.


マスター:むらさきぐりこ
シナリオ形態:ショート
難易度:難しい
形態:
参加人数:6人
サポート:0人
リプレイ完成日時:2017/01/10


みんなの思い出

1
1

オープニング


 コトリバコ。
 都市伝説の一種で、初出はインターネットの匿名掲示板とされる。
 その出自から主にウェブ上で話題になるオカルトであり、今日では『検索してはいけない単語』として恐れられている怪談でもある。


 概要はこうだ。

 かつて、差別と迫害で極限まで貧困に陥っていた村があったという。
 そこに戦争から逃げ出してきた男がやってきた。
 村人は男を殺そうとしたが、男は『見逃してくれれば武器をやる』と言って、この箱の作り方を教えた。

 まず、からくり細工の箱を作る。
 中を雌の獣の血で満たし、一週間寝かせる。
 その血が乾ききらないうちに、生贄を中に入れるのだ。

 生贄とは、間引いた子供である。
 子供の数だけ呪いは強くなり、名前も変わる。

 一人でイッポウ、二人でニホウ、三人でサンポウ、四人でシッポウ、五人でゴホウ、六人でロッポウ、七人でチッポウ。
 そして、八人でハッカイ。
 子を取る箱、転じてコトリバコは、こうして完成される。

 箱は、圧政を敷いていた庄屋の一つに上納された。
 その日のうちに、庄屋の女子供は悶え苦しみ抜いて死んでいったという。
 こうして村は、呪いの箱を盾にして、ひっそりと暮らしていった――



 とまあ、こんな感じの話。
 実際の書き込みだともっとホラーしてるけど、核心部分はこんなところかな。気になるなら自分で調べて。

 安い話? いやいや、十年以上生き続けているだけでたいしたものだよ。恐れられていることには変わりないんだから。
 そんなこと言ったら口裂け女や人面犬とか、元々ただのゴシップでしょ。
 四谷怪談なんてただの創作だぜ? それでもお岩さんは祟るでしょ。そういうこと。

 怖い話だ。実際にあったら嫌かも。そういう共通認識が大事なんだ。
 いったん『おそろしいもの』として世間に認識されてしまえば、呪いは現実になりうる。
 そこにアウルという『現実として認識されているオカルト』を触媒にすれば、より精度は上がるだろう。

 ああ、そっちの二人は近づかない方がいいよ。
 言ったでしょ。女子供に効果覿面な呪いなの、これ。近寄るだけでも危ないから。
 結婚願望とかあるんだったらなおさらね。それこそ機能ごと――
 いやいや、会話としてはジョークだってば。このくらいじゃ下ネタにもなってないでしょ。勘弁してよ。
 ねえ、君のお弟子さん、ちょっと潔癖すぎない?


 それでなんだっけ。ああ――山籠もりの理由だっけ?
 深い理由は色々あるけど、語るには尺が足りないかな。

 まあ、ねえ。
 人間は増えすぎた。多すぎて、資源の無駄が加速してる。
 生きなくてもいいものが残って、生き残らねばならないものが死んでいく。
 天魔も正直大差は無いし、悲しいかな、知的生命体は総じて愚昧だ。
 矛盾してるよね。それとも皮肉って言うべきかな?

 だから、頑張って間引かないといけない。
 世界のために、地球のために、何よりも人間のために。

 独善? かもしれないね。
 そりゃ、『そうしないと気持ち悪いから』っていう部分はどうしても否定できない。
 でも『正義』なんてそんなものだろ? 言うなれば人生の指標だ。独善を軸にして人は生きていく。

 はっはー。そこは君も似たようなもんだろ?
 聞いてるよ。会社抜けて『聖女』やってたんでしょ。
 優等生だったのにねえ。
 まあ、遅く来た反抗期(はしか)は重症になるから。
 しみじみ実感するよ。
 お互いさ。


 『材料はどこから調達した?』
 これ聞かない辺り、ホント、大概だよね。


 ――で。
 これ、どういうつもりで録音してる?



 ICレコーダーの再生はそこで止まる。茅原未唯はしかめ面で、それをスピーカーから取り外した。
「――今、『奴』と話していたのが、問題の『爆弾魔』だ」
 未唯がタブレットを操作すると、黒板にスライドが表示される。そこには、ぱっと見十代前半に見える美少年が映し出されていた。
「世上要(せじょう・かなめ)。ここの卒業生で、フリーの撃退士――というのが三年前までの経歴。これは現役時代の写真だから、今はもう少し老けている、とは思う」
 曰く、当時でも二十代後半とのことだった。見た目と年齢が一致しないのは撃退士にはままあることである。
 ともあれ写真の中の要は、人好きのする顔に無邪気な笑顔を乗せている。清潔感のあるベビーフェイス。実際、現役時代は入れあげている女性も多かったらしい。


 しかし、現状は目を背けたくなる有様だ。
 今の混乱している情勢に乗じてか。世間には爆弾魔が出没している。

 大学の研究室、国立病院、暴力団事務所、都心ビル、住宅街の一軒家。
 都市も場所もターゲットもランダムじみた『爆撃』。しかして、送りつけられたものは爆弾ではない。

 ただの小洒落た寄せ木細工だ。それもどこかの民芸品かと思わんばかりの綺麗な箱。
 しかしそれの封を切った瞬間、『何か』が箱からあふれ出して、あっという間に周囲を飲み込んだ。
 そして後に残ったのは、何事もなかったかのように傷一つ無い建物と、身体中から血を吹き出して死んでいる犠牲者達だった。

 『コトリバコ』という単語がネット上を駆け巡るのに、そう時間はかからなかった。

 こんな現象、天魔の関与はもはや疑う余地がない。今の情勢にも関わらず、趣味の悪い天魔はいるものだ――そう踏んで捜査を進めてきた。
 だのに、このタイミングでこんな匿名の情報が飛び込んできたのである。

 投函された封筒の中身――調査書、ICレコーダー、地図、携帯電話――は、完全に状況と一致してしまっていた。
 純然たる人間であり、久遠ヶ原学園の卒業生である世上要が、このテロリストの正体だと告発していたのだ。

「――今、『覚醒者がテロを仕掛けた』なんて事実は発表できない。それは理解しておいて欲しい」
 現状――天魔との和平交渉を進めている状況で、『撃退士そのものへの不信感』を世間へ与えるわけにはいかない。
 だから『爆弾魔』と表現している。手段はどうあれ、広範囲に被害を出す兵器なら爆弾という表現も嘘ではない。
 これではまるで半年前のようだ。未唯は頷いた。
「世上は『聖女』の残党ではないんだろう。この録音を信用するなら、個人的なエゴで動いている危険思想の持ち主だ」
 言って、同封されていた『調査書』を憎々しげに睨めつける。
「どういうつもりでこんなものを送ってきたかは知らんが、もうこれ以上好き勝手はさせない。私は別口でコレを逆探知してみる。だから、君たちは世上を早急になんとかしてくれ」
 要の居所は地図に、能力は調査書に記載されている。気味が悪いくらいに詳細に、傾向と対策まで。
 まるでゲームの攻略本のようだと、未唯の同僚は零したらしい。
「最優先は残りの『コトリバコ』および研究の破壊。世上本人の処遇は現場に任せる。それじゃあ直ちに――」

 携帯電話が鳴った。非通知。確か前もこんなことがあったなと、未唯は舌打ちをした。
 未唯はスピーカーモードで、その着信を受け取った。

 場違いなくらいに飄々とした声が、電話から聞こえてきた。
『やあ優秀なる後輩諸君、久しぶり。世上先輩討伐の準備は整ったかな?』
 信田華葉は、そんな風に切り出した。

『どうして天才は乱心するんだろうね。それとも才能の副作用が厭世なのかな』
『幸福であるには愚民であれ。それが世界のバランスだったりするのかな?』
 そんなことを、宣った。


プレイング

月夜に歌う・ケイ・リヒャルト(ja0004)
大学部3年6組 女 


あのセンパイは…結局、何を為そうとしているの?
今回の情報も、今までの敵対能力者やその保護なんかも…
一体何の為?いつか…分かる日が来るのかしら。

事前
村の民家等の配置等が分かるような地図乃至案内図の貸与願
その配置から割り出して、箱の隠し場所の推理をしておく
*民家に赴く為に必ず通らなくてはいけない場所
*自分達が無視することの出来ない場所
→後者は地図での予測と現地到着後の選定とする


解呪には関わらず、要発見>箱の発見を重視
要が口頭での挑発に乗って来ない=自ら出てこない
→民家内に対し鋭敏聴覚使用し、中に誰かいないかをチェック
「誰か」が居る際は慌てずに、きちんと中を確認する
*要は奇襲を仕掛けるような手を使うと思えない為
*箱に生贄が必要だとした場合、捕縛された何かではないか確認する為
また、箱については女子供に効果覿面らしいが、何らかの識別の可能性を考慮
女子供だけでなく、全員に効果が機能する可能性を覚悟しておく
→解呪する者だけでなく、男性陣のフォローにも入る

戦闘
要の武器破壊をまずは狙う
Aショットで武器を狙い、弱体化した上で色々な角度を取りつつ破壊
箱を隠し武器として所持している可能性から、常に最大射程で動き回っておく
要への攻撃は多角攻撃となるよう配慮
自身が動き回りながら攻撃することで、要へのダメージを確実な物とする
尚、今回は要殺害も止む無し
Bパレード 専門知識を最後のトドメに使う

バラクラバー・Robin redbreast(jb2203)
高等部3年1組 女 
解呪メインで動くよ

埋めてあるのを踏んでしまわないように
土の色が掘り返した感じがしないか
床が盛り上がったり、色が異なってないか注意するよ

世上要が逃走しないように
車や自転車や船があったらエンジンやタイヤを破壊するよ

大きな「不吉な感じ」を感じ取ったり、デザインの規則性で箱の威力が分かったら
聖なる刻印を使って対応するよ

コトリバコがディアボロのようなものだとしたら
箱の持つ能力はスキルのようなものなんじゃないかな
解呪に失敗した時は、全ては夢で箱の攻撃を無効化できないか試すよ

箱に仕掛けがあるとしたら、時計の針のような音はしないか
他の箱より大きかったり、重かったり、出っ張っていないか

あとは、世上が遠距離攻撃で強引に破壊してこないか
解呪する時は、必ず誰かに周囲を警戒してもらうよ

世上の近くにコトリバコがある時は
味方に世上の気を引いてもらっている隙に
闇渡りでコトリバコを確保して、再移動で離脱するよ

コトリバコを破壊する人からは離れておくよ
射程不明だからね


世上から聞き出したいことは
生贄をどこで調達したか
生贄の詳細(名前や身元)
箱がディアボロのようなものなら、悪魔と手を組んでいると思うから、その情報

独善とか世上要の主張は特にどうでもいいけど
死ぬ前に言いたいこと全部吐いてもらって
すっきりして逝ってくれるといいね

「信田華葉が情報提供してくれたけど、売られちゃったのかな?
お返しで、信田の隠し事をばらしちゃえば?」

フェンリル・遠石 一千風(jb3845)
大学部1年5組 女 
目的:
コトリバコとその研究を処分
心情:
信田さんの事件はどうしてこう吐き気のするものばかり。
その掌で踊っていても、撃退士として必ず箱を止めてみせる。
行動:
事前に仲間全員で廃村の地図を広げて、探索ルートを把握する。

廃村の箱を捜索。糸やスイッチのような仕掛けもないかどうか。
人の通りそうな道、橋、門や扉は可能性が高いので、注意。
箱を見つけたら、仲間に連絡。緊急時以外は一人で解呪に挑まない。
仲間が解呪に挑んでいる最中は、
十分に距離をとって世上の襲撃に備えて弓持ち警戒。

出来れば箱の無い安全な民家や広い場所まで誘導したい。
ダミーの箱の解呪に失敗した振りで悲鳴と共に倒れれば釣り出せないか。

最悪突入も検討。

世上が現れたら、隙をついて急接近。
「薙ぎ払い」で動きを止めつつ、持っているだろう箱を奪う。
隙は世上と語らせながら探す。
「殺人鬼」「犯罪者」とこちらが勝手なレッテルを貼ろうとすれば、大きく反応してくれるだろうか。
こっちに攻撃してくるなら「逆風を行く者」で掻い潜って間合いを詰めたい。

世上を捕らえたら、一応箱の個数を聞いておく。
答えがなんであれ、廃村中の箱を捜索し研究を完膚無きまで壊す。

憎悪の扇動者・牙撃鉄鳴(jb5667)
大学部5年3組 男 
アドリブ歓迎

実に独善的だな
それはまぁいい
人間が愚昧なのは同意するし、間引く必要もあるのかもしれないが、それを『正義』などと語りながらやるのが気に入らん
どんな理由であれ殺しに正義などない
やるなら自分が『悪』だと自覚することだ

奇襲に備えて飛行しつつサーチトラップで箱の場所に目安を付ける
普通の爆弾と違い、呪いという観点から対象を選べると予想、爆発しないよう慎重に扱う

世上が潜んでいるところに研究所があると予想
研究の破壊は世上を撃破してから行う

箱は安全を確認できた民家に集める

世上要が出てきたら撃破を優先
マーキングを使用し、敵射程外の上空から狙撃
敵が建物に入ったらマーキングを頼りに建物を撃ち抜いて狙撃

敵の武器に侵蝕弾頭
脆くしたところを射撃して破壊する

箱が武器として使われるのを警戒し、取り出した時は箱をワイヤーで縛って開封させないようにしつつ奪取

戦闘中も隙があればサーチトラップで箱の捜索を続け、任意での起爆を警戒し近づかないようにする

トドメは心臓に2発、脳天に1発撃ちこんで確実に殺る
「貴様の考えは理解できる。だが、自分は間引く側だとでも思ったか?」

そう。自分も含めてこの世はどうしようもなく愚昧で醜い
だからこそ俺は世直しなど考えていない
綺麗なものだけで成り立つ世界など、そのほうが気持ち悪い
美点があり汚点がある
それが正常な世界というやつだ

それにあいつの考えが正しいなら、俺もいずれ間引かれるだろうよ

にゃんこ騎士・九鬼 龍磨(jb8028)
大学部5年7組 男 
「この手合いはなぜか最初に、安全地帯から弱者を狙うよね」
『聖女』の人々を思い出す。知る限りの信徒達、ツェツィーリア、外奪さん、ゐのりちゃん、猛鉄、それに烈鉄くん。
みんな、傷つくことも死ぬことも恐れない戦士だった。だから僕、彼らを嫌いになれなかった。

今対峙しようとしてるのは、決して『戦士』ではない気がするんだ。


>行動
※PC間齟齬はPC有利になるよう調整

女性PCを率先して守れるような位置を取り、世上を捜索・釣り出し
箱は発見次第他PCと協力して安全なところへ。箱のデザインも注視して呪いの強度を調べておく。

戦闘に入った際には世上の視線に気を配り、箱の破壊をされないよう気をつける
世上の魔具や箱による味方への攻撃は庇護の翼を使用(スキル残数0で防壁陣→蜥蜴陣→シールド→不動と入替え使用)
余裕があれば駄津撃ちで手元を狙い、魔具の取り落とし・破壊を試みる
世上に大きく隙が出来た際はストラングルチェーンを活性化、素早く確実に体の自由を奪う

残生命力40%で並渦虫使用、全て使い切り次第不落の守護者を活性化

解呪の際は周囲に被害が及ばぬよう、可能な限り安全な状況と位置で行う。
聖なる刻印を自分に使用、イッポウ・ニホウを中心に解呪


童の一種・逢見仙也(jc1616)
高等部3年1組 男 
コトリバコというより使い捨ての呪詛爆弾か
…学園に撒かれたらどっちの方がやばいだろうなぁ

杖装備で箱の解除をしつつ捜索を優先
戦闘の補助に回る
箱探しは掘り返された、埋められたなどで土の様子が変わっている場所
埃の有無等何かが動いた形跡がある場所を中心に探す

ある程度片付けたら盾に持ち替えてバッシュやバフスキルで補助に回る
ダメージは盾で防御
相手に自爆の用意があるなら近ければシールドバッシュで妨害
箱が飛んだら落ちて壊れない様に自分か誰かにとってもらう
遠ければ味方に庇護の翼
手の届く範囲なら守って次へ繋ぐ
ハッカイだろうと大怪我だろうとまあその方がいいなら仕方なし

そも呪いだと言うならそんな使い方認めん
自爆兵器として使ったから敵に大損害なんて呪術師が呪い舐めんな

終了後は回復スキルで治療後、動ければ聖なる刻印も併用しつつ杖で残りの箱解除
呪術由来なら残りそうだしなあ、後始末までが必要だろうし



リプレイ本文


 死。

 廃村に足を踏み入れた瞬間、感じたのは絶望的な死の臭いだった。
 朽ち果てた建物、打ち捨てられた古い車、ざあざあ流れる川の音。
 ただそれだけなのに、ありとあらゆる死という概念を流し込んで煮詰めたような、そんな気配に満ちた世界。

 ――どうして、こう、吐き気のするものばかり。
 電話越しの飄々とした声を思い出して、遠石 一千風(jb3845)は拳を強く握りしめた。



 空は曇天。風はなくて湿気った空気が停滞している。
 立っているだけで黴が生えてきそうな陰鬱さ。強く流れる川の音だけが鼓膜を打つ。

「その道は罠だらけだな」
 しかし気にした風もなく、牙撃鉄鳴(jb5667)は簡潔に言った。

 この村は道と廃屋だけで構成されている。中央に通り道が走っており、東西に四軒ずつ家屋があるという配置だ。
 恐らく小学校のグラウンドほどの広さもないのだろう、かなりせせこましい印象を受ける。周囲を鬱蒼とした森に囲まれているから余計にだ。
 かつては田畑もあったのだろうが、そういった生活の痕跡はすっかり自然に呑まれてしまっている。
 朽ち果てた旧式の車と、切り倒されて苔むした丸太だけが、かろうじて文明の名残だった。

「数は分かる?」
 ケイ・リヒャルト(ja0004)の問いに、鉄鳴はゆるく首を振る。
「範囲外を数えた方が早い」
 けして広くない道に放たれた探知のアウルは、数えるのも億劫になる結果を返してきた。
 コトリバコが罠として仕掛けられている可能性を、あの『先輩』は匂わせてきた。世上要がそういった搦め手を好むということも。
「そう……つまり地雷原ってことね」
 ケイは嘆息した。
 推測するまでもなく、コトリバコは目の前にたくさん埋まっているということだろう。

 元ネタの『コトリバコ』なら効果も女子供に限られるかもしれない。
 しかし今相対しているのは、あくまで怪談を下敷きにしたオカルト爆弾なのだ。事件の被害者に男性も含まれている以上、誰にでも効果があるものと見てかかるべきである。

「それじゃあ、土の色を見て動けばいいんだね」
 あどけない声で、Robin redbreast(jb2203)が何でもないことのように言う。
 確かに目を凝らしてみれば、地面がうっすら斑模様になっている。そこを踏まなければ問題はないだろう。
「けど、いくつか潰しておかないと。いざという時動けない」
 逢見仙也(jc1616)が杖を取り出しながら言う。――戦闘時に足下を気にしている余裕があるかどうかが問題だった。
「外に釣り出すのはやめた方がいいかな? 鉄鳴くん、家の中は?」
 盾を構えた九鬼 龍磨(jb8028)の問いに、鉄鳴はやはり淡々と言い放った。

「――どの家にも仕込んであるな。周到だ」

 『サーチトラップ』はその特性上、複雑な罠は見抜けない。どこに基準を置くかは個人差があるが、おおむねトラップとしての完成度が高いものほど読み取れない。
 今回の結果はその逆だ。『単純な罠が山のように引っかかる』。質より量の大量生産ということだ。

「つまり、何発かは覚悟した方がいいってことだね……」
 龍磨は盾をぐっと握りしめ、一歩を踏み出す。


「……それにしても、要自身はどうやって移動するつもりかしら?」
 ふと挟まれたケイの疑問に、翼を展開した鉄鳴が答える。
「爆弾ではなく呪詛の類だ。この様子だと、仕掛けた本人には効果が無いように調整しているのかもな」
「なるほど。自爆は望み薄ってわけね」

 斑色の地面。朽ちた家々。
 その中には圧倒的な死の塊が山と積まれている。
 すぐ近くに見えている村の奥が、果てしなく遠く映った。



 探索は、仙也と龍磨を先頭に据えて行われることになった。
 二人とも男性で、なおかつ魔法に対する抵抗力が高い。不測の事態には『庇護の翼』によるカバーリングで対処する。
 地道に慎重を期して、六人の撃退士は廃村に乗り込んでいく。


 数歩歩くと、すぐに土の色が変わっていた。風化してはいるが、掘り返した痕跡だろうと思われる。
 仙也は丁寧にそれを掘り返してみた。

 案の定。
 土を被ってなお、場違いなまでに装飾された箱が姿を現した。
「これか」
 軽く触れてみる――それだけで、悪寒が背中を駆け抜けた。間違いない。これがコトリバコだろう。
 血の臭いはしない、ぱっと見ただけでは凡庸な箱。けれど、確かに禍々しい。
 仙也は精神を集中させると、解呪を試みた。


 それを見て、一千風はそっと距離を取る。誤爆を防ぐためだ。まだ程度が分からない以上、女性である一千風はリスクを負うべきではない。
 代わりに廃屋をそっと確かめる。
 前時代的な作りの家屋は、もはやあばら屋と化していた。触れば今にも崩れそうなほど、脆い。
 人が住まなくなった家は急速に滅びるというが、これではまるで白骨死体のような、

「……!」
 扉に手をかける直前で気がついた。
 糸が扉の板に結わえ付けられている。比較的新しい、裁縫用の糸。それがどこに繋がっているのかは分からなかったが、何を目的としているのかは自明だった。
 家にも罠があると鉄鳴は言った。
「なんて執拗な……」
 回り込んでみても結果は同じ。窓にもやはり糸の影が見える。
 中は死の臭いに満ちている。


 ――何を考えているのかしら。
 一千風とは別の家に聞き耳を立てながら、ケイはそんなことをふと思った。
 未だに姿を見せようとしない世上要のこともそうだし、この状況を作った信田華葉のこともそうだった。

 三つ目の家を探る。――気配はない。ぞっとするほど何も聞こえない。聞こえてくるのは川の音だけ。
 コトリバコには生贄が必要だという。ならば捕らえた人質がいるのかと思ったが、どうもその気配すら感じない。
 鋭敏にした聴覚は、確かに『自分達以外の誰か』がいる気配を聞き取ってはいる。
 けれど大した動きが見えない。それが要だとして、まさかこちらに気づいていないのだろうか?

 そもそも。この状況だけを見るなら、『犯罪者を摘発したので解決を依頼された』という形になる。
 もし信田華葉が『聖女』の残党だとしたら、どうしようもない利敵行為だ。行動原理が破綻している。
 ――何を成そうとしているの?
 今考えることではないかもしれない。だが、放置できない違和感だった。


「きりがないね」
 不意にRobinがそんなことを言った。その手にはコトリバコが乗っている。
「あ、あれ、いつの間に?」
 そういえばいつの間にか姿が見えなかったと龍磨は慌てるが、Robinはけろっとしたものである。
「大丈夫、解呪出来たから。強さの目印も分かったし」
 言って、Robinは箱の装飾を指で突く。そこには二本の線が交差して、ちょうど「+」のような形になっている。
「この線の数で強さを分けているみたい。これは二つだからニホウだね。埋まってるのはイッポウとニホウがほとんどみたい」
 口ぶりから察するに、もういくつか解呪を済ませたということだろう。効果覿面なはずの『少女』であるRobinが積極的に解呪しているのは、なんだかとても皮肉な構図だった。
「にはは……それはいいんだけど、やる前に言って欲しかったなあ」
「うん、ちょっとね」
 Robinはにこりと笑う。そして、何事か龍磨に耳打ちした。


 そして。
「ごっこ遊びに付き合うのもばからしいから、もう済ませちゃおうよ」
 大きな声で、言った。



 沈黙。要への挑発は――どうやらまだ空振りらしい。

「そうね。怪談を実際に試すなんて、小学生じゃないんだから」
 次いだのはケイだった。
 既に東側の廃墟を調べて、中に誰もいないのは確認済みである。であれば、西側のどれか――じわじわ奥に詰めているのだから、一番奥の家と見ていいだろう。

「そろそろ観念して出てきたらどうだ、殺人鬼! お前がやっているのは、ただの卑劣な犯罪だ!」
 一千風が叫ぶ。いくらかの本音を乗せて、怒号が廃村に響き渡る。
 あれだけ『正義』とやらを主張していた相手だ。レッテルを貼り付けてやれば怒りもするだろうと踏んだ。

 ――けれども、やはり反応がない。

「野垂れ死んでたりしないよな?」
 仙也のぼやきに、ケイは首を振って否定する。
「いいえ、誰かがいるのは間違いないわ」
「……じゃあ、乗り込むしかないってこと」

 沈黙が降りる。
 ざあざあと川の流れる音が聞こえる。
 朽ちた扉は、どことなく手招きしているような錯覚がした。

「仕方ない、俺が開ける。フォローは頼んだ」
「……分かった」
 仙也が扉に手をかける。龍磨は頷いて全員を下がらせた。

 どの家にも罠が仕掛けられていることは確認した。ならば、当然ここも例外ではあるまい。
 いや。分かっているからこそ、なおさら強烈な圧迫感を感じた。

 意を決して扉を開く。


 瞬間、目に見えるほどの『ナニカ』が、扉から溢れだした。



 何か。何かは何かとしか言えない。どす黒いオーラのような、もやのような、瘴気のような、そんなものが廃墟を丸ごと包み込んだ。
「――づ……」
 ぐらり。
 盾で凌ぐも、思わずバランス感覚が崩れてしまう。そのくらい圧倒的な質量が仙也の身体に襲いかかった。

「っ!」
 爆弾。世間ではそう例えられていた。良くないことに、実に正鵠を射ていたらしい。
 容赦なく後ろに下がった面々にまで被害が及ぶ。龍磨はとっさに庇護の翼を広げて女性陣を庇った。

 身体中の精気を毟り取られるような錯覚。血が凍り、脳髄が痺れ、脊髄が反射する。
「逢見さん! 九鬼さん!」
 一千風が思わず叫ぶ。
 龍磨は遠くなる意識をなんとか握りしめると、自身の代謝を瞬間的に活性化させた。
「だい、じょうぶ……」
 神経に叩き込まれた呪いを強制的にシャットダウン。汚染された血液を排出。骨髄をフル稼働させて補填。
 結果として喀血するという図になったが、なんとか重症は免れた。

「チ――確定で最大火力か。趣味が悪い」
 悪態をつく。それでも仙也は耐えきった。


 ぱちぱちぱち。
 拍手の音がした。


「いや、普通に耐えられるとはね。正直侮ってたよ。今時の後輩はすごいねえ」
 軽薄な、ICレコーダーから聞こえたあの声だった。



 世上要は、廃墟の奥にゆったりと腰掛けていた。
 ――山と積まれたコトリバコに囲まれて、悠然と待ち構えていた。

「動くな! 指一本動かしたら切り落とす!」
 その意味に行き当たって、一千風が吼える。だが要は、
「切り落とす、ってどこを? やだ、怖い怖い」
 おどけるようにひらひらと手を振る。
「ふざけるな! こんなことが許されるとでも!?」
「許されるよ。当たり前じゃん」
 まるで会話が通じない。

 ケイは一千風を手で制すると、しかし容赦なく銃を突きつけた。
「――一応確認するわ。武器を捨てて投降しなさい」
「おかしなことを言うね。まるで犯人に対峙した警察だ」
「間違いなく犯罪者に対峙した撃退士よ。あなた、頭大丈夫?」
 処置なし。信田華葉絡みで何度か相対した、『根本的にズレている』手合いだと確信した。

 人間のような何か。とはいえ、一千風にはまだ躊躇があった。
 撃退士の力。天魔から人々を守るために授かった異能。それをいくら大量殺人犯とはいえ、人間に向けるのは。

 Robinが口を開いた。
「ねえ、どこの悪魔の差し金?」
「は?」
 意外にも、これに対して要は食いついた。
「だってその箱、ディアボロだよね?」
「違う違う。正真正銘、人間の力で作り上げた代物だよ。何でもかんでも天魔のせいっていうのはちょっと時代遅れだって」
 開き直るのとも違う。むしろどこか誇らしげに、世上要は言い放った。

 限界だった。
「何人――何人殺した!」
 思わず漏れた一千風の怒りに、

「『お前は今まで食べたパンの数を覚えているのか?』」
 嬉々として、そう答えた。



 一千風が飛び込むのと、要が腕を振るうのはほぼ同時だった。
 世上要の現役時代はダアト。それなら、得意な攻撃は遠距離魔法攻撃。そして得物は魔導書――

 先んじてケイの銃弾が本を撃ち抜く。腐食の弾丸は間違いなくV兵器を蝕む。要の魔法はあさっての方向へ、

 コトリバコに着弾した。
 部屋に呪いが溢れ出す。密閉空間では避ける手段もなく、

「まだまだ!」
 龍磨と仙也が庇いに入る。先ほどよりも弱い箱だったのだろう、倒れるには至らない。

 そして、吹きすさぶ呪いの逆風を一千風は踏破した。
 阿修羅の膂力を以て、一瞬で世上要への距離を詰める。そしてそのヘラついた顔を、全力で殴り飛ばした。


 いや、殴り飛ばした、のだが。

 ――軽い。
 受け身を取られたかのような。手応えの違和感に気づくより早く、吹き飛ばされた要は廃屋の壁に叩きつけられた。

 すると、くり抜かれたように綺麗に壁が抜けた。そしてそのまま『背後の川』へ落ちていく。
 川の流れは速い。木の板は軽い。要は器用に板の上に乗ると、川上に向かって魔法を構えた。

「な――」
 遊園地のアトラクションを思い出す。アレがやろうとしているのは、

「ばいばーい」
 水流のジェットコースター。要は魔法を推進力にして、一瞬のうちに視界から消えた。



 世上要は元撃退士である。故に、撃退士に対しての戦力計算はすぐに終わった。
 結論。勝ち目がない。
 所詮引退した身である要にとって、最前線で戦う撃退士が六人。相手になるはずがない。
 罠をいくら仕込んだところで、時間稼ぎにしかならないだろう。今の戦争は、自分がいた頃よりも遥かに激化しているのだから。

 だから、逃げることに注力した。正面突破が不可能なら、とにかくこの廃屋にまで引きつけて、一か八かの逃亡劇。
 その僅かな可能性にかけた。

 その結果が、


「……うん。一人、足りないとは思ってた、んだ」

 川下。村の入り口付近。
 勢いを付けて下った結果、そこにあったのは『川をまたいで置いてある廃車と丸太』だった。
 気づいたときにはもはや手遅れで、あえなく正面衝突。車の部品が見事に土手っ腹をぶち抜いた。

 鉄鳴は、磔になった要のその心臓に、容赦なくレールガンを突きつけた。

「躊躇いなく逃げを選ぶのは悪くない。が、そんな手を想定していないはずがないだろう」
 Robinが思いつき、龍磨と協力して設置した『保険』。鉄鳴は上空からその意図を察し、敢えて待機を続けた。
「遺言があるなら聞いてやる。例えば貴様を売った信田華葉への意趣返しとかな」
「へえ、意外と、優しいんだ」
 けれど、要はふるふると首を振った。

「いや、申し訳ないけど。既に彼の目的は済んでいる、としか言えない」

 要領を得ない回答。けれど要とて、これ以上の事は答えられない。説明するには生命力がもう足りない。

「そうか」
 そして鉄鳴は容赦なく、弾を三発撃ち込んだ。心臓に二発、脳天に一発。

 正直な話。鉄鳴にも世上要の言い分は理解できてしまった。
 ただそれを『正義』などと宣うのが我慢ならなかっただけ。
 清濁併せ持って世界は成り立つ。綺麗なだけの世界などあり得ない。

 人殺しは『悪』である。たったそれだけの話だった。


依頼結果/参加キャラクター

依頼成功度:普通面白かった!:5人
MVP一覧
 バラクラバー・Robin redbreast(jb2203)
 童の一種・逢見仙也(jc1616)
重体一覧
 −

月夜に歌う・
ケイ・リヒャルト(ja0004)

大学部3年6組 女 インフィルトレイター
バラクラバー・
Robin redbreast(jb2203)

高等部3年1組 女 ナイトウォーカー
フェンリル・
遠石 一千風(jb3845)

大学部1年5組 女 阿修羅
憎悪の扇動者・
牙撃鉄鳴(jb5667)

大学部5年3組 男 インフィルトレイター
にゃんこ騎士・
九鬼 龍磨(jb8028)

大学部5年7組 男 ディバインナイト
童の一種・
逢見仙也(jc1616)

高等部3年1組 男 ディバインナイト


依頼相談掲示板

箱を鎮めよ【相談卓】
九鬼 龍磨(jb8028)|大学部5年7組|男|ディ
最終発言日時:2016年12月26日 13:24
狐と語らう【質問卓】
九鬼 龍磨(jb8028)|大学部5年7組|男|ディ
最終発言日時:2016年12月25日 21:50
挨拶表明テーブル
宝井正博(jz0036)|教師0組|男|一般
最終発言日時:2016年12月22日 18:45


リプレイ投票

このリプレイが面白かったと感じた人は下のボタンを押してみましょう!
投票1回につき1ポイントを消費しますが、1回投票する毎に1,000久遠プレゼント!
あなたの投票がマスターの活力につながります。

現在のあなたのポイント:0







推奨環境:Internet Explorer7, FireFox3.6以上のブラウザ