという名前が無くなるということ自体が、ゲーマーにとっては寂しいものがあるのですが、もちろんこの話は名前だけのことではありません。ソニーグループの事業戦略的な狙いがあってなされることだと考えられます。
発表があったばかりですが、今、この統合から考えられるPlayStationというプラットフォームの今後について、考えてみたいと思います。
ネットワーク関連ビジネスのスピーディーな展開
自然に考えて、PlayStationNowなどのゲームとネットワークを融合したサービスが、よりスピーディーに、よりダイナミックに展開されるようになりそうです
上記にリンクしたプレスリリースにはちょっと気になる文言がありまして、SIEの事業戦略として、
「『プレイステーション』ユーザーの維持、拡大」、「ARPPU(Average Revenue Per Paying User:購買ユーザー1人あたりの売上)の向上および関連売上の増大
をあげています。気になるのは「ARPPU」という言葉です。購買ユーザー1人あたりの売上と訳されていますが、これは多くの場合ネットワークサービスにおいて使う用語です。ARPPUという言葉は「ARPU」と比較すると分かりやすいんですが、ARPUは「Average Revenue Per User」で、ユーザー1人あたりの売上。それに対してARPPUは「Pay」の「P」がひとつ余計に入っていて、お金を払った人の中で、という意味を追加しています。
すごく分かりやすい表現でに直すと「課金ユーザー1人あたりの売上」ということで、無課金ユーザーを別にして、課金ユーザーだけで見た時の平均売上、という意味です。ネットワークサービスならでは、という感じがしますよね。
以前のゲームプラットフォーマーならハードの拡大を最重要視していたと思いますが、SNEIと統合することで、そこに並んでARPPUという指標が出てくるわけです。ネットワークサービスが、ハードウェアを売る為の単なる付加価値ではなく、売り上げのキーとして挙がってきている、ということでもあります。
さて、SIEの設立に際して、もうひとつ気になることがあります。それは本社所在地です。
PlayStationの発信拠点は東京ではなくなった
SIEは拠点を北米にかまえます。
もちろん日本のゲーマーからすると、大変に寂しい話ではありますが、当然と言えば当然の判断かもしれません。特にポイントとなるのは据え置きハードでしょう。大変に好調なPlayStation4(以下PS4)の販売台数は1月3日時点で全世界約3,600万台を販売と発表されていますが、一方で日本はというと現状約230万台程度。単純計算すると、PS4本体に関して、全世界に対する日本のシェアは約6%しかない計算になります。
PS4をゲームとネットワークサービスの中核に据えるのであれば、6%しかない日本で物事をすすめるよりも、好調かつ市場規模の大きい北米に本拠地を移すのは妥当と言えるかもしれません。
目まぐるしく変化する環境とソニーの判断
日本の据え置きゲーム市場は、明らかな縮小傾向にあります。
ゲームはパッケージの価格×買ってくれる人の数というだけのビジネスではなくなり、継続的なサービスで囲い込み、高付加価値を求めるユーザーからさらに収益を得るという形に変化していきました。それはスマートフォンのゲームなどで特に顕著ですが、コンシューマーゲームも例外ではありません。
また、日本はかつてコンシューマーゲームの発信拠点でしたが、ソニーが本社を移転するまでもなく、現状はそうではありません。特に据え置きハードに関してはPS4に限らず、日本市場は明らかな縮小を見せ、その注目度、優先度は下がっています。Wii Uも、Xbox Oneも、そしてPS4も、日本のハード発売日は海外の主要な地域よりも後でした。
そういった環境の変化に対応し、生き残る為の体制を整えようとしていることが、今回の組織統合からはうかがえます。そうなると日本のPlayStationはどうなるのか、特に海外でうまくいっているPS4がどうなるのかが気になる人は多いんじゃないでしょうか。
日本のPS4はどうなるのか?
かつてのような盛り上がりを取り戻すのは難しいでしょう。だからといって、全部がダメになってしまうわけでもありません。(イラスト 橋本モチチ)
そもそも、時代の流れにあわせて枠組みを変えていっているのであって、もともとPS4は海外市場の方が戦略的な優先順位は高かったでしょうし、だからといって日本市場を完全に無視しているわけでもありません。また、ゲームビジネスにおいてオンラインサービスが非常に重要になっているのも、今に始まったことではないのはご存知の通りです。その現状に組織の枠組みをあわせていったということです。ちなみに、本社こそ北米に移しますが、日本とロンドンにはグローバル規模でビジネスオペレーションをする組織を設置するともしています。
2016年のPS4は「FINAL FANTASY XV」も発売予定、バーチャルリアリティシステムのPSVRも登場、2017年前半までには「ドラゴンクエストXI 過ぎ去りし時を求めて」の発売も見込まれ、これまでよりも盛り上がることが期待されます。国内PS4市場において2016年は重要な年で、より一層力を入れた展開をしてくるものと思います。ここら辺の流れが、今回の組織統合でガラッ変わってしまう、ということは考えにくいことです。
まとめますと、2016年のPS4は、これまでよりも充実したラインナップで大変期待されますし、力を入れてくるとは思いますが、それでも日本の据え置きゲームハード市場の現況を考えれば、日本はコンシューマーゲームの中心地にはなり得ないということです。
日本が中心じゃないとダメなのか、と言われると、中心だった方が嬉しいし、世界中で一番盛り上がっていてくれたら楽しいんですが、中心じゃなくなったから急に面白くなくなっちゃうというものでもありません。意外と、どんな時も、面白いゲームというものはあるものです。日本のコンシューマーゲーム市場はニッチになってしまったんだなあとちょっとしょんぼりしつつも、「ドラゴンクエストビルダーズ」を遊んで、うわー楽しーってなってるんです。それでいいと思います。
時代は変わっていきますが、楽しいゲームを探して遊ぶ、それはきっと、明日も明後日も来年もその先も、そんなに変わりません。いつもいつでも、楽しんでいきたいと思います。
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