発達障害の子どもの支援計画 半数余の学校など未作成

コミュニケーションがうまくとれないなど、発達障害のある子どもへの支援の現状について、総務省が初めて全国の学校や保育所の抽出調査を行った結果、学習指導要領などで定められた、子ども一人一人に対する支援計画が半数余りで作成されておらず、十分な支援が行われていない実態が明らかになりました。
発達障害は、コミュニケーションがうまくとれなかったり、物事に集中できずじっとしていられなかったりする障害で、平成17年に支援の在り方を定めた発達障害者支援法が施行され、その3年後には、学習指導要領などで、学校側が子ども一人一人に対する長期的な支援計画を作成することが定められました。

総務省行政評価局は、法律の施行から10年となったおととし、19の都道府県の合わせて116の学校や保育所などを抽出して、支援の現状について初めて調査を行いました。
その結果、半数余りで支援計画が作成されておらず、十分な支援が行われていない実態が明らかになりました。

支援計画は、学校が子どもや保護者と話し合いながら、支援の方針を具体的に決めたり見直したりするもので、進学や転校の際には次の学校に引き継がれますが、調査では、計画がなく、継続的な支援が受けられなかったことで、いじめや不登校につながったと見られるケースもあったということです。

背景には、学校現場で計画の重要性についての理解が進んでいないことなどがあるということで、総務省は今週中にも文部科学省や厚生労働省に対し、取り組み状況を改善するよう勧告する方針です。

「多様性を認めた支援を」

千葉県浦安市の中学3年生、野中宏太郎さんは、小学2年生のときに学習障害などの発達障害と診断されました。
授業のノートをまとめるのが苦手なほか、物事に集中できないという障害もあり、授業中、担任や同級生とコミュニケーションがとれずに、パニックになったこともあったということです。

母親の美保さんは、支援を求めて何度も小学校に足を運び、相談を繰り返しましたが、障害についてなかなか理解してもらえず、クラスで孤立する状況は変わらなかったと言います。

美保さんによりますと、宏太郎さんの支援計画について小学校から説明を受けたことはなく、話し合いの場が設けられたこともなかったということです。
また、中学校に進学した際には、障害についての引き継ぎも十分に行われていなかったということです。

宏太郎さんは「友達にからかわれたり先生に怒られたりして、自分は困った問題児なんだと思っていました。『学校がすべてじゃない』と自分に言い聞かせていましたが、心の中ではずっと『居場所が欲しい』と思っていました」と振り返りました。

その後、中学校では、障害について担任と話す機会が少しずつ増えているということで、宏太郎さんは「視力がない人が眼鏡を掛けたり、足のない人が義足を履くように、僕たちの特徴は個性の延長線上にあると思っています。僕のような特徴を持った子どもたちはたくさんいます。画一的な学校生活という『同じ箱』に詰め込もうとするのではなく、一人一人が置かれている状況に目を向け、多様性を認めた支援を考えてほしいです」と話しています。

また母親の美保さんは「子どもにどのような進路や支援があるのかを知りたかったが、具体的な支援の方針が見えない中、時間だけが経過しました。学校も保護者も、子どもの未来を真剣に考えたいという気持ちは同じだと思うので、もっと情報共有できる場を設ければ、子どもを責めることなく、将来の道を開くことができると思います。具体的な支援の方法を一緒に考えてほしいです」と話しています。

専門家「国の方向性漠然 教師も戸惑い」

発達障害の子どもへの支援活動に取り組む、東京大学先端科学技術研究センターの中邑賢龍教授は、「教師と保護者が、指導方法や進路、それに子どもの悩みなどを共有し、議論するためにも、支援計画は必要だ。しかし、発達障害の特徴は幅広く、現場の教師もどう支援していいのか苦しんでいるのではないか。また、どのように支援計画を立てるのか、国の方向性も漠然としていて、戸惑っている教師もいる」と指摘しています。

そのうえで、「学校での対応に限界があるというのであれば、大学やNPOなどと連携して、子どもを支援する体制作りを進めるべきではないか。さらに、地域全体で子どもたちを支援して、発達障害の子どもたちがそれぞれの特徴に合わせて自由に学べる仕組み、教育の多様性を実現しなければいけない」と述べました。