一般研究発表(ポスター)
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観察者と行為者との関係性が観察者羞恥に与える影響 発表番号 : 2EV-1-016
1:就実大学
目的
「恥ずかしさ」は,自分の欠点や過失について他人の目を気にする際などに生じ,主として,自分の行動を原因とする。しかし,自分の行動以外の原因で恥ずかしさを感じることがある。典型的な例としては,羞恥行為をした行為者の行動をみて,行為者以外の人物が恥ずかしさを感じるような場合である。Miller(1987)は、このような羞恥感情を共感性を媒介とする羞恥感情として位置づけ,共感的羞恥と呼んだ。しかし,桑村(2010)によれば,人の行為を見て喚起される羞恥感情とは,必ずしも行為者の感情に共感して喚起するものではないとし,「観察者羞恥」と名付けている。 桑村(2010)は,観察者羞恥の喚起理由には「同類と思われる」「イメージ低下」「見てはいけないものを見てしまった」等,複数の理由があることを示したが,羞恥場面との関係は不明確であった。また,桑村(2009)は,観察者羞恥場面における観察者と行為者との心理的距離が近くなるほど,羞恥が喚起されやすいことを示した。 そこで本研究では,観察者と行為者との関係性と,観察者羞恥の喚起理由や感情内容との関連を検討することを目的とする。また,羞恥場面の種類による喚起理由や感情内容の差異も合わせて検討を行う。 方法 調査対象者 私立大学の大学生 166名(男性 31 名,女性 135名)。大学の講義時間中に質問紙を配布し集団実施した。 調査時期 2012年 10 月下旬~ 11 月上旬 質問紙の構成 1. 観察者羞恥場面についての記述(自由) 2. 観察者羞恥場面の行為と関係 観察者羞恥場面の行為者との関係について回答を求めた。 3. 観察者羞恥場面行為との心理的距離(5件法) 4. 観察者羞恥の行為自身程度推測(6件法) 5. 観察者羞恥場面における喚起理由 桑村(2010)が用いた,「自分も同類と思われるから」「見てはいけないものを見しまったと思うから」「その人の姿を自分に置き換えると恥ずかしいから」「姿を置きかえる」「今まで築上げたイメージが下るから」に,「その人の気持ちを考えると恥ずかしいら」を加えた5つの喚起理由を設定した(6件法)。 6. 観察者羞恥場面での感情(20 項目,4件法) 大学生 4名と著者により,さまざまな羞恥場面で喚起される感情について 20項目選定した。 7. フェイスシート 結果と考察 観察者羞恥場面の分類と感情の整理 観察者羞恥場面についての自由記述をKJ法によって分類した結果,「マナー違反」「失敗」「温度差行動」「服装」等の13場面に分類された。また,喚起される感情項目を因子分析した結果,「羞恥」「怒り」の2因子を抽出した。 行為者との関係による喚起理由および喚起感情の違い 羞恥場面の行為者が「家族」「友人」「見知らぬ人」である場合に喚起理由がどのように異なるかを検討すため,喚起理由項目を従属変数とする1要因分散分析を行った。「同類と思われる」の得点について,「家族」友人群の得点は「見知らぬ人」群の得点より,有意水準0.1%で有意に高いことが明らかになった。また,「姿を置きかえる」の得点について,5%水準で有意差がみられた。 同様に羞恥場面の行為者が「家族」「友人」「見知らぬ人」である場合に喚起感情がどのように異なるかを検討すために,喚起感情の2因子「羞恥」「怒り」の得点を算出し,これらを従属変数とする1要因分散分析を行った。その結果,「羞恥」における「家族」群の得点は「見知らぬ人」より,有意水準1%で有意に高いことが明らかなった。また,「怒り」における「見知らぬ人」群の得点は「友人」群の得点より,有意水準1%で有意に高いことが明らかなった。 観察者羞恥場面による喚起理由および喚起感情の違い 観察者羞恥場面の種類によって喚起理由や感情がどのように異なるかを検討すために,関連項目の平均値の差の検定を行った。その結果,「失敗」や「服装」場面においては「マナー違反」よりも「見てはいけない」と感じやすく,「マナー違反」や「温度差行動」では,「気持ちを考える」という喚起理由が喚起することが明らかなった。また,「マナー違反」や「温度差行動」では,「失敗」や「服装」よりも「羞恥」と同時に「怒り」を喚起しやすいことが明らかなった。 行為者の関係性と場面との交互作用 行為者の関係性と場面との交互作用を検討するため,「マナー違反」「失敗」場面における行為者が「友人」である場合と「見知らぬ人」である場合との喚起理由の平均の差の検定を行った。その結果,「友人」の「マナー違反」や「失敗」場面のほうが「見知らぬ人」の時よりも,「同類と思われる」と感じやすことが明らかになった。また,喚起感情についても同様の分析を行った。その結果,「マナー違反」場面では,「見知らぬ人」のほうが「怒り」を喚起しやすいことが明らかなった。 本研究から,観察者羞恥は,心理的距離の近い行為者では,周りを気にするような喚起理由により生じ,心理的距離の遠い行為者では共感的な喚起理由により生じることが明らかなった。また,観察者羞恥場面においては、行為者が行為をコントロールできるものか,偶発的なものかによって喚起理由や喚起感情が異なることが明らかとなった。また,心理的距離や羞恥場面などの関連要因の相互作用についても検討する必要性が示された。 |
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